独立Lのドラフト候補投手たち 海外で活躍する選手も続々「環境に適応するマインド」を持つのは?

金沢慧

徳島ISの右腕・白川恵翔。期限付きで移籍した韓国で成長した姿を見せた 【写真提供:IBLJ】

 2023年のドラフト会議では育成選手も含め独立リーグから過去最多となる23選手の指名があった。ドラフト戦線で存在感を増している独立リーグには今年どのようなドラフト候補がいるのか。投手、野手編と2回にわたって紹介する。

KBOで人気者となった白川恵翔

 昨年のドラフト会議で最も話題になった独立リーグのチームは四国アイランドリーグplus(IBLJ)の徳島インディゴソックス(徳島IS)だろう。椎葉剛(阪神・2位)、宮澤太成(西武・5位)、井上絢登(DeNA・6位)と支配下の3名を含め、合計6選手が指名された。

 実は昨年の徳島ISにはもう2人、指名されておかしくない選手がいた。1人は新球団「くふうハヤテベンチャーズ静岡」に移籍し、ウエスタンの首位打者争いをしている増田将馬。もう1人は今年も徳島ISに残留し、5年目のシーズンを迎えている白川恵翔だ。

 白川に転機が訪れたのは5月。韓国プロ野球(KBO)の「代替外国人選手制度」でSSGランダースに期限付き移籍することになったのだ。白川はSSGと斗山ベアーズの2球団に所属して12試合に先発。4勝5敗、防御率5.65という成績を残し、8月下旬に帰国した。KBOは1試合平均得点が5点を超える打者優位の環境でもあり、日本の独立リーグから急遽獲得した若者の成績としては及第点だろう。球団のSNSを眺めると成績以外の点でも白川がチームメイト、ファンに愛されていた様子が伝わってくる。

 NPBの各球団に指名された独立リーグ出身投手が新しい環境に苦戦する中で「指名漏れ」した白川が大歓声を浴びて投げ続けた。地元の池田から徳島ISに入り4年間を過ごし、新しい環境に適応できるかは未知数だったが、文化やストライクゾーンの異なる韓国である程度順応した姿を見せたことは、関係者にも頼もしく映ったはずだ。今週末に行われるIBLJ年間総合優勝をかけた「トリドール杯 チャンピオンシップ(CS)」で勇姿が見られるか、そして10月24日のドラフト会議でどの球団が指名するか注目したい。

 今年は白川以外にも海外移籍の例があり、例えば台湾プロ野球(CPBL)の台鋼ホークスでは小野寺賢人、楽天モンキーズでは鈴木駿輔という昨年、一昨年の「日本独立リーググランドチャンピオンシップ(GCS)」決勝で先発した独立リーグを代表する投手が海を渡った。

 昨年は独立リーグのドラフト指名が増えたが、一軍で年間通して活躍した投手は出ず、むしろ白川、小野寺、鈴木といった「指名漏れ」した投手の韓国、台湾での活躍の方が目立っていたように思える。NPBの球団から独立リーガーの基礎体力やスキルはすでに認められているだけに、今年はそれだけではない人間のマインド面、特に環境の変化に適応できる心構えかどうかを見極めてくるだろう。

スポナビ野球速報データから見るドラフト候補

 マインド面をより細かく見るにしても、指名候補としてリストアップされる前提となるのはあくまでも基礎体力やスキル、試合でのパフォーマンスだ。

 昨年のIBLJに続き、今シーズンからルートインBCリーグ(BCL)もスポナビでの速報が始まったため、1球ごとのデータを集計することが可能となった。投手の試合でのパフォーマンスを測る指標として手っ取り早いのは球速であり、まずはストレートの平均球速から見ていきたい。

【筆者作成】

 上の表はIBLJとBCLのレギュラーシーズンのストレート平均球速をランキング化したものだ。比較対象とするため、元阪神で今季は高知ファイティングドッグス(高知FD)に在籍したドリスなど、ドラフト対象外の選手も含めている。

