崖っぷちリーガー 徳島インディゴソックス、はぐれ者たちの再起

徳島の地にプロ野球チームができた日 地元の声援、力をバックに新たな喜び生まれるも…

高田博史

県民の生きがいになった徳島球団

 2005年4月29日、記念すべき四国リーグの第一歩は、愛媛・松山から始まった。初めての公式戦、愛媛マンダリンパイレーツ対高知ファイティングドッグス1回戦が、坊っちゃんスタジアムで行われている。開幕セレモニーには対戦する2球団だけでなく、香川オリーブガイナーズ、徳島インディゴソックスの監督以下、選手全員がそろって観客の前でお披露目された。発表されたこの試合の公式観客数は、7067人である。

 徳島は翌30日、高松・オリーブスタジアム(現・レクザムスタジアム)で開幕戦を戦っている。香川に3対8で敗れ、黒星発進となったものの、高松にも4321人の観客が集まった。

 徳島のホームゲーム初戦は5月5日、鳴門総合運動公園野球場(現・オロナミンC球場)での対愛媛戦だ。スケジュールは非常に厳しい。5月3日、4日の2日間、松山で愛媛と2試合を行い、そのあと、徳島でホームゲーム4試合を行う6連戦の予定が組まれている(6日の試合は雨天中止)。

 鳴門での開幕戦当日は、演出にもかなり力が入っている。試合前セレモニーでは、グラウンドに選手が入場する際にスモークがたかれ、お祭りムードを盛り上げた。

 集まった観客の数はこちらも3947人と多く、独立リーグとしては大成功という結果を残している。しかし、集まった観客の多くはばらまかれた無料チケットを使って入場していた。

 新聞広告を見て鳴門球場に集まったボランティア希望者の数は、200人を超えている。だが、集まったはいいものの、一体何をしてもらえばいいのか、主催者側にも見当がつかない。

 専門学校を卒業し、徳島に戻ってきたばかりの橋本早紀は、母と一緒にボランティアがしたいと鳴門でのホームゲームにやってきた。当時、少し体調を崩していた母は、かつて選挙応援のウグイス嬢や、阿波踊りの場内アナウンスを務めた経験がある。試合のアナウンスをすることで、母のリハビリになればいいなと考えていた。さっそく放送室に入り、アナウンス業務を手伝っている。

 早紀は球審にボールを渡す「ボールガール」を担当することになった。この後、彼女はホットパンツ姿でグラウンドを駆け回る、名物ボランティアの「早紀ちゃん」となる。

 動き出したリーグ公式戦を運営するために、ボランティアの力は必要不可欠だった。各自が自分の得意なことを生かして試合を盛り上げようと、それぞれの持ち場で仕事をする。見ず知らずだったボランティアたちが仲良くなることに、さほど時間はかかっていない。

 グラウンド内でのバット引きやボールボーイ。また、ファウルゾーンに椅子を置き、NPBさながらにファウルボールを処理していたのは、川原忠雄監督率いる還暦野球の強豪「国府球友クラブ」の選手たちだ。

 球団からのオファーを受け、チームとしてボランティアに参加することを決めた。約20人の部員のなかから、10人程度が毎試合ボランティアとして参加する。そこには川原監督の姿はもちろん、妻・和子さんの姿もある。グラウンド内だけでなく、観客席にも彼らの姿がある。飛来するファウルボールに対し、観客に注意を促すための「笛吹き」などを担当している。

 いつしか「川原軍団」と呼ばれていた彼らは、すでに早紀とも仲がいい。

「川原軍団、きょうも元気やなあ(笑)」
「おお、早紀ちゃん! きょうもがんばろか!」

 早紀の本職は美容師である。普段の生活のままなら、川原軍団のような60代、70代の男性たちと知り合うことなどなかったかもしれない。ダッグアウトの横で球審にボールを運ぶタイミングを待ちながら、川原軍団の1人がポツリとこぼした言葉が強く印象に残っている。

「こんなわしらでも、役に立てることがあるんじゃなあ……」

 すでに仕事もリタイアしており、毎日が休日のようなのんびりとした生活のなかで、いまはただ、草野球をすることだけが楽しみだった。このまま老いていくんかいなあ……。そんなことを考えていたところに、プロ野球の運営を手伝うという、これまで想像もしていなかった新しいやりがいができた。

「ボランティアをすることで、自分たちの価値というか。存在意義みたいなものができたけん。ほれがすごいうれしいんじゃ―」

 ナイター照明に照らされた横顔に、柔らかな笑顔が浮かんでいた。

書籍紹介

【画像提供:カンゼン】

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