週刊MLBレポート2024(毎週金曜日更新)

「一番確率が低そうな球を選択した」 今永昇太が述懐する、大谷翔平との5カ月ぶりの再戦

丹羽政善

「一番確率が低そうな球を選択した」

 前回ーー4月7日の対戦は降雨中断のため、今永が4回で降板。大谷との対戦は三振と三邪飛の2打席だけだった。1打席目の三振はファールで粘られ、9球目に仕留めたが、様々な駆け引きの中、今永は最後まで冷静だった。最後、内角の真っ直ぐ高めで空振りを奪うと、「逆風だったので、ライトに大きな当たりを打たれる分にはまだリスクが低い」と振り返っている。「直球は引っ張られてもいいかなと思って、最後は高めに投げました」。

 詳細は下記を参照してほしいが、今回、そんな二人の対戦は序盤の山場に訪れた。1対1と同点の三回裏、無死一、二塁という場面で大谷に打席が回ってきたのである。

3回、大谷翔平を一ゴロ併殺に仕留めた今永昇太 【写真は共同】

 大谷の登場曲、シカゴ出身のラッパー、ルーペ・フィアスコの代表曲でもある『The Show Goes On』がかかると、客席のボルテージが一段と増す。その声援を背に受けて打席に入った大谷は、いつものようにホームベースからの距離をバットで測り、左足の立ち位置を固定した。

 今永は初球、外角低めのボールになるスライダーを投げ、まずは空振りを奪っている。

「ランナーを置いてホームランだけは避けなければいけないので、遠く、低くっていうボールから入っていった」

 これは計算通り。しかし、2球目、3球目が誤算。2球目はスライダーが遠く外角に外れ、3球目のチェンジアップは内角に抜けた。

「力んでしまった」

 早く追い込みたい、あるいは、早く打ち取りたいという気持ちが、力みにつながったか。

 2−1とボールが先行したことで、誰もが真っすぐをイメージしたはず。本人も例外ではない。もっとも自信のあるボールでもある。4月の対戦のときには真っ直ぐで三振を奪ったこと、彼の4シームが特殊であることにも触れた(上記リンク参照)。

 補足するなら、彼のVAA(※)は-4.27°で、回転数、回転効率を総合すると、打者にはホップしていると映る球筋。大谷も1打席目、ボールの下を叩いた。

※ VAA=投球がホームベースに到達する時点での角度。地面と平行であれば0度。フォーシームであれば大リーグ平均は-5°程度で-4°前後なら打者の目にはホップして映るといわれる。

 おそらく高めであれば、少々ボール気味でも大谷は手を出してくれる。ファールを取れれば2-2、うまくいけばフライに打ち取れるーーそんな計算が働いたはずだが、「僕が想像できることは、おそらくバッターも想像できること」と今永。真っすぐを頭から消した。

「自分の得意球ではなくて、相手が(大谷が)予測してなさそうな、分からないですけど、一番確率が低そうな球を選択しました」

 結果は一塁ゴロ併殺。当たりは痛烈だったが、それがかえって併殺を楽にした。

「50-50」まであと一歩

9月11日のカブス戦で、シーズン最多となる47号本塁打を放った大谷翔平 【写真は共同】

 もっとも2−1になったとき、別の考えも今永の頭をよぎったという。それが冒頭で紹介した言葉である。

「フォアボールを出して、ノーアウト満塁のほうが、まだいいんじゃないか」

 冗談にも聞こえたが、わかりやすく今季の大谷を言語化してくれた。

 続く五回の3打席目はライトフライ。大谷の打球はフェンス前で失速した。「リグレーだったら入ってたかなぁ、というような気持ちにはなりましたね」と今永。「先っぽだったので、これが入ったらちょっと勘弁してくれよ、という気持ちでは見てました」。

 バットの先端でも打球初速は99.6マイル(約160キロ)を記録。柵を越えるかどうかは、まさに紙一重。一塁ゴロ併殺も、少しでもどちらかにズレていたら、どうなっていたか。彼らは9月10日、18.44メートルの距離を挟んで、そんな勝負をしていたのである。

 さて翌11日、大谷は右翼にライナーの47号を放ち、48個目の盗塁も決めた。

「50-50」にまた一歩迫り、「次のホームスタンドに持ち越すことはないかな。マイアミあたりで決まるだろう」とデイブ・ロバーツ監督。

「地元ファンには申し訳ないけどね」

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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