MLBポストシーズンレポート2024

初の大舞台で大谷翔平が見た景色 ドジャースが世界一を決めた「2つのターニングポイント」【PS総括】

丹羽政善

11月1日(現地時間)、ドジャースの優勝パレード後に行われたイベントで、スピーチを行う大谷翔平 【Photo by Ronald Martinez/Getty Images】

 29泊30日の取材が終わった。

 ここまで長く家を空けるとは想像していなかった。出発前、荷造りをしていて、全部はキャリーケースに入りきらなかったので、何かを置いていく必要があった。迷った末に、ダウンベストをあきらめた。ハロウィーンをホテルで迎えることなど、地区シリーズの相手がパドレスと決まった段階では、イメージできなかった。

 気がつけば、あれから1カ月が経った。

 ポストシーズン中盤、大谷翔平はその時点でのプレーオフを振り返り、「楽しい」と口にした。

「負けた試合も含めて、素晴らしい緊張感の中でプレーできる喜びというか、この時期まで野球ができているという喜びをまず感じていますし、明日も試合ができる。きょうしっかりと調整して、健康な状態で野球ができるというところに、自分自身は喜びを感じています」

 それは取材する側も同じ。日々、本当に刺激的だった。

 他の選手も充実感を口にした。7月終わりのトレード期限で移籍してきたマイケル・コペックは、貴重な中継ぎのピースになった。メッツとの試合を終えたある夜「10月って、こんなに寒いんだ」と苦笑した。

「こんな時期まで野球をしているのは初めてだから、知らなかった」

 やや自虐的だが、それはもちろん大谷同様、喜びを表現している。彼はワールドシリーズ第5戦の試合開始5時間前、一人でマウンドの後ろに立ち、投球のイメージをしていた。

 同じくリリーフとして活躍したアンソニー・バンダは、「正直、シーズンの最後まで、プロでいられるかどうかわからなかった」と感慨深げだった。

「こんなに毎日のように投げたこともない。体はきついよ。でも毎日、球場に来るのが楽しくて仕方がない」

 2017年にデビューしてから8球団を渡り歩き、シーズン中に何度も戦力外を経験している彼は、ドジャースとの再契約を望んでいる。

「そうしたら来年、日本に行けるから。ポケモンセンターに行きたいんだ」(※)

※来季のドジャースとカブスの開幕シリーズは、2025年3月18日、19日に東京ドームで行われる

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11月1日、ロサンゼルスで行われたドジャースの優勝パレード 【写真は共同】

先発投手が足りない

 振り返れば、ドジャースのポストシーズンの分岐点は、パドレスに1勝2敗と先に王手をかけられて迎えた、地区シリーズ第4戦ではなかったか。
 予想ではパドレス有利との声が多かった。ナ・リーグ西地区で優勝したのはドジャースだったが、後半の勢いは同地区2位のパドレスの方が勝り、戦力的にも先発、リリーフ、打線、すべてドジャースを上回った。1勝2敗は順当な結果だったのだ。

 9月半ば、アトランタでブレーブスとの4連戦があった。連敗スタートとなったが、第3戦の試合前、ロサンゼルス・タイムズ紙のジャック・ハリス記者と、オレンジカウンティ・レジスター紙のビル・プランケット記者とランチをとったときに、こんな話になった。

「このままでは、パドレスにまくられる」とハリス記者。

「確かにいま、チーム状態は決して良くない」とプランケット記者も同意し、プレーオフを見据えた展望でも一致した。

 ハリス記者が顔を曇らせる。

「タイラー・グラスノーが、投げられなくなった。山本由伸、ウォーカー・ビューラーも不安定。プレーオフでは、ジャック・フラーティが先発の軸となる。これは決して望んだものではない」

 プランケット記者も、「7月終わりにトレードで獲得したとき、彼がポストシーズンの第1戦で投げることになるかもしれないなんて、首脳陣も想定していなかったのではないか」と話した。

「3〜4番手で投げてくれれば、という感じだったのに」

 そのフラーティはパドレスとの2戦目に先発し、六回途中4失点で降板。負け投手となった。そもそも山本に1戦目を譲った時点で誤算。その山本は大谷の3ランに救われたが、3回5失点。第3戦で先発したビューラーも、五回を投げて7安打6失点。懸念がことごとく現実となった。

ポストシーズンではチーム最多となる5試合に先発登板した、ドジャースのジャック・フラーティ(写真はワールドシリーズ第1戦) 【Harry How/Getty Images】

 ところが、後がなくなった第3戦の試合後、大谷の超ポジティブ発言が飛び出す。

「もう2連勝したら勝ちという、そういうゲームだと思ってやればいいんじゃないかなと思うので、ここまで1勝2敗というのは別に考える必要はないですし、単純に2連勝するゲームだと思えばいいんじゃないかな」

 よほど急かされて出てきたのか、額にも首にも汗がびっしょり。左の首には抜け毛が、張り付いたままだった。確かに連勝すればシリーズ突破だが、一つ負ければ終わり。ただ、彼には最善のシナリオしか見えてなかった。

 後日、あの言葉を口にしたときの思いを尋ねると、こう明かしている。

「あのときはあのときで自分がそう思っていた。(意識的に)そう思わなければいけないということではなく、本当にそう思っていた」

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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