強いフェラーリが戻ってきた! 復活を遂げた3つの理由

柴田久仁夫

今のルクレールは、ポールを獲らなくても勝てる

「ポールでも勝てない」と言われ続けた男が、変身を遂げつつある 【©ScuderiaFerrari】

 次にドライバーだが、ルクレール、サインツというフェラーリのドライバーラインナップの評価は、いうまでもなく非常に高い。メルセデスのルイス・ハミルトン、ラッセル、マクラーレンのノリス、オスカー・ピアストリに匹敵すると言っていい(対照的にレッドブルは、ここが最大の欠点だ)。

 中でもルクレールはシーズン後半になって、ある顕著な傾向を見せ始めた。7月のベルギーGP以降の6戦で5回の表彰台(うち2勝)と好調を維持するルクレールだが、ベルギーGP以外は全て、スタート時から順位を上げて上位入賞を果たしているのだ。

 特にイタリアと今回アメリカでの2勝は、いずれもグリッド4番手から勝利をもぎ取った。逆に去年までのルクレールは予選ではしばしばポールポジションを獲るものの、そこから勝つことはほとんどなかった。特に2023年は9回もポールを獲得しながら、ポール・トゥ・ウィンは1回に終わっている。

 そこには上述した、マシン特性がタイヤに優しい方向へと変わったことも、確かに無視できない。しかしそれ以上に、ルクレール自身の意識の変化が大きい。かつては一発の速さに拘っていたのが、レースで結果を出すことを最優先に置くようになった。そんなルクレールの成熟がマシン特性の変化とうまくマッチしたのが、シーズン後半の躍進に繋がったと言えそうだ。

フェラーリが強いF1は面白い!

真っ先にルクレールに駆け寄り、勝利を讃えるバスール代表 【©ScuderiaFerrari】

 最後に「チーム運営」だが、今季のフェラーリは戦略ミスや些細な作業ミスが激減した。それどころかマクラーレンの意表を突く1ストップ作戦を敢行し、勝利をもぎ取ったイタリアGPのような堂々たる戦いもできるようになった。

 かつてはドライバーと担当エンジニアの、ケンカ腰の無線のやり取りも頻繁に聴かれたものだが(2022年モナコGPでの「ボックス、ボックス」「いやステイアウトだ!」と混乱を極めたエンジニアに、「どういうことだ!何やってるんだ!」と、ルクレールが怒鳴った一件など)、今の両者のコミュニケーションは概ねスムーズだ。

 去年からチーム代表に就任したフレデリック・バスールは、下位カテゴリーGP3時代のルクレールを育て上げた恩師ともいうべき存在で、今もルクレールは絶大な信頼を置く。ドライバーとの良好な関係だけでなく、バスールは就任2年目にしてフェラーリという難しいチームを掌握しつつあるようだ。

 もう10年以上、フェラーリの広報責任者を務めるシルビア・ホッファーに最近取材した際、「チーム内の雰囲気は確実に変わっている」と、彼女は言っていた。

「とにかく、みんなが明るい。結果が出ていることもあるけど、全体的に風通しも良くなった。部下たちへのフレッドの分け隔てない接し方、そして彼らの仕事ぶりへの的確な評価のせいでしょう」

 表彰式でイタリア国歌「マメーリの賛歌」が流れ始めると、居並ぶフェラーリのスタッフ全員が大声で唱和し始めた。イタリア人が多くを占めるこのチームならではのそんな光景が、今後はさらに多く見られそうだ。

 フェラーリが強いF1は、やはり面白い!

(了)

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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