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【大谷翔平「50-50」の舞台裏・後編】無二の記録保持者となった大谷が語る、歴史を塗り替える醍醐味とは?

丹羽政善

9月19日のマーリンズ戦の七回、打球の行方を見守るファンと大谷翔平。この後、彼は「50-50」クラブの創設者となる 【Photo by Megan Briggs/Getty Images】

 テオスカー・ヘルナンデスが記者に囲まれているとき、会見場に残ってMLBネットワークにリモート出演していた大谷翔平(ともにドジャース)が、クラブハウスに戻ってきた。

 ちょうどそのどき、ヘルナンデスが「最後の打席に入るとき、『右中間へ打て』って言ったんだ」と話しているところだった。「右中間を抜けば、三塁打の可能性が高くなるからね」。

 三塁打を打てば、キャリア2度目のサイクル安打。達成すれば、「50-50」にさらなる華を添えることになる。

 ただ、数メートル先のロッカーで着替え始めた大谷が、ガヤを飛ばした。

“You said to hit a triple! (三塁打を打てと言ったじゃないか)”

 外野の間を抜け、といった間接的な表現ではなく、ストレートに「三塁打を狙え!」と言ったよう。

 ヘルナンデスは「そうだっけ?」ととぼけた。

 いずれにしてもその打席で大谷は、3本目の本塁打を放ち、「50-50」の偉業を6打数6安打、3本塁打、2二塁打、2盗塁、10打点という数字で締めくくった。

外野席は空席を探すのが難しい状況

「50-50」の幕開けは初回。二塁打で出塁した大谷は1死後、フレディ・フリーマンとダブルスチールを成功させた。前編でも触れたが、タイミング的にはアウト。しかし、三塁手のタッチのタイミングがズレた。

 49号が飛び出したのは六回。ジョージ・ソリアーノ(マーリンズ)の内角低めのスライダーをすくい上げると、白球は右中間の二階席中段に飛び込んだ。

 あと1本――。この後、多くのファンが、外野席へ移動を始めている。

 49号の着弾地点は、人がまばら。わずか数人の争奪戦だった。ところが、七回表の攻撃が始まるときには、右翼二階席が多くのファンで埋まった。もちろん、左中間の立見席にも人が集まり始めた。

 大谷に打席が回ってくるなら八回か、というところだったが、打線が繋がり2死二、三塁という場面で大谷が打席に向かう。その時点では外野席は、空席を探すのが難しい状況だった。

 さて、そこでしばし、試合が中断されている。ボールボーイが新しいボールを主審に届け、そのボールが投手のマイク・バウマン(マーリンズ)に渡された。

 それは記録のために準備された特別記念球。大谷がホームランを打った場合、それがファンの手に渡るのか、本人に戻ってくるのかはわからないが、いずれにしてもそれが本物だと証明するナンバリングなどがしてあるのが普通。ファールが客席に飛び込むこともあるので、1球1球、トラッキングされる。MLBでは記録がかかるたびにそうした準備が行われ、今回は数字の他、審判立ち会いのもと、記号が描かれていたという。

 大谷が会見で、「打席前にボールを変えてもらったり、時間をとってもらったりしていたので、早く決めたいなと思っていた」話したのは、そういうことである。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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