サッカーと野球~プロスポーツにおけるコンバートの意義

「大谷翔平は外野手でGG賞を獲れる」 元メジャーリーガー田口壮が太鼓判

平尾類

外野からの送球で170キロ出るのではないか

投手として160キロ超の速球を投げ込む。外野から助走をつけて投げたら何キロ出るのだろうか 【Photo by Kevork Djansezian/Getty Images】

 田口氏は小学3年生から遊撃手一筋だったが、プロ3年目のシーズン途中に外野手に転向している。

「僕の場合は内野手をクビになったので(笑)。投げ方に特徴があって、肩の関節が柔らかかったので背中の後ろに入るスローイングだったんです。大学の監督に『(投げ方を)直されるかもしれんから気をつけろ』と言われたんですけど、プロ1年目の春季キャンプ初日から案の定いじられて。3日目から元に戻そうとしたけどダメでしたね。悪送球を繰り返してイップスになって、1日何百球も投げました。よく肩肘が持ったなと(笑)。

 外野に転向してからはすべての返球を全力で投げました。近い距離の場合は軽く投げて暴投になるのが怖いので、ボールを持ったまま走って内野に運んで。本西(厚博)さんに教えてもらって、打った瞬間に落下地点を予測・判断する作業を繰り返しました。全方向で目を切って判断した場所と実際の落下地点の誤差を埋めるんですけど、最初は全然うまくいかなかったです。練習でたくさんミスをして、徐々に感覚をつかめるようになりました」

 田口氏はイチロー氏、谷佳知氏と鉄壁の外野陣を形成し、ゴールデングラブ賞を5度受賞した。日本ハム時代の大谷は新人だった13年に54試合、2年目に8試合、外野手として出場しているが、田口氏は彼の外野の守備能力をどう分析するか。

「スピードがありますし、肩も強いので能力的には相当高いレベルにいくと思います。今年、59盗塁をしたじゃないですか。いろんなトレーニングをして、相手投手の癖を分析するなど熱心に研究したと思うんです。仮に外野の守備をやるとなったらその熱量で取り組むでしょう。ゴールドグラブ賞を獲れると思います。

 楽しみなのが外野からの送球ですね。投球で160キロ以上計測しているので、外野で助走をつけて投げたら170キロ出るんじゃないかなと。世界記録の球速を出して話題になるかもしれません」

 強肩、俊足と名外野手としての資質を持っている。ただ、メジャーの外野を守るのは難しさもあるという。

「米国の球場は建物の構造上、グラウンドに入ってくる風の通り道がいくつもあるんです。風の流れを読まなければいけません。

 特に難しかったのがフィリーズの本拠地(シチズンズ・バンク・パーク)でした。あの球場は風が不規則でレフトは本当に難しいです。イチローも落球しました。僕もレフト線に高いフライが上がったときに、目測より後ろに打球が落ちて。フィリーズで長くやっている選手も『この球場のレフトのフライは読めない。一番難しい』と話していました。

 個人的な考えですが、右利きの外野手が打球を捕球するのはレフトが一番難しいと思います。肩の強さを活かすためにも大谷選手はセンター、ライトのほうがハマると思います。打者の特徴、バットに当たった瞬間の打球の質、風を計算してどこに打球が落ちるかを判断しますが、練習や実戦を重ねれば大谷選手は十分に対応できると思います」

内野手のドリルをやってコツをつかめば二遊間もできる

大谷は大柄ながら瞬発力がある。資質的には二遊間もこなせると田口氏は見る 【Photo by Ronald Martinez/Getty Images】

 現実的な話ではないかもしれないが、大谷は二塁、遊撃ができるだろうか。田口氏は「内野手としてゴロをさばくイメージができないですけど」と苦笑いして続けた。

「内野手のドリルをやってコツをつかめば、できると思いますよ。大谷選手は体が大きいですけど瞬発力があります。カル・リプケンJr(元オリオールズ)、アレックス・ロドリゲス(元マリナーズ、ヤンキースほか)も身長190センチ以上の体格でショートを守っていましたしね。二遊間はメジャーでも全体的に体格が小さい選手が多いですが、身長の高さがハンデキャップにはならないと思います」

 大谷は球界の常識を覆す伝説を打ち立ててきた選手だけに、今後もロマンが広がる。来季は2年連続世界一を目指す大谷にどのような活躍を期待するか。

「打撃タイトルを総ナメにして、投手でサイ・ヤング賞を獲得してMVPを獲ってほしいですね。他の選手ならあり得ないですけど、大谷選手ならできるのではないかと思わせるのがすごい。バリー・ボンズは37歳で73本塁打の世界記録を樹立しましたが、その記録を超える可能性も十分にあります。打撃技術がこれからも上がっていきますし、どんなパフォーマンスを見せてくれるか、ファンの皆さんと楽しみにしています」

 投打の二刀流として、前人未到の領域を駆け抜ける。5年後、10年後……大谷はどのように進化しているか。守備位置を含め、現時点では想像できない姿で輝いているかもしれない。

(企画・編集/YOJI-GEN)

田口壮(たぐち・そう)

【撮影:平尾類】

1969年7月2日生まれ。西宮北高から関西学院大を経て、1991年ドラフト1位でオリックスに入団。1年目の開幕戦から遊撃手としてスタメン起用されたが、送球難に苦しみ、3年目に外野手に転向した。レフトのレギュラーポジションをつかんでからは外野の名手として鳴らし、95~97、2000、01年とゴールデングラブ賞を5度受賞。01年オフにFA権を行使し、MLBのカージナルスと契約。メジャーでは8年間プレーし、カージナルスとフィリーズでワールドシリーズ制覇も経験した。10年に復帰した古巣オリックスで2年間プレーして現役引退。日米通算20年間で1601安打を記録した。解説者などの活動を経て、16年から今季までオリックスで2軍監督や1軍コーチを務めた。

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著者プロフィール

1980年4月10日、神奈川県横浜市生まれ。スポーツ新聞に勤務していた当時はDeNA、巨人、ヤクルト、西武の担当記者を歴任。現在はライター、アスリートのマネジメント業などの活動をしている。

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