ラグビーのスカウトはどこを見るのか? リーグワン王者が重視するもの
日本代表でも活躍するリーチ マイケル。札幌山の手高校から東海大学を経て、東芝ブレイブルーパス東京に入団した 【写真:アフロ】
日本のラグビー界は主に高校から大学に進学し、その後に最高峰のジャパンラグビーリーグワンに進むことが多く、リーグワンにはプロ契約選手と社員選手が混在している。各クラブは選手のどこを見て採用を行うのだろうか?昨季のリーグワン王者・東芝ブレイブルーパス東京(以下、BL東京)のアシスタントGM兼採用の藤井淳氏に話を聞いた。
自分の体をうまく使えているか?
ひとつは高校とリーグワンではコンタクトレベルの差が大きいことが挙げられます。ラグビーは野球やサッカー以上に体をぶつけ合う機会が多いので、やはり体格差の影響が大きくなります。
例えば、高校生でも体重100キロの選手は存在しますが、リーグワンの体重100キロの選手とは強度において大きな差があります。それはリーグワンの選手は質の高いトレーニングや栄養摂取、経験などがすべて実になっているから差が生まれるのです。
また、リーグワンに入ってすぐにレギュラーになるのは難しく、試合経験を積むには大学の方が向いていることも理由のひとつです。そして、ラグビーにおいては大学から社会人でプレーし、引退後は社業に専念するケースが多いので、ご両親を含めて大学に進んだ方が良い……という結論になっているのだと思います。
――藤井さんは昨季から採用に携わっていますが、選手のどこを見ているのでしょうか?
ラグビーの質を見ています。ポジションごとの違いもあるのですが、スキルが高い、サイズが大きい、タックルが強い……などの一芸に秀でているとやはり目につきます。
学生時代に苦手なプレーがある選手でも、それ以上の魅力があれば声をかけることもあります。
――ラグビーは体重100キロを超えるFW第1列からスピードのあるバックスリー(WTB、FBの3人)まで、さまざまな選手がいてチェックが大変だと思いますが、その中で目につく選手に共通項はありますか?
1000人以上の選手を見ているのでやはり大変ですが、身体能力や瞬発力、そして自分の体をうまく使えているか?という点を見ています。
体が小さくてもコンタクトが強い選手というのは、自分がどのタイミングで体のどこで当たれば良いのかを理解していて、自分のパワーやスピードを生かすことができています。
高校や大学で「体格の差を生かして正面からぶち当たって相手を吹き飛ばす」というプレーは派手ですが、そのプレーはリーグワンでは通用しないので、自分を理解してラグビーに向き合っている選手に魅力を感じます。
大学ラグビーを経験するメリットはある?
明治大・海老澤琥珀は身長173センチと小柄だが、体格の差を感じさせずに活躍している 【写真:つのだよしお/アフロ】
もちろんサイズもひとつの要素ですが、体と頭がリンクしているかどうかが重要です。早稲田大1年のWTB田中健想選手は身長172センチですが、フットワークを使って相手の弱いところに当たっているのであれだけのパフォーマンスができています。明治大2年のWTB海老澤琥珀選手も身長173センチですが、同じように体格の差を感じさせずに活躍しています。
BL東京のLOワーナー・ディアンズ選手は身長202センチ、体重124キロという体格があり、流経大柏高校から直接リーグワン入りし、日本代表でも中心選手になりました。ディアンズ選手はあのサイズがあっても正面から当たるだけではなく、懐の深さを生かすプレーができますし、フットワークも使えます。彼はすべてがそろった特別な選手と言えるでしょう。
――海外の強豪国では18歳や19歳で代表入りする選手もいます。日本は大学ラグビーを挟むことでレベルアップを妨げているという意見もありますが、大学ラグビーについてはどのように感じていらっしゃいますか?
ディアンズ選手や埼玉パナソニックワイルドナイツのFL福井翔大選手(東福岡高校出身)のように、“数年に一度”の選手がリーグワンに入ることは意味があると思いますが、大学ラグビーにもメリットがあると思います。
大学で多くの試合をプレーできるのは大きいですし、勉強をしながら同世代の仲間と試行錯誤するのは成長に役立ちます。
学生主体でチームを引っ張る中で、失敗して、悩んで、みんなで相談して……というプロセスから学ぶことはきっとあるはずです。そうした貴重な経験は人間的成長につながると思います。
ラグビーという競技面から見ても、大学のコンタクトレベルを経験してからリーグワンに進むのは多くの選手にとってプラスだと思います。