富永啓生が再認識した“一つ一つの積み重ね”の重要性 フィジカル強化を経て「起爆剤」となった開幕戦
【写真:ロイター/アフロ】
2018年のウインターカップで得点王に輝いた富永は、高校卒業後に活躍の場をアメリカに移した。レンジャー・カレッジでの活躍が認められ、2021年にはNCAAディビジョンIのネブラスカ大学へ転入する。しかし、このネブラスカ大学の1シーズン目に、キャリア初のローテ落ちを経験することになるのだった。
ネブラスカ大学での3シーズンを軸に家族との絆やワールドカップなど思い出を振り返る富永の自叙伝『楽しまないと もったいない』には、1シーズン目の挫折からエースとしてチームをNCAAトーナメント出場に導いた3シーズン目の活躍に至る過程が赤裸々に綴られている。
パリ五輪での経験をバネに、夢であるNBA入りを達成する。そんな富永の姿を信じたくなる一冊だ。
この連載では、同書の中から富永の成長の過程とそれを支えた考え方を紹介していく。
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3x3で痛感したこと
3x3がその典型例だ。
レンジャー・カレッジ卒業後に僕は3x3の日本代表に選ばれ、東京オリンピックに出場することになった。五人制のバスケットボールでは通常のフィールドゴールが2点なのに対し、アークの外から決めたフィールドゴールは3点なので、1・5倍の価値がある。これが3x3になると得点の配分が1点と2点になるため、アークの外から決めるシュートの価値が2倍と、相対的に五人制より高くなる。外からのシュートが得意な僕にとってはこの上ない条件だ。
ところが、この競技には僕にとって不利な面もある。
3x3では六人しかフロアにいないので、五人制と比べるとスペースが広大だ。それにも関わらず相手に2点を決めさせたくない。そうなると、ディフェンスは意地でも1on1を止めなくてはならなくなる。2点を封じるには深くヘルプに行くわけにはいかないからだ。
3x3は長身でオールラウンドにプレーができる選手が多い。僕もエナジーを出してディフェンスする方だが、ヨーロッパの大きくて屈強な選手たちを1on1で守り続けるのはなかなかしんどかった。
東京オリンピックのチームメートは帰化枠のアイラ・ブラウン、Bリーガーの保岡(龍斗)さん、そして3x3界のレジェンド落合(知也)さんの三人だった。
僕は保岡さんと共に、主に外から得点を取る役割を担った。チームで一番のエリート・アスリートであるアイラには攻守に渡って能力を発揮することが期待された。
そんな中、オフェンスの時はスクリーン、ディフェンスの時はポストのディフェンスと、外国の選手を相手に体を張り続けたのが落合さんだ。
落合さんと初めて会ったのは高校か高校を卒業してすぐぐらいの頃で、僕は3x3のU23代表、落合さんはフル代表という立場だった。とにかく体が強く、ガンガン体を当ててくる落合さんを全く止められなかったのをよく覚えている。
試合中は例え落合さんが相手でも負けん気が出る僕だが、高校生の頃はコートを離れると割と人見知りな方だったので、知り合った当初は見た目がいかつくプレーも激しい落合さんを敬遠していた。
しかし、代表で共に遠征や合宿をする中で、本当は親しみやすく面倒見もいい人だと知り、いつの間にか僕の兄貴のような存在になっていた。
落合さんが面白いのは、僕にくれるアドバイスの内容がバスケットボールと関係ないというところだ。例えば自分の身なりに投資する意義や、SNSのフォロワー数の価値など、他の先輩とは違ったことを教えてくれる。
ここ数年は帰国のたびに必ず落合さんと食事に行くのだが、毎回ご馳走になっている。兄貴、いつもありがとう。
さて、話をフィジカルに戻そう。
落合さんが外国の選手相手にも体を張るという話をしたが、落合さんは趣味のようにウエイトトレーニングをこなす。当然のことながらトレーニングで上げるウエイトも僕より重い。それも段違いに重い。一度「啓生、これを上げてみろ」と言われたので落合さんの上げているウエイトに挑戦したが、全く上がらなかった。
フィジカルが強くなれば外国の選手ともやりあえる。しかし、そのためには落合さんのようにトレーニングに励まなければいけないことは明らかだった。