日本代表が「不完全燃焼」を起こした理由とは? オーストラリアに封じられた強みと、得た手がかり

大島和人

久保建英(写真)と堂安律のコンビは相手に警戒されていた 【写真は共同】

 これだけ好スタートを切った最終予選は、過去になかっただろう。日本はFIFAワールドカップ(W杯)26アジア最終予選で3連勝スタートを飾っていた。

 9月5日に埼玉スタジアムで開催された初戦・中国戦は7-0の完勝で、続く2つのアウェイ戦も5-0(バーレーン戦/9月10日・以下現地時間)、2-0(サウジアラビア戦/10月10日)と連勝している。3試合を終えた時点でグループCの6カ国で唯一の無敗チームとなっていて、得失点差も圧倒的な「貯金」を積み上げていた。

 グループCの上位2チームに入って本大会の出場権を得るミッション達成に向けて、視界は極めてクリアだ。ただ相手国は日本の強みを研究し、それをどう消すか工夫をしてくる。試合を重ねれば、相手が持つ情報も増える。

 オーストラリア戦はそんな9カ月以上続くリーグ戦の難しさが出た試合だった。日本は58分のオウンゴールで今回のW杯予選における初失点を記録。76分にやはりオウンゴールで追いついて1-1で試合を終えたが、「不完全燃焼」の時間帯はかなり長かった。

オーストラリアが張った罠

 日本は今回の最終予選で「超攻撃的布陣」を採用している。[3-4-2-1]の配置は攻撃的にも守備的にもなり得るものだが、両ウイングバックに堂安律、三笘薫という完全なアタッカーを起用している。ボールを握り、高いエリアでプレーする場面が多いからこその人選で、それが3試合合計「14-0」の圧倒的な戦績にもつながった。

 オーストラリア戦の右サイドは中国戦と同じくワイドに堂安、シャドーに久保建英と左利きの技巧派が組んだ。ただ中国戦と同じような破壊力は出せなかった。

 堂安はこう振り返る。

「見てもらったら分かるように、なかなか僕たちがやりたい崩し方をさせてもらえなかった。相手が戦術的に守ってきた印象です。タケ(久保)と入れ替わりながらやりましたけど、それも分析されている感じでした。クロスを普通に上げたら跳ね返される中で、アイディアも少なかった。みんなが分かっている通り、全体的にちょっと不完全燃焼の試合だったと思います」

 日本は試合を通したボール保持率が62.5%と高く、シュートの本数も10対1と圧倒した。ただボールを持てても、シュートは打っていても、「崩し切る」ところまで行けていなかった。

 オーストラリアは3バックの中央に陣取るハリー・サウターが身長2メートル、左CBのキャメロン・バージェスは194センチの巨漢。日本が大外から頭で合わせるボールを入れても、可能性は低くなる。堂安、久保が近い間合いのパス&ムーブでエリア内に「潜っていく」プレーができれば理想だった。しかし相手は中央を固めつつ、罠を張っていた。

 久保はこのように説明する。

「中切りをひたすらされて、どうしてもクロスを『上げさせられている』感覚がありました。相手は5(バック)で待っていて、弾かれるというのが前半は特に繰り返し起きていました」

選手たちが語る反省

堂安は最終予選で右ウイングバックとして起用されている 【写真:つのだよしお/アフロ】

 もっとも、日本がそこまで悪い試合運びをしたわけではない。58分のオウンゴールは言ってしまえば事故だったし、76分の同点ゴール以外もある程度のチャンスはあった。ただ選手からは「もっとやれたはず」「やらなければいけない」という自負が伝わってきた。

 例えば堂安はこう語っていた。

「いろいろチームとは話しました。全てここでは話せないですけど、ちょっと後ろが重かった印象があります。わざわざ3枚4枚で回さなくてもハーフウェーラインを越えられるのに、後ろに人数をかけたところがありました。一つ言えるのは改善しないと、またこの先こう対策される可能性があるということです」

 どこにどうボールを入れるべきだったかという選択について、堂安はこう悔いる。

「ゴールに直結する(中央の)背後でなくても、コーナーフラッグの付近に蹴ってくれると押し込めます。そういうイメージで背後を取ろうと思ったのですが、チームとしてあまり共有もできなかった。何回か走ったけど出てこなかったので、やめてしまったのも悪かった」

 久保はこう述べる。

「縦には行けましたけどクロスを上げるためでなく、中村(敬斗)選手が一回あったように『侵入』していく方が相手は嫌なのかなと思います。そうするとマイナスのところに、ボランチも入ってこれる。えぐり切ってないと、ダブルボランチも入りづらい。縦にえぐり切る、タッチライン際に行くのが大事なのかなと感じました」

 日本はキャプテンの遠藤航を体調不良で欠き、守田英正と田中碧がボランチを組んだ。リスク管理とチャレンジの両面が求められる中だが、ボランチがエリア内に入っていければ攻撃の厚みは出る。ただ久保が分析するように「えぐり切っていない」状況で前に出ていくことは難しい。そして田中にはシステムへの適応という課題もあった。

 田中はこう振り返る。

「僕も[3-4-3]で初めて出て、相手がオーストラリアだとカウンターもあります。様子を見ていた部分もあったけれど、自分がボックスの近くでプレーすることでチャンスは作れるし、その回数を増やす必要はあったと思います」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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