崖っぷちリーガー 徳島インディゴソックス、はぐれ者たちの再起

野村克也から学びレベルアップした茶野篤政 NPBスカウトへ猛アピール直後、チームに大激震

高田博史

大学教授から薦められた一冊の本

 目標をかなえるために何をすべきなのか。それを考え続ける姿勢は変わっていない。寝る前に読書をするのが趣味だと話す。

「寝る前に本を読むと集中するので。そういうなかで集中力というか、入り込む感覚を身に着けたいと思って」

 それはまさに、打席に入る前のスイッチを入れるためのトレーニングでもあった。

 小説を読むことが多いが、徳島に来てからは野村克也氏の本を読んでいるという。『「問いかけ」からすべて始まる』(野村克也著、詩想社新書)は、大学時代のゼミで担任だった石井正道教授(名古屋商科大経営学部)から薦められた。「野球でプロを目指します」とあいさつに行ったときのことだ。

「いまのお前にとって、読んだほうがええ本よ」

 そう言って、プレゼントされた一冊である。

「指導者としてのあり方みたいな本やったんです。答えをそのまま教えるんじゃなくて、それまでの過程を教えてあげて、あとは自分で考えさせろ、みたいな内容でした。なんでも指導者に聞きに行くのじゃなくて、自分でどうすればいいかな? って考えて、ダメだったら聞きに行って。それについて自分で考えて、また自分で工夫して……みたいな」

 その話を聞き、石井教授は「ちゃんと読んでくれたんだなあ」と安心している。

「野村さんの本は、これからプロ野球選手になる人にはホントにいいこと書いてるんだよね。ホントはもっと、いっぱい本を贈りたいんだけど……(笑)。野村さんがいいのは、いろんな人を育てて、どういう人が成長するか、どういう人が成長しないかって分かってるわけです。選手はこうするべきだっていうアドバイスが書いてある」

 失敗があったら、なぜ失敗したんだろう? うまく行ったら、なぜうまく行ったのか? 何が原因か? 自分で考えることができる。まず、それが基本としてなくてはいけない。茶野はそれができる人間だと、ゼミ生として2年間付き合ってみて実感した。

「自分で考えられるからね。自分で考えて、何をやっていくか? って考えられる。だからいいんじゃないかな、と俺は思うんだけどね」

 茶野はこの後、福岡へ遠征して行われた対ソフトバンク3軍7回戦(9月6日、タマホームスタジアム筑後)でも打ちまくる。瀧本将生から右翼へ2ラン、2本の二塁打を放つなど5打数4安打2打点1盗塁と結果を残し、春の遠征時の借りをきっちり返している。

 この日、タマホームスタジアム筑後のネット裏には、NPB各球団のスカウトが大勢訪れていた。

 徳島に激震が走ったのは、対ソフトバンク3軍8回戦(タマホームスタジアム筑後)を終えた翌早朝のことだった。チームに同行していた元子マネジャーは、突然かかってきた「久留米警察ですが……」という電話で目を覚ましている。

「選手を逮捕しました」
「え? そんなはずないでしょう! 選手はホテルで寝ているはずですが……」
「酒気帯び運転、信号無視の現行犯です」

 9月7日午前4時ごろ、パトロール中の警官が久留米市内の交差点を信号無視して走行する軽乗用車を発見。運転していた当時20歳の選手から基準値を超えるアルコールが検知され、現行犯逮捕された。ほかに選手2人も同乗していた。

 この事件を受けて四国リーグは翌9月8日、車を運転していた選手との契約を解除(除名)。同乗していた選手2人との契約も解除(除名)した。10日後の9月17日、徳島は8年ぶり3回目となる後期リーグ戦優勝を決めている。だが、不祥事を鑑み、歓喜の胴上げも優勝カップを抱え上げての歓喜の瞬間もない、静かな後期優勝となった。

書籍紹介

【画像提供:カンゼン】

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