菅原由勢が鳴らした復活の号砲 アジア最終予選出場ゼロだった男の逆襲が始まる

舩木渉

4バックでは主力→3バック採用で出番激減

今夏加入のサウサンプトンでは順調に出場を重ねている菅原由勢だが、日本代表では出番が激減していた 【Photo by Alex Livesey/Getty Images】

 菅原に関して言えば、森保ジャパンでは喜びよりも悔しい思いを抱くことの方が多かったはずだ。U-23代表では東京五輪のメンバーから落選し、A代表ではカタールW杯出場を逃している。2023年の第2次森保ジャパン発足後は主力として活躍していたが、今年1月のAFCアジアカップでは大不振に陥ってチームの目標達成に貢献できなかった。そして6月の3バック採用以降は出番そのものが激減し、今に至る。

 特に10月の菅原は過去に見たことがないほど暗い雰囲気をまとっていた。自分が試合に出られないことを悟っていたからか、いつも明るく朗らかな取材対応も俯き加減で、悲壮感が漂う。

 10月15日のオーストラリア代表戦を前にした取材の場では「試合に出る・出ないは監督が選ぶことですし、そこで僕らが言及することは何もない。もちろん試合に出たいという欲と、それに対して向き合わなきゃいけないことは選手自身が一番分かっているので」とあくまで自分に矢印を向けようとしていたが、口調は重かった。

「サウサンプトンで出場機会も得て、それなりの手応えも得ている中で、もちろんプレミアリーグに行って自分が成長している部分、変化できた部分をしっかりピッチで表現したいと思うんですけど、試合に出るか出ないかを決めるのは監督であって、それをつかむかつかまないかは僕自身のパフォーマンスが全て。

 だからこそ代表期間中の練習で常に自分の100%を出して、無駄な日が1日もないようにしっかり自分自身と向き合って、それにプラスアルファでチームから求められることをしっかりやっていく。その繰り返しだと思います。

 もちろん悔しさもありますけど、それに対して一喜一憂するんじゃなくて、現状で自分がやるべきことをしっかり考えて、見つめ直していければ、たとえ出場がなくてもそれが次の機会につながっていくだろうし、チャンスをつかめると思うので。その瞬間までしっかり自分のやるべきことを見直して、ブレずにやり続けることが何かのきっかけになる。そのきっかけも自分でつかまなきゃいけないと思うんですけど、今はしっかり自分自身の立場を理解した上で、自分がやれることをやっていけたらなと思っています」

日本代表の中心としてW杯優勝へ

2018年10月、AFC U-19選手権に出場していた当時18歳の菅原由勢 【Photo by Wataru Funaki】

 常にチームファーストな姿勢は、今も昔も変わらない。6年前のU-19日本代表でも「チームの盛り上げ役が誰か? もちろん僕ですよ。こういうテンションやチームの雰囲気も大切だし、チームを盛り上げられるのも僕の特徴だと思っているので、チームにプラスだと思うならそこは出していきたい」とムードメーカーを担い、常に輪の中心にいた。一方で、明るい雰囲気を作るだけではなく「日本代表を背負っているし、優勝しなきゃいけない。アジアで勝つのは当たり前にしなきゃいけない」と常に世界を意識して周りに発破をかけていたのも菅原だった。

 その後にオランダでインタビューした時も「W杯で日本代表のレギュラーになって優勝すること」が目標だと語り、当時19歳の若武者は「W杯で優勝するためにサッカーをやっている」とまで言った。それほどまでに強い思いで日本代表を背負っているからこそ、出番が限られてもチームのために全てを尽くすことができるのだろう。

 まだ道半ばではあるが、インドネシア戦の一発は「きっかけ」になったはずだ。右ウィングバックの選択肢は堂安律や伊東純也だけでなく、菅原もいるんだとチーム内外に示すことができた。チームのために尽くしてきたことが多少なりとも報われた瞬間だった。

 とはいえ満足はしていない。

「僕自身も皆さんと同じで人間なので、人生は全部が全部うまくいくわけではない。もちろん、ああでもないこうでもないと言い訳をしたくなることもあるし、誰かに(不平不満を)言うわけではないけど、それを言っても僕のサッカー人生が変わるわけでもパフォーマンスが変わるわけでもない。

 しっかり自分自身に矢印を向けて、自分がやるべきことや何が必要なのか、もっといい選手になるためにどうなるべきなのか常に考えるべきだと思っていました。そういう難しい時期をどう過ごすかで先が見えてくる。今日は出場機会を得られて結果は出たけど、これも過程の中での1つにすぎないと思っています」

 この飽くなき向上心とガッツこそ、菅原の存在価値に他ならない。彼のような一貫性とサッカーやチームに対する真摯な姿勢、そして日本を背負って戦うことへの責任感を持ち合わせた選手が日本代表に対してもたらす影響は絶大だ。それはインドネシア戦のゴールが決まった後のチームメイトたちの反応からもよくわかった。

 物語はまだ終わりではない。もがき苦しんだ末に暗いトンネルから抜け出し、6年ぶりに立ったジャカルタの地で復活の号砲を鳴らした菅原はW杯優勝という目標に向かって再び前に進み始めた。

「サッカーが好きでサッカーをやっているし、こうやって国を背負えるという光栄で偉大な立場にいられていることにまずは感謝しないといけない。だからこそ、この代表には来る意味があると思います。もちろん来るだけが全てではないから、このチームに貢献したいという思いはピッチ上で証明しなきゃいけない。

 まだまだ僕自身やることはありますけど、やっぱり日本代表の意味の重さは重々承知しているので、この代表期間だけじゃなくて、ここに常にいられるように、このチームを勝たせられるように、W杯で優勝できるようにという思いを持って毎日やれている。それは継続していきたいと思います」

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著者プロフィール

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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