慶大の4番・清原正吾を広澤克実が徹底分析「神宮で衝撃的なアーチを打って巨人入団が理想」

平尾類

現段階でお父さんと比べるのは正吾君に失礼

父の清原和博氏は言わずと知れた大打者。NPB歴代5位の525本塁打を記録したレジェンドの息子として生まれたのは「運命」だと広澤氏は語る 【写真は共同】

 父の清原和博氏と広澤氏は右のスラッガーという共通項を持ち、同時代に切磋琢磨した。ヤクルトと西武の日本シリーズでは双方の4番打者として対戦し、巨人ではチームメイトとしてプレーした。

「みなさんがご存じの通り、お父さんは天才打者です。PL学園の1年生から華々しい活躍をして、プロ入り後も高卒1年目で31本塁打を打って、オールスター、日本シリーズと大舞台にも強かった。正吾君は清原和博の息子でなければ、ここまで注目されなかったでしょう。

 今の段階で偉大な成績を残したお父さんと比較するのは、大学で一生懸命頑張っている彼に失礼だと思う。実力的に言えば、慶大の主軸を担った先輩の萩尾匡也(巨人)、柳町達、正木智也、廣瀨隆太(いずれもソフトバンク)、福井章吾(トヨタ自動車)に比べて2つも3つも下です」とシビアな見方を示したうえで続けた。

「でもね、清原和博の息子として生まれたことは運命なんです。周囲に注目されることが宿命ですし、この境遇を活かせるかどうかは彼次第です。

 例えば、プロのスカウトが早大の鳥谷敬(元阪神など)を見に行ったら、センターにちょこちょこ動き回る選手がいた。『打撃はたいしたことないけど、足が速いから獲っとけ』とヤクルトにドラフト4位で指名されたのが青木宣親です。亜大のエースだった小池秀郎(元近鉄など)がドラフトの目玉で注目されていた時、同学年で変則的な投げ方をしていたのが髙津臣吾(現ヤクルト監督)でした。広島工業でも2番手投手で日の目を見たわけじゃないけど、他の選手を見に来たスカウトを振り向かせた。実力は当然ですけど、スターになる選手は運を引き寄せる力を持っている。

 じゃあ、正吾君がその運を活かすためにどうしたらいいか。右打ちがうまくてもプロの評価は上がらない。1本でいいから今秋のリーグ戦で衝撃的なアーチを打つことです。勝負を決める一発だったら最高ですし、どんな状況でも神宮の左翼スタンドの最上段に打ったら文句なしです。間違いなくドラフトで指名がかかるでしょう」

育成枠でもドラフト指名されたらチャンスはある

まだまだ課題は多いが、長距離打者としての資質は十分。今秋のリーグ戦で「ド派手なアーチを打ってほしい」と広澤氏は期待を寄せる 【写真は共同】

 長打を打てる右の強打者はNPBで希少価値がある。自分の長所を磨く観点から、清原に引っ張った豪快なアーチを望む広澤氏の言葉には説得力がある。さらに具体的な打撃技術に踏み込み、清原がステップアップするうえで必要な要素は何だろうか。広澤氏は分かりやすく解説してくれた。

「今は1球1球、球種を読んで引っ張ったり、おっつけたりと打ち方を変えていますが、プロの世界では捕手に構えやスイングで簡単に狙いを見破られます。球種を読むことは大事ですが、土台となる打撃で考え方を変える必要が出てきますよね。

 一流と呼ばれる打者は直球、変化球のどちらにも対応できる。直球を待ちながら、変化球に対応する打者を野村克也監督が『A型』と分類していたのですが、この能力が非常に高かったのが、正吾君の父さんです。『なんでもいらっしゃい』というスタンスでどの球種もきっちり自分の間合いで捉えていた。正吾君はこの『A型能力』がまだまだなので、磨かなければいけない。

 ただ、練習すればその能力が身につくほど甘いものではありません。プロは1日500スイング、キャンプ中は1000スイング以上振り込みますが、良い動作でなく、悪い動作が身についてしまう危険性がある。人間の脳、筋肉は良い打ち方、悪い打ち方をその時点で判断できません。悪い動きを覚えて長所が消えてしまった選手を何人も見てきました。彼自身の努力はもちろんですが、指導者との巡り合わせがこれから重要になってくるでしょう。方法論を模索して何かのきっかけで、コツをつかんだ選手が1軍で活躍できる世界です」

 父の和博氏はドラフト時に巨人入団を熱望していたが、西武に1位指名で入団し、巨人、オリックスの3球団でNPB歴代5位の525本塁打をマークした。清原にとって今秋のリーグ戦は自身の今後の野球人生を占う重要な分岐点となる。

「育成枠でも指名されたらチャンスがあります。プロ入り後に支配下昇格して球界を代表するスターになった選手がたくさんいますから。特に巨人とソフトバンクは球団施設、野球に打ち込む環境が充実していて、実戦の数が多い。清原家の思い、正吾君の思いを考えると巨人に入団するのが理想じゃないですかね。もちろん、他球団でもプロに入った時点で大成功だと思います。先程も話しましたが、今秋のリーグ戦で1本でもいいから、記憶に残るド派手なアーチを打ってほしいですね」

 神宮の空に運命を変えるアーチを描けるか。大学野球の総決算となる今秋のリーグ戦。清原の打席が楽しみだ。

<企画・編集/YOJI-GEN>

清原正吾(きよはら・しょうご)

2002年8月23日生まれの22歳。東京都出身。小学3年の時に少年野球チーム「オール麻布」で軟式野球を始める。慶応義塾普通部でバレーボール、慶応義塾高ではアメリカンフットボール部に所属。慶応大野球部に入部し、1年春から東京六大学野球フレッシュトーナメントに出場して1年秋から4番を務めた。2年秋の東京六大学リーグ戦でデビュー。3年春は7番・一塁で開幕スタメンをつかみ、法政大3回戦で初安打を記録した。3年秋はリーグ戦出場なしに終わったが、4年春のリーグ戦は13試合にスタメン出場。12試合で4番を務め、52打数14安打で打率.269、0本塁打、7打点をマークし、一塁手のベストナインに選出された。身長186センチ・体重90キロ。

広澤克実(ひろさわ・かつみ)

【平尾類】

1962年4月10日生まれの62歳。茨城県出身。中学時代は野球に打ち込む一方で、柔道部に所属して北関東準優勝の実績がある。小山高では甲子園出場はならなかったが、右の長距離砲として名を轟かせた。明治大では3年春、秋に2シーズン連続首位打者を獲得し、4試合連続本塁打の新記録を樹立(現在のリーグ記録は5試合連続)。大学4年時にロサンゼルス五輪の日本代表に選出され、決勝・米国戦で本塁打を放つなど金メダル獲得に大きく貢献した。ヤクルトにドラフト1位で入団し、打点王を2度獲得するなど不動の4番として活躍。1993年は日本シリーズで西武を破り、初の日本一を経験した。その後は巨人、阪神でプレーし、両球団で4番打者を務めた唯一の選手に。NPB通算1893試合出場、1736安打、打率.275、306本塁打、985打点。現役引退後は阪神の打撃コーチ、カンボジア代表コーチを歴任。現在は解説者のほか、野球の普及活動に精力を注いでいる。

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著者プロフィール

1980年4月10日、神奈川県横浜市生まれ。スポーツ新聞に勤務していた当時はDeNA、巨人、ヤクルト、西武の担当記者を歴任。現在はライター、アスリートのマネジメント業などの活動をしている。

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