週刊MLBレポート2024(毎週金曜日更新)

悲願のドジャース地区優勝に潤む大谷翔平の瞳 「狙わせようかな」首位打者が再び射程圏内に

丹羽政善

9月26日に行われたパドレスとの試合に勝利して、3年連続となるナ・リーグ制覇を果たしたドジャース。試合後、記念に撮影する選手たち 【Photo by Brian Rothmuller/Icon Sportswire via Getty Images】

 大谷翔平(ドジャース)が七回、1死一、二塁で打席立ったのが午後8時56分(現地時間、以下同)。そのちょうど1時間後、大谷はクラブハウスで、頭からシャンパンを浴びていた。

「本当にきょう決めるんだ、という気持ちで球場に来ましたし、その通りになって凄くうれしい」

 シャンパンが目に染みた。

「ちょっと痛かった。でも、今後に影響ないぐらいに(シャンパンファイトを)やりました」

 クラブハウスの外で行われた会見。横から見ると、目が潤んでいるように見えた。シャンパンが目に染みたのか、話しているうちに感情が込み上げてきたのか――。

シャンパンファイトで盛り上がる大谷翔平(中央奥)と山本由伸(左隣)ら 【写真は共同】

 9月も終わりになって、ロサンゼルスも日が陰ると、肌寒い日が増えた。ナイター観戦は、ジャケットがないと凍えることになる。

 しかし、そんな寒さを誰が気にしただろうか。いや、六回までは寒い試合展開。2点をリードされ、ドジャースは散発4安打。得点圏に3度走者は進んだが、タイムリーが出ず、ジリジリと追い詰められていた。

 ところが七回、一挙5点を奪って鮮やかに逆転すると、八回にも加点し、ドジャースは3年連続、過去12年で11度目の地区優勝を決めた。

WBCを彷彿とさせる塁上での絶叫

 勝ち越し打を放ったのは、前日に続いて大谷だった。

 ドジャースは七回、ウィル・スミスの2ランで同点に追いついた。1死後、ヒットと打撃妨害で一、二塁のチャンスをつかむと、そこで大谷の登場曲「The Show Goes On」がかかると、客席が総立ちになった。

 午後8時56分。大谷はゆっくりと打席に向かい、いつものようにバットで立ち位置を測る。一つ一つの仕草は冷静そのもの。大谷はその打席をこう振り返っている。

「他の打席とやることを変えずに、本当にヒットを打つことだけを考えていた」

 緊張はなかったのか。

「集中しすぎて、あんまり緊張してるとか、考えている感じではなかった」

 その時点で、得点圏での直近10打席で9安打。前日は、四回に勝ち越し二塁打を放ち、五回に同点とされたが、六回裏、2死一、二塁で打席に入ると、センター前に再び勝ち越しタイムリーを放ち、ドジャースはマジックを2としている。

 そのとき、大谷は一塁へ走りながら大声で吠えていたが、この日も同じようなシーンが再現された。

 マウンドにはタナー・スコット。トレード期限直前にマーリンズからパドレスに移籍した選手だ。マーリンズ時代は44試合に登板し、18セーブ、防御率1.18。移籍後も28試合に登板し、4セーブ、防御率2.10と安定。パドレスにしてみれば、まさにこういう場面で抑えるために獲得した選手である。

 ただ、「単純に調子がいい」と前日の試合後に言い切った大谷。球界屈指のリリーフ左腕との対戦だったが、もはや相手ではなかった。

 初球、低めのボールになるスライダーを冷静に見送った。

 2球目は外角高めのスライダー。捕手は低めに構えていたが、浮いたのを見逃さなかった。先端だったため、打球初速は88.3マイルとおよそ彼らしくない打球ではあったものの、好調なときというのはそういう打球も野手の間を抜ける。

 二塁走者が還って勝ち越すと、相手の中継ミスで二塁まで進んだ大谷は、塁上で再び吠えた。それは、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の準決勝で九回に二塁打を放ち、サヨナラを呼び込んだ場面を彷彿とさせた。

 直後、それまで不振だったムーキー・ベッツが続くと、大谷が生還。この時点で5対2。なかば決着がついた。ベッツは「きのうまでの2試合は、まったく何も貢献できなかった。きょう、ようやく仕事ができて良かった」と安堵の表情を見せた。

七回に勝ち越し打を放ち、絶叫する大谷 【写真は共同】

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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