「9ゴール+2つの苦い薬」 U-16日本代表、ドーハから世界への旅が始まった

川端暁彦

失敗もまた栄養、その苦みが薬になる

アル・アリ競技場のメインスタンドは改修されて新たな形になっている 【撮影:佐藤博之】

 初戦の序盤を一言で表してしまえば、「緊張していた」ということなのだろう。

 U-17W杯に向かう最初の試合を迎えたU-16日本代表のチームパフォーマンスは立ち上がりから褒められたものではなかった。

 試合前に「緊張するだろう」と予測していたのは廣山監督で、選手たちからは逆に「緊張はない」という言葉も聞かれていた

 ただ、試合後に話を聞いた選手たちの口から出て来たのはやはり「緊張」というワードだった。

 初めて日本代表のユニフォームを着て国際試合に臨む選手もいたし、「公式戦」ということになれば、全員が初めてである。

 負ければ敗退、チーム解散となる代表のステップレースから感じる緊張感というのはやはり独特なもので、『君が代』を聴いているうちにどこかおかしくなってしまうというのはよく耳にするところだ。

 開始12分、最初にスコアボードの数字を動かしたのがネパールだったのも、偶然とは言えまい。中途半端にボールを狩りに行って取れずにサイドの裏へ通されて全体をひっくり返される展開から、ニアへのクロスを合わされて失点。局面での個々の対応には明らかに甘さがあり、反省材料が詰め込まれた失点だった。

 もちろん、失点後すぐに取り返して逆転、追加点という流れに持っていけたのはポジティブな材料。ただ、最後にスローインからの競り合いを連続で制されて逆サイドまで展開されて2失点目を喫したのは、まったく褒められない流れだった。

 廣山監督が「良い薬を飲ませるにも、褒めるにも良い材料があった」という微妙な表現で試合を総括したのもよくわかる。「練習試合だと同じようなことになっても、なかなか学び取れない」というように、「こんなことでは敗退するかもしれない」という緊張感のある状況で体感するからこそ、特別な学びも生まれるわけだ。

 オフ・ザ・ピッチでのコンディショニングで得られる学びもそうだし、「緊張してしまった」という経験もまた財産。より個別的な、例えば浮き球の競り合いにあっさり負けて失点につながったシーンから学べるのも、「予選」という緊張感ある場だからこそである。

 もちろん、「まず勝つのは大前提」(廣山監督)。ただその上で、実は適度に失敗しておくのもこの年代では特に必要なことだと思っている。事前の準備、当日の緊張、試合の中での攻防とそれぞれが体感した経験は、発展途上の選手たちが成長していくための栄養になるものだ。

 メンバーを入れ替えながら戦う残る2試合でも、苦い薬を飲み干しつつ、たくましく成長していくところを見せてもらいたい。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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