バレー代表・岩崎こよみが伝える「労ることの大切さ」 子どもたちへの指導を通して感じたオリンピアンの役割

田中夕子

厳しい練習に耐えるだけではなく

中学生たちとのキャンプでリラックスした時間を過ごした 【写真提供/花井政浩,TUS】

 スッキリした気持ちでバレーキャンプに講師として参加し、目を輝かせて「トスを上げてください」とボールを持ってくる子どもたちと接するうち、やってみたい、伝えていきたいと思うことも新たにできた。

「クールダウンのところを担当させてもらったんです。練習は一生懸命頑張るけど、その分労わったり、身体を休ませることはなかなかできていないので、小さい頃からその習慣をつけてほしい。『心と体を労わることが大事なんだよ』というのをとにかく伝えたい、と思ったんです」
 
 好きだから、と始めたスポーツもエリートレベルになって、目標が大きくなればなるほど、鍛錬するのが当たり前で極端に言えば休むことは悪いこと、と捉えられてしまいがちだ。その結果どうなるか。ケガが多発したり、心に余裕がなくなり心身の健康が意地できず、競技を断念せざるを得ないケースを何度も見てきた。

 岩崎自身もかつてアキレス腱を断裂し、長期のリハビリを経験した。そして21年には長男を出産し、バレーボール選手としての生活は一時期休み、そこからひとつひとつプロセスを踏んで復帰を果たし、今に至る。

「日本のアスリートって、頑張るのは上手だけど、労わったり休むことにすごく抵抗がある。サボっている、みたいに思っちゃうんです。でも私が35歳まで現役でできているのは、心身ともに健康で丈夫だから。むしろ出産前よりも充実した選手生活を送れるようになったし、とにかく頑張れ、厳しい練習に耐えるように、と言うこともできるのかもしれないけれどそれだけじゃない、とオリンピックに出た選手が言うことに意味があるのかな、私にできることを伝えたいな、って思うようになりました」

 オリンピックという憧れだけでは語れない、時に厳しさを伴う環境で過ごした経験も、そんな考えをより強くさせるきっかけになった。

「自分の弱さと向き合う時間も多かったし、プレッシャーもあれば、今まで感じたことがないようなワクワクもあって、感情の浮き沈みがものすごく大きい中で自分を保つ難しさ。その状況でもコンディションを整えて、コートの中で結果を出す大変さを知りました。そこで戦うタフさも大事だし、折れないしなやかさも大事。それは私がオリンピックに出たからこそわかることだし、オリンピックを経験して、キャンプで子どもたちと接して、今まで以上により強く、伝えたい、と思ったし、伝えていきたいです」

 中学生たちとのバレーキャンプで進路相談や他愛ない話で心身ともにリラックスした時間を過ごし、10月になればSVリーグが始まる。休む間なくまた戦う日々が続くが、根底にある「バレーボールが大好き」で「だからこそ少しでも長く続けたい」思いに変わりはない。これからも楽しく、自分らしく、しなやかに。目を輝かせる中学生と同じように、岩崎こよみも大好きなバレーボールと向き合っていく。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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