フィギュアスケートGPシリーズ展望 来季のミラノ五輪を見据えるスケーターたちの戦略に注目

沢田聡子

完成度を高めてマリニンに近づきたい鍵山

ジャンプで圧倒するマリニン(中央)に、成熟した演技で迫りたい鍵山優真(写真右) 【写真は共同】

 男子では、4回転アクセルをはじめとする高難度ジャンプの本数と精度で圧倒する世界王者、イリア・マリニン(アメリカ)が今季も世界を牽引しそうだ。ロンバルディア杯では、4回転アクセルを抜いた構成ながら、312.55という得点をたたき出して優勝。今季から解禁されたバックフリップも取り入れたフリーは刺激的で、表現面でも独自の世界を築きつつある。第1戦スケートアメリカ・第2戦スケートカナダにエントリーしており、序盤から連戦となるマリニンには、昨季初優勝を果たしたファイナル連覇の期待がかかる。

 独走状態に入りつつあるマリニンのライバルとなり得る貴重な存在が、鍵山優真だ。昨季世界選手権銀メダリストの鍵山は、昨季後半から構成に戻した4回転フリップに加え、4回転ルッツも練習中だという。

 高い加点を得るジャンプに並び、武器となるのが演技構成点だ。持ち前の滑らかなスケーティングに加え、振付師ローリー・ニコル氏とカロリーナ・コストナーコーチによって磨かれた、バレエの基礎に基づく美しい所作で魅了する。「大人っぽく 情熱的に!」を今季のテーマに掲げる鍵山は、フリーでは初めてのフラメンコに挑戦する。

「今シーズンはショート・フリー共に、より大人っぽく、そして内側から作る情熱をパフォーマンスとして感じていただけたら嬉しい」(鍵山)

 鍵山は、2位に入ったロンバルディア杯で既にマリニンと顔を合わせているが、GPシリーズで共にエントリーしている試合はない。順当にいけば、昨季銅メダリストとして臨むファイナルが最初の直接対決となりそうだ。第4戦NHK杯・第5戦フィンランド大会に出場予定で、連戦をいかに戦うかも注目される。

 今季好スタートを切っているのが、昨季四大陸選手権銀メダリストの佐藤駿だ。武器である4回転ルッツは安定しており、3位に入ったロンバルディア杯のフリー、優勝した東京選手権のショート・フリーで3点以上の加点を得て成功させている。加えて、振付師ギヨーム・シゼロン氏の指導の賜物と思われる表現力の向上が著しい。昨季は惜しくも進出を逃したファイナル出場にも期待がかかる。

 今季は、昨季全日本選手権で味わった「楽」(しく)滑る経験を、多くの試合で再現したいという。佐藤は、第2戦スケートカナダ・第6戦中国杯にエントリーしている。

 鍵山、佐藤とジュニア時代から切磋琢磨してきた三浦佳生は、昨季は体調不良のため不完全燃焼に終わったファイナル進出が期待される。「フィギュアスケートをする!」をテーマに臨む今季は、フリーで『シェルブールの雨傘』を選曲、物悲しい旋律に乗り今までにない表現を追求する。

 国内初戦のプリンスアイスカップ(7月・横浜)のフリーでは、201.55という高得点をマーク。だがロンバルディア杯で古傷である左足肉離れの再発があり、次戦の東京選手権までは本来の滑りではなかったものの、重症化の恐れはないという。GPシリーズでは、持ち前の思い切りのいい滑りを期待したい。三浦は、第1戦スケートアメリカ・第4戦NHK杯に出場する。

 一昨季のファイナル銀メダリストである山本草太は、ネーベルホルン杯で優勝し、快調な滑り出しをみせている。山本は、今季のテーマとして「洗練」を掲げる。

「ただ“こなす”“決める”だけではなくて、より洗練した技というところをテーマに、今シーズン頑張っていこうかなと」(山本)

 ブノワ・リショー氏の振付によるショートでみせる、新たな魅力にも注目したい。山本は、第2戦スケートカナダ・第5戦フィンランド大会にエントリーしている。

 2022・23年世界選手権6位の友野一希は、今季のテーマを「羽化」とした。フリーの使用曲『Butterfly』にもちなみ、来季に向けて成長していきたいという思いを込める。

「ベテランと言われるのですが、僕は今が一番の成長期だと思っていて。今年さなぎから蝶になって、来シーズン羽ばたいていきたい」(友野)

 ショートはシェイ=リーン・ボーン氏、フリーはローリー・ニコル氏に振付を依頼した今季、脱皮したかのような成長に期待したい。友野は、第3戦フランス杯・第5戦フィンランド大会に出場予定だ。

 現在世界で最も層が厚いと思われる日本男子からは、島田高志郎(第1戦スケートアメリカ・第3戦フランス杯)、吉岡希(第1戦スケートアメリカ)、壷井達也(第4戦NHK杯)も参戦する。

 海外勢では、昨季世界選手権銅メダリストのアダム・シャオ・イム・ファ(フランス)、昨季四大陸選手権銅メダリストのチャ・ジュンファン(韓国)が有力か。

2年ぶりの参戦に期待がかかる“りくりゅう”

今シーズンは新たな表現を追求する三浦璃来/木原龍一 【写真は共同】

 ペアでは、昨季世界選手権銀メダリストの三浦璃来/木原龍一に注目が集まる。昨季は木原の腰椎分離症のため参戦がかなわなかったGPシリーズでの滑りに期待したい。今季はプログラムの振付をショートはシェイ=リーン・ボーン氏、フリーはマリー=フランス・デュブレイユ氏に依頼しており、新たな表現を追求。2位だったロンバルディア杯ではミスもあったが、本来の力を発揮すれば、優勝候補としてファイナルに進めるはずだ。

 三浦/木原は、第1戦スケートアメリカ・第4戦NHK杯にエントリー。また、日本からは長岡柚奈/森口澄士が第4戦NHK杯に出場する。

 アイスダンスでは、若いカップルである吉田唄菜/森田真沙也、田中梓沙/西山真瑚が、第4戦NHK杯でフレッシュな演技をみせてくれそうだ。

 ミラノへの道程ともなる、今季のGPシリーズ。スケーターたちの挑戦に注目したい。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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