MLBポストシーズンレポート2024

長い宴が続くヤンキー・スタジアムの夜 大谷翔平が振り返る「世界一への分岐点」【WS第5戦】

丹羽政善

今季4度目のシャンパンファイト

MVPに輝いたフレディ・フリーマン。WSでは打率.300、4本塁打、OPS1.364と、勝負強さが際立っていた 【Photo by Elsa/Getty Images】

 同じように大谷は、クラブハウスで脱力した表情を浮かべていた。左肩の影響は明らかで、五回1死満塁のチャンスで三振するなど、オフェンスで貢献することができなかった。八回は1死一、三塁で打席に入り、守備妨害で出塁。スイングスピードの速さゆえであり、結果的に後ろに繋いだが、もどかしい打席が続いた。

 しかし、勝ってしまえば、当然ながら喜びが優った。シャンパンファイトでは大騒ぎ。左肩を気にする素振りもなく、シャンパン、ビールをチームメート、スタッフにかけまくり、さらに何度も頭からかけられた。

「WBC(ワールドベースボールクラシック)のときもやりましたけど、日本の場合はもう少し控えめな感じがあるので、こっちの方が豪快」

 これまでは次のシリーズのことを考え、早めに切り上げていたが、今回は会見に呼ばれる直前まで、シャンパンファイトの輪の中で歓喜の声をあげた。

 その会見の冒頭で、しみじみと振り返った。

「結果的に一番長いシーズンを過ごすことができたことを、誇りに思う」

 心からの声だった。

「1年目でこういうときに立ち会えて、すごく光栄」

弱小チームにしか勝てないと揶揄

試合後、記念撮影を行うドジャースのチームメイト 【Photo by Dustin Satloff/MLB Photos via Getty Images】

 1年を振り返れば、苦しい時期もあった。7月は11勝13敗と負け越している。8月、9月で17の貯金をしたが、勝てるのは勝率5割以下の弱いチームだけと揶揄(やゆ)された。

 しかし、ここぞで勝った。8月下旬からのダイヤモンドバックス4連戦は3勝1敗。9月中旬のブレーブス4連戦では、最初の2試合を落としたが、その後連勝。9月終わり、パドレスとの3連戦では初戦を落としたが、2戦目、3戦目に勝って地区優勝。苦しい展開をものにした今日の試合は、今季の戦いを象徴するようでもあったが、シーズンの分岐点はどこにあったのだろう。今日の五回のように、流れが変わるタイミングがあったのか。

 大谷に聞くと「ここというのは、もちろんないと思いますけど」と言いつつ、こう言葉を継いだ。

「全体的にけが人が出たシーズンだったと思いますし、入ってきた選手、代わりに出た選手がそれをカバーするという試合が多かったので、逆転が多いスタイルというか、みんなどれだけ取られてもあきらめずにブルペンもつないでいく、そういう気持ちがこういう勝ちにつながっているんじゃないかなと思う」

 自身も最後は左肩を亜脱臼し、出場が危ぶまれた。それでも打席に立ち続けた。

「このポストシーズンでけがをした後、何より必要だと言ってもらえた、プレーしてほしいと言ってもらえたことがすごく光栄」と大谷。

「そう言ってもらえたことに感謝していますし、そういう気持ちが自分の中で1年間頑張ってこられた要因なのかな」

 長い戦いが終わった。大谷も「長かった」と一言。しかし、最高の結末で1年が幕を閉じた。

 数日後に改めて、ポストシーズンの戦いを中心に今季を振り返ってみたい。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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