 IBLJとBCLで最も速かったのは愛媛マンダリンパイレーツ(愛媛MP)の羽野紀希。今年は最高球速157キロをマークした。愛媛MPは21日からのIBLJのCSで徳島ISと対戦するが、昨年はCSに20名ほどのNPB各球団のスカウトが集っており、今年も良いアピールの場となるはず。羽野も前述の白川同様に昨年からドラフト候補として名前が上がっているだけに、成長した姿を見せたいところだ。

 11年連続NPBドラフト会議での指名選手を輩出している徳島ISの中で、今年最も速い球を投げているのは工藤泰成。最速では159キロをマークしたストレートに加え、リーグ関係者からも「なんとしても上のレベルに行きたいという熱意が最も現れているのは工藤」と言われるようなマインド面でも評価されそうだ。

 ここ数年で石井大智(阪神)、宮森智志(楽天)ら一軍で活躍する右腕を輩出してきた高知FDからは若松尚輝が最有力。昨年は故障もあり指名漏れとなったが、今春に復帰し後期からは主戦として活躍している。今年はスライダーの球速が上がっており、平均133キロで被打率1割台と打たれていない。

 BCLでは茨城アストロプラネッツ(茨城AP)の佐藤友紀がドラフト対象投手の中で最上位。今季途中からサイドスローに転向した大卒2年目右腕で、横曲がりのスライダーも大きな特徴だ。セ・リーグでは今年28歳になる2年目のサイドスロー・船迫大雅(巨人)が最優秀新人の有力候補となっており、遅咲きでも活躍している前例がある。佐藤の将来像をイメージしやすいという意味で指名への追い風となりそうだ。

【筆者作成】

 ストレートの球質が良い投手をリストアップするために奪空振り率のランキングを見ると、徳島ISの川口冬弥がトップ。川口は平均球速こそ同僚の工藤にやや劣るが空振りを奪う能力は高く、球質面で評価される可能性が高い。今年25歳になる年齢を含めてどう見られるか。同じ徳島ISでは、サイド気味の腕の振りから最速150キロの速球を投げ込む中込陽翔、身長186cmの本格派右腕・宮路悠良も上位に入っている。

【筆者作成】

 変化球の奪空振り率を見ると、BCLを制覇した神奈川フューチャードリームス(神奈川FD)のクローザー・関野柊人がトップ。関野はストレートと縦、横の変化球で打者を寄せ付けず、リーグ戦の自責点は1、防御率0.35と無双していた。最速は150キロと驚くほど速い球があるわけではないが、精度の高い複数の球種を持っている点は高く評価されるだろう。

 ここまでデータから上がった名前はほぼ右腕なので、左腕も少し紹介しておきたい。まずは神奈川FDの安里海。BCLで最多の113イニングを投げリーグトップの11勝、113奪三振の成績を残しており、今年のBCLを代表する投手と言って良いだろう。横手気味の腕の振りも独特で希少価値は高そうだ。

 BCLでは他にも防御率1位に輝いた埼玉武蔵ヒートベアーズ(埼玉武蔵HB)の大宅健介、チームトップタイの8勝をマークした信濃グランセローズ(信濃GS)の山田夢大ら先発左腕が各チームで活躍した。

 いずれもストレートの最速が140キロ台前半〜半ば、平均球速は130キロ後半だが、NPB各球団のスカウトやフロントがどのように評価するか注目したい。

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著者プロフィール

1984年生まれ、福島県出身。学習院大学在学中の2005年夏の甲子園で阪神園芸での整備員アルバイトを経験するなど、基本的には高校野球マニア。 筑波大学大学院体育研究科を修了後、2009年にデータスタジアム株式会社に入社し野球のアナリストとして活動を始めた。NHK-BSで放送されている「球辞苑」には2015年から出演している。2018年からは本所属を株式会社リクルートテクノロジーズ(現・株式会社リクルート)のデータ利活用の部署に移し、主にHRメディアでのデータ分析環境の整備や機械学習を用いたアプリケーション開発のPMOとして従事した。 2022年10月に独立し、現在は四国アイランドリーグplusのアナリティクスディレクターなどプロスポーツリーグ等でのHR領域のデータ活用推進を行っている。また、スポーツアナリティクスジャパン(SAJ)2022ではプロジェクトマネージャーを担うなど、スポーツをきっかけとした文化交流のカンファレンスやイベントの企画、運営にも携わっている。

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