日本代表が「不完全燃焼」を起こした理由とは? オーストラリアに封じられた強みと、得た手がかり

大島和人

中村と三笘の新コンビが打開に成功

三笘薫(左)と中村敬斗(右)の両ドリブラーが左サイドに並んだ 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 同点ゴールは中村の仕掛けから生まれた。ベンチスタートで70分から起用された彼は、ロングドリブルからゴールのすぐ左まで「えぐる」プレーに成功し、左足クロスで相手のクリアミスを誘った。上田綺世に合わせた低く強いボールには、相手選手が「触らざるを得ない」質があった。オウンゴールとはいえ事故性の低い、日本が崩した形だった。

 久保は言う。

「今日は中村選手が、普段の三笘選手がしているようなプレーをしていました。三笘選手も『(自分がウイングバックのときは)シャドーにこのようなプレーをしてほしい』というのがあった。得点シーンは(三笘が)DFを1枚ブロックして、そこに(中村が)入っていく形でした。2人が一緒にプレーするのは初めてだったと思いますけど、あれはあれですごく面白かった」

 相手が中を固める中でゴールの脇まで侵入するのだから、個人能力と攻撃の「もうひと手間」が必要だ。同点ゴールの場面は三笘が左サイドで相手にスクリーンをかけ、中村のために大外のスペースを空けた。近くに寄ってボールを受ける、エリア内のスペースに走り込むといった選択肢もある中で、中村の持ち味を引き出すベストの選択をした。

「ほとんど(2人が組む形のトレーニングは)やってないですけど、彼のやりたいことは分かります。(途中から)入ってきた選手はより縦への怖さがあると思うので、そこを使おうという空気がチームとしてもありました」(三笘)

 中村は振り返る。

「カットイン(外から中に切れ込む突破)は相手が中に密集していてできず、縦を意識していましたが、うまく三笘選手は僕がフリーな状態を作っていくように中にいてくれた。1人抜いてからはキックフェイントで縦にかわしてうまく抜き切れたので、中に切り込めた」

 森保ジャパンは「ワイド」「サイド」を最大の強みにしている。堂安と久保のコンビや、ワールドクラスのドリブラーである三笘については相手も当然ながら研究し尽くしている。しかし今の日本は選手層が厚く、相手の疲れた時間帯に中村や伊東純也のような別のカードを切れる。

 15日のオーストラリア戦は三笘が左シャドーに入って中村と組む形が奏功した。本来は主役である三笘が脇役に回ってチームを助けた。相手にとっては未知な形だったし、対応困難な「アドリブ」も出していた。

11月の2試合に向けて

中村のゴールは日本が次に向けて得た手掛かりの一つだ 【写真:REX/アフロ】

 日本は11月15日にインドネシア、19日に中国とのアウェイ戦が待っている。研究してくる相手を連携の熟成や新しいオプションで上回る――。それが最終予選の日本に求められることだ。

 オーストラリア戦の引き分けは今の日本にとってやや不本意な結果だが、チームの方向性に疑問を持たせる内容ではなかった。

 久保はこう口にする。

「勝ち点1なら現状は何も変わってないし、落ち込む内容ではなかった。全勝が目標ではないですし、枠も増えています。1位でいられればいいと思いますし、次に活かせる部分もありました。今後のアジア予選であの(守備)ブロックができるのは多分オーストラリアだけでしょう。次までにあれをどうやってみんなで崩していくかです」

 最終予選の10試合すべてがベストゲームにはならない。彼らが苦しんだ理由ははっきりしていて、それを解消するための方向性も見えている。オーストラリア戦は確かに「不完全燃焼」の時間帯もあったが、一方で学びや収穫がある90分だった。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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