町田のピンチを救い、J1首位返り咲きに貢献 「奇跡の40歳」中島裕希が持つ価値
背中で引っ張るベテランが持つ価値
中島は練習から若手のお手本となっている 【(C)FCMZ】
2017年4月8日の福岡戦は「出場8分間でハットトリック」という驚異的なプレーを見せ、数的不利下の逆転を演出した。彼が「アビスパキラー」と言われるきっかけになった試合だ。
もっとも30代後半を迎えると得点と出場時間が減り、特に今季は超強力なライバルとポジションを争っている。韓国代表のオ・セフン、オーストラリア代表のデューク、U-23日本代表の藤尾、昨季のJ2 MVPエリキが同じポジションにいるのだから、出番が減るのは当然でもある。
それでも中島はチームの戦力だ。シャイで控えめな彼は言葉で多くを伝えるタイプではない。しかし試合に出られなくてもベンチに入れなくてもモチベーションを落とさず、練習から全力を尽くせる男だ。だから15歳下のチームメイトから「裕希くん」と親しまれるような関係性は持ちつつ、尊敬を集められる。
どんなスポーツでも「背中で引っ張れる」「お手本になれる」ベテランは必要不可欠だ。試合に出ても、中島は若手並みに走る。Jリーグ公式サイトに掲載されたデータによると、福岡戦で彼が記録した総走行距離は74分で8.017キロメートルと高水準。スプリントの本数14本も藤本(16本)、ナサンホ(15本)らサイドハーフと並ぶ数字だった。
40歳が日々全力を尽くす様子を見て、20代の若者たちが手を抜けるはずもない。
日常が生んだ奇跡
中島の活躍は間違いなくチームを勢いづける 【(C)FCMZ】
J1で快進撃を見せる町田が「いずれ減速する」と思っていたサッカーファンは多いだろう。ただ黒田剛監督が率いる町田は、昨季からしぶとさが持ち味になっていた。一つ負けても連敗しない。誰かが欠場したとき、代役に抜擢された選手が活躍をする――。そんな現象がこのクラブではよく起こっている。
もっともそれは「ピンチになったとき」「試合に出たとき」だけ頑張っているという意味でない。日々の練習から全力を尽くし、試合から離れている選手も同じ緊張感で取り組んでいるからこそ、町田は誰が出ても崩れない。そんなチームカルチャーを長く支え、象徴する存在が中島だ。
J1から9年遠ざかっていた、今季2試合目の出場となる40歳が「J1首位のFW」として十分な貢献を見せた。それは明らかに奇跡的な出来事だ。その奇跡は日常の地道な取り組みから生まれている。