闘志むき出しの三笘がもたらした大逆転劇 2つのラストパスの裏側にあった思考とは…
劣勢のなかでも敵の弱点を見つけ、後半の活躍につなげた
三笘は慢心という言葉とは無縁だ。この試合では5試合ぶりにアシストを記録したが、「まだまだですね」と言ってさらなる活躍を誓う 【Photo by Rob Newell - CameraSport via Getty Images】
「前半はまとまりもなかったですし、守備の強度も足りなかった。(2点を先行されたのは)妥当な展開でした」
三笘は2点を奪われた前半をこう振り返った。しかしその後に、「(だから後半は)しっかりと守備から入って、 相手がライン高い分、そこは狙っていきました」と話して、前半の劣勢のなかでもトットナムの弱点をしっかりと把握し、後半の最初の2点を創造した2つのラストパスにつながった思考も明かした。
その布石となったのは、1点をリードされていた前半32分、ゴール前に飛び込んだウェルベックの足元に得意の右足のアウトサイドで絶好のクロスを放ったプレーだったと思う。きっとこのクロスで“今日はやれる”という手応えをつかんだに違いない。
そんな心技体のバランスが非常に整って見えた三笘に、特に後半のプレーは切れに切れていて「体調はものすごく良さそうに見えた」と話しかけたら、「うーん、そこまで良くはなかったですけど、うまくコンディションを考えながらやってましたね」という答えが返ってきた。逆転劇の要因としてトットナムの疲れを真っ先に挙げたこともそうだが、いつもながら慢心しない27歳MFの謙虚さに脱帽するしかなかった。
しかも久しぶりにアシストがついたことに対しても、「いや、まだまだですね。(今季は)まだ1得点・2アシストと少ないですし。やり続ければついてくると思いますけど、怪我しないで試合に出続けることは大事だと思います」と貪欲な姿勢を見せて代表戦に向かった。
7分間のプレーながら指揮官も遠藤を称えた
終了間際の限られた時間ではあったが、鎌田(右)と遠藤(3番)がプレミアのピッチで対峙。鎌田は2本のパスで見せ場を作り、遠藤は中盤に活力をもたらした 【Photo by Sebastian Frej/MB Media/Getty Images】
鎌田大地と遠藤航はともにベンチスタート。前半9分にリバプールのディオゴ・ジョッタが先制点を奪った後は1-0の状態が続き、最後のもう一押しで鎌田の投入はあると考えていたが、その通り、後半43分に28歳日本代表MFが出場した。するとその1分後に、珍しくリバプールのアルネ・スロット監督がリーグ戦で遠藤を使って、アディショナルタイムを含めてわずか7分間ではあったが、日本人MF2人がプレミアリーグのピッチ上で対峙した。
鎌田はこの間に2本のスルーパスを放った。1本目は際どかったが、味方のFWが触れずにゴールにはつながらず。遠藤は疲れが目立ったカーティス・ジョーンズの代わりに投入されて、押し込まれていた中盤に活力を与え、相手をゼロに抑える1-0の勝利に多少なりとも貢献した形になった。
試合後、遠藤は親指を立ててサムアップをしたが、途中出場では話はできないとばかりに、我々日本人報道陣の前を厳しい表情で通り過ぎた。そこで急いで会見室に戻り、スロット監督に遠藤のプレーについて「わずか7分間のプレーだったが、中盤にエネルギーを注入するプレーができていたと思うが」と直接尋ねた。
するとカリスマ監督ユルゲン・クロップの後継という難業を見事にこなしている46歳オランダ人知将が、かなりしっかりと返答してくれた。そこで、ここでそのコメントを全て披露することにする。
「私がこのチームについて最もポジティブなことのひとつだと思うのは、たとえ7分のプレーでも、出場した選手が非常に良いインパクトを与えてくれることだ。あれほどのビッグプレーヤーで、代表キャプテンでもある選手(遠藤)が、試合終了間際に入ったとしても、全力を尽くす。私は他のチームで“自分を5分しか使わないのか?”という気持ちが出たプレーを見ることがある。しかし、ワタのプレーを見ると、ボールへの対応だけでなく、(勇気とやる気が必要な)セカンドボールの奪取にも意欲的だった。それ(遠藤のプレー)は、このチームの団結力について物語っているとも思う。わずか7分しかプレーしていないのに、あのようなパフォーマンスを見せたのは、彼の人間性の素晴らしさと同時に、チームの意識の高さも表している」
このポジティブな監督のコメントが、今後の遠藤のプレー時間の増加につながってほしいと心から念じて、筆者は南ロンドンの古いスタジアムを後にした。
(企画・編集/YOJI-GEN)