「戦国」と呼ばれる東都大学は下剋上リーグ 今秋リーグ戦で青学大の4連覇を阻むとしたら…

上原伸一

今春のリーグ戦は青学大が制して3連覇を達成。東都大学は東京六大学と並ぶハイレベルなリーグで、この秋も神宮球場を舞台に熱い戦いが繰り広げられる 【写真は共同】

 東京六大学とともに大学野球を牽引するのが東都大学だ。9月2日にひと足早く2部の秋季リーグがスタートしたが、9日には1部も開幕する。「戦国東都」「実力の東都」などと呼ばれるこのリーグの魅力とは? そして、約1カ月半にわたって行われる今秋の1部リーグ戦はどんな展開になるのだろうか。

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1部と2部を合わせた12校は力の差がない

 東都大学野球リーグは「戦国東都」と呼ばれる。戦国時代の「戦国」である。日本の戦国時代は、天下統一をめぐって戦国大名が合戦を繰り広げた。下剋上の機運も高まり、誰が権力を握るか先行き不透明な時代であった。

 ではなぜ、東都の代名詞が「戦国東都」なのか?

 現在、東都は1部から4部までのリーグがあり、計22チームで構成されている(1部から3部までは各6チーム、4部は4チーム)。毎シーズン、上位リーグ最下位と下位リーグ最上位による入れ替え戦が行われており、前者は敗れると「降格」に、後者は勝つと「昇格」になる。つまり、次のシーズンは立場が変わってしまうのだ。まさに下剋上である。

 なんとしても留まりたい上位リーグ最下位校と、是が非でも昇格をしたい下位リーグ最上位校。入れ替え戦は、毎シーズン、激闘が繰り広げられる。

 なかでもその座を死守したいのは1部校だ。1部リーグは学生野球のメッカであり、東京ヤクルトスワローズがホームとする神宮球場で試合ができるが、2部に落ちると使用できない。

 かつて2部は、外苑再開発で現在は取り壊された神宮第二を主戦場としていた。1961年開場の神宮第二はスコアボードが手書きなど、古き時代の趣がある球場だったが、一塁側スタンドにはゴルフ練習場があり、グラウンドのサイズも神宮と比べるとかなりコンパクトだった。

 プレー環境が大きく異なるため、1部から2部に降格すると都落ちしたような心境になったという。

1部への返り咲きは簡単ではない。最多優勝記録を持つ名門・専大もなかなか這い上がれず、17年秋から2部での戦いが続く 【YOJI-GEN】

 すぐに昇格できればいいが、東都の監督は「1部と2部を合わせた12校はほとんど差がない」と口を揃える。それは今秋2部で戦う学校を見てもよくわかる。春は2部2位だった専修大は1部リーグ最多の32回の優勝を誇り、同3位の東洋大は1部の優勝が20回。春の入れ替え戦で東京農業大に敗れ、2部降格となった駒澤大は1部で27回、覇者になっている(亜細亜大と並ぶ歴代2位タイ)。

 つまり2部に落ちると、再昇格へのハードルはかなり高いのだ。実際、名門・専修大は2017年春の入れ替え戦で2部降格になって以来、1部の舞台から遠ざかっている。

 2部校になってしまうと、有望な高校生の勧誘にも影響を及ぼす。1部校にとって、入れ替え戦に回らない、つまり最下位にならないことは大きなテーマなのだ。

「開幕カードで勝ち点(先に2勝すると勝ち点1が与えられる)を落とすと、優勝戦線に残ることよりも、入れ替え戦回避を目指し、まずは5位以上の目安となる勝ち点2を目指す」と語る1部校の監督は多い。

 入れ替え戦を回避したいのは、2部を制した学校には勢いがあるのも理由の1つ。2000年春から今春までの1部と2部の入れ替え戦の結果を見てみると(05年春は亜大の不祥事で立正大が自動昇格、20年春はリーグ戦が、20年秋と21年秋は入れ替え戦が新型コロナの影響で中止)、25度の入れ替え、つまり25度の下剋上が起こっている。

 2010年春の立正大や2011年春の国学院大など、前のシーズンの1部優勝校が入れ替え戦で敗れ、2部降格になった例もある。

 3校が勝ち点2で並んだ今春は、最下位回避の争いも熾烈だった。毎シーズン入れ替え戦も熱いが、こちらも熱い。

メジャーで活躍する吉田正や今永も東都出身

今をときめく今永も東都から大きく羽ばたいた選手だ。駒大ではリーグ戦通算18勝。3年秋には優勝の原動力となり、MVP、最優秀投手、ベストナインに選ばれた 【写真は共同】

 東都は東京六大学野球連盟が発足した約5年半後の1931年4月に産声を上げた。入れ替え戦の歴史は古く、1936年に最初の1部と2部の入れ替え戦が行われている。

 東都が「戦国」の様相を呈すようになったのは、亜大や駒大といった当時の新興勢力が台頭してきた昭和40年代に入ってからと言われる。昭和44年(1969年)春には「大下剋上」も起こった。1部に昇格したばかりの日大が優勝したのだ。2部から昇格して即優勝は、東都史上初の快挙だった。

 東京六大学と東都の大きな違いは、東京六大学が6校による対抗戦であるのに対し、東都には入れ替え戦や降格があるということだ。人気の点でも、土日を中心に開催される東京六大学はスタンドも華やかだが、平日開催の東都は空席が目立つ。

 それでも東都の各校は、低迷すれば、入れ替え戦や降格が待っている危機感を持ちながら、東京六大学に追いつけ追い越せとレベルを高め合ってきた。1964年には駒大、翌年に専大、続いて日大、中大が大学選手権を制し、東都の優勝校が4年連続日本一。この頃から「実力の東都」と呼ばれるようになった。

 今春までの東都勢の大学選手権における優勝回数は、東京六大学連盟と同じ26回。明治神宮大会も東京六大学と並ぶ16回と、最多優勝を分け合っている。東都は東京六大学とともに大学野球を牽引する存在である。

 選手個々のレベルも高い。今年、プロ(NPB)入りしたドラフト1位指名選手12名のうち7名が東都の選手だった。メジャーでも東都出身者が活躍しており、昨年のWBCでも活躍したレッドソックスの吉田正尚は青山学院大のOB、メジャー1年目ながらすでに12勝をマークしている(9月6日現在)カブスの今永昇太は駒大のOBである。

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著者プロフィール

1962年、東京生まれ。外資系スポーツメーカーなどを経て、2001年からフリーランスのライターになる。野球では、アマチュア野球のカテゴリーを幅広く取材。現在はベースボール・マガジン社の『週刊ベースボール』、『大学野球』、『高校野球マガジン』などの専門誌の他、Webメディアでは朝日新聞『4years.』、『NumberWeb』、『ヤフーニュース個人』などに寄稿している。

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