MLBポストシーズンレポート2024

長い宴が続くヤンキー・スタジアムの夜 大谷翔平が振り返る「世界一への分岐点」【WS第5戦】

丹羽政善

10月30日(現地時間)に行われたWS(ワールドシリーズ)第5戦。4年ぶり8度目の世界一を決め、シャンパンファイトを楽しむドジャースの山本由伸ら 【Photo by Sarah Stier/Getty Images】

 10月31日午前2時21分(現地時間、以下同)。まだ、フィールドで宴が続いている。

試合翌日(10月31日)の午前2時過ぎまで宴が続く、ヤンキー・スタジアム 【筆者撮影】

 クラブハウスでのシャンパンファイトの取材を終えて記者席に戻ってきたが、この日は、シャンパン96本、ビール180本が15分ほどで泡と消えた。クラブハウスの床にはシャンパン、ビールが水たまりのようになっていて、その上を歩けば当然、靴の中に染み込んでくる。途中から、靴下がグジュグジュと音を立てた。

クラブハウスに用意されたシャンパン 【筆者撮影】

 一部の選手が葉巻を吸い始めた。やがてその煙がクラブハウス内に充満し、まるでスモークを焚いたよう。爆音が鳴り響き、奇声が飛び交う。やがて、選手らは外へ出て、そこで待つ家族らと勝利を分かち合った。大谷翔平は、山本由伸と並んでヤンキー・スタジアムのマウンドに立ち、写真撮影に応じた。

 そうしてドジャースが、4年ぶり8度目のワールドチャンピオンに輝いた夜は、更けていった。

ヤンキースの圧勝ペースを執念で覆す

初回、不振のアーロン・ジャッジから飛び出した、ヤンキースファン待望のWS初アーチ。WS第5戦は3打数2安打2打点、1本塁打だった 【Photo by Elsa/Getty Images】

 それにしても、MLB今季最後の試合が、ここまでドラマチックとは。レギュラーシーズンでも、なかなかお目にかかれない。

 三回を終えて0対5。不振を極めたアーロン・ジャッジが先制2ランを放ち、三回にはジアンカルロ・スタントンもホームランを放って追加点。展開的にはもう、ヤンキースの圧勝ペースだった。

 ところが、ドジャースのリリーフ陣がなんとか踏みとどまり、五回、ヤンキースのミスに乗じて5点を奪うと、流れが大きくドジャースに傾いている。

 この展開を大谷は「5点取った回が、大きかった」と振り返った。「相手のエラーもあったと思うんですけど、全員がボールに対して必死に食らいついた結果、ああいう形でチャンスをものにできたんじゃないかなと思う。素晴らしいオフェンスの繋がりだった」。

 決してあきらめなかった。それは、六回に再びリードを許してからも揺るがなかった。ドジャースは八回、2本の犠牲フライで逆転。その裏、ブレーク・トライネンが1死一、二塁のピンチを招きながら、執念でスタントン、アンソニー・リゾを抑えると、ドジャースは九回、第7戦で先発予定だったウォーカー・ビューラーを投入して逃げ切った。

「一つ一つのアウト、1球1球が、これほど意味を持つとは」と、四回から登板し1イニングを無失点に抑えた、マイケル・コペック。

「勝った瞬間、これだけ身震いしたことはなかった」

 コペックは葉巻を加えながら、プレッシャーから解放された安堵を表情に滲ませた。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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