現地発! プレミア日本人の週刊リポート(毎週水曜更新)

三笘薫がプレミア開幕戦で極上の輝き ファンタスティックな先制弾を偉人シアラーも大絶賛

森昌利

先制点となるゴールを挙げただけでなく、得意のドリブルも冴えわたり、さらに守備面でも貢献。開幕戦からエンジン全開の三笘は、3-0の快勝の原動力となった 【写真:REX/アフロ】

 2024-25シーズンのプレミアリーグが幕を開けた。ブライトンの開幕戦は8月17日。エヴァートンの本拠地グディソン・パークに乗り込んだこの今季初戦で、三笘薫がいきなり魅せた。自らのゴールで先制点をもたらし、ドリブルの切れ味も抜群。怪我に泣いた昨季は不完全燃焼だったが、チームも3-0の快勝と、最高の形でプレミア3年目のスタートを切った。今季も引き続き、英国在住の森昌利氏が世界最高峰のリーグで奮闘する日本人選手の戦いをリポートする。

ブライトンのゴールを喜ぶのは御法度

 さあ、今季もプレミアリーグの幕開けだ!と、喜び勇んでエヴァートンの本拠地グディソン・パークに向かって歩いていると、脇から日本語が聞こえてきた。

 ふと見ると、若い男性2人が並んで歩いていた。「日本人ですね」と声をかけると、「あっ、はい」と一言。そして「どちらのファンですか?」と聞かれた。「三笘選手の取材です」と答えると、「そうなんですね」と笑顔で言われて、「今日はエヴァートン側の席なんですが、ブライトンのゴールで喜んだりしても大丈夫ですか?」と聞かれた。筆者は「それだけはやめておきなさい」と少し厳しい口調で言った。

 エヴァートンのグディソン・パークは、これは筆者の個人的意見ではあるが――きっとプレミアリーグの中で最も荒んだスタジアムである。とにかく怖いのだ。声援はまさに怒号で、ホームチームに不利な判定があると、サポーターが席を仕切る壁をバンバン叩いて、古いスタジアムが壊れるんじゃないかと心配になってしまう。

 きっとそんな雰囲気も、1980年代にはスタンリー・パークを挟んで500メートルしか離れていないアンフィールドをホームとするリバプールと1部リーグを交互に制した名門なのに(1981-82シーズンからの7シーズンはリバプールかエヴァートンのいずれかが優勝して、リバプールの地が文字通りイングランド・フットボールの首都となっていた)、1986-87シーズンに9回目の優勝を果たしたのを最後に、栄冠から遠ざかっていることが要因なのだろう。

 最後の優勝から37年が過ぎて、周囲はエヴァートンが強かったことなど忘れ去ってしまっているが、ところがどっこい、何よりもフットボールを愛し、エヴァートンを愛する情熱的なスカウス(リバプール人)であるサポーターは“俺たちはここにいる”とばかりに大声を張り上げ続ける。けれどもその大声には、1980年代の栄光が遠ざかるばかりの悲しみと怒りがこもるのだ。

 それに、これはもう西澤明訓選手がいた2001-02シーズンで、かなり昔のことになるが、ボルトンのリーボック・スタジアム(当時の名称)で確かマンチェスター・ユナイテッド戦だったと思う。アウェーチームのゴールをボルトン側のスタンドで大喜びしたファンがボコボコにされたのを見た。記者席から10メートルほどしか離れていないところで起こったので一部始終を目撃したが、スタンドからつまみ出されたのは血だらけになった被害者のほうだった。

 そんな経験もあったので、常に暴動が巻き起こりそうな雰囲気のあるエヴァートンのグディソン・パークでは「ブライトンのゴールを喜ぶようなことは絶対にしないように」と、同胞の若者2人にしっかり釘を刺しておいた。そして、三笘薫の先制点が飛び出した時、そう言っておいて本当によかったと思った。そうでなければ、あの日本男子の2人組がどうなっていたか。凶悪な敵のサポーターに囲まれていることを忘れて、無邪気に喜んでしまったかもしれない。つまりそれほど見事なゴールだったわけだ。

「エースが帰ってきた」喜びと希望が溢れ出たチャント

三笘の動きはキレキレ。立ち上がりから劣勢に立たされていたブライトンに流れを引き寄せたのも、日本代表MFの鋭いドリブル突破だった 【写真:REX/アフロ】

「そうっすね。最初はなかなか苦しい展開でしたけど、そこを我慢できた。失点しなかったのがよかったと思います。守備がいいところにきてるんで、今のところ。自分たち(攻撃陣)が前線でクオリティを出せば、どうにかなると思ってましたね」

 アウェーで自分が先制点を奪って3-0の勝利。「まさにドリームスタートという開幕戦だったと思うが?」と、筆者が試合後の囲み取材で真っ先に聞くと、三笘がそう答えた。

 この言葉の通りだった。怒号渦巻くグディソン・パークでの開幕戦で、規律を重んじた指導で知られるショーン・ダイチ監督のエヴァートンは、試合開始直後から献身的にプレスをかけ、ボールを追い回した。その圧力にブライトンは自陣に閉じ込められて、窮屈そうだった。実際、試合開始直後の前半5分にはエヴァートンが押し上げて奪ったコーナーキックからゴールを決めたかに見えたが、オフサイド判定でゴール取り消し。ブライトンにとっては苦しい立ち上がりだった。

 三笘も左サイドで19歳の若いレフトバック、ジャック・ヒンシェルウッドをサポートして、献身的に守備をしていた。ところが日本代表MFのワンプレーで流れが変わった。

 前半17分、左サイドでボールを受けた三笘がドリブルで持ち上がり、ゴール前にボールを蹴り込んだ。するとアウェー席を埋めたブライトン・サポーターが今季初の三笘チャントを盛大に歌い出したのだ。

 それはこの時の三笘のドリブルが、すさまじい輝きを放っていた1年目の鋭さを取り戻し、スピードもキレも抜群だったからだ。

 エースが帰ってきた。チャントからはそんなサポーターの喜びと希望が溢れ出ていた。

 そしてあの見事な、筆者があの日本人2人組は「大丈夫だったか?」と訝った、三笘の先制点が生まれた。

「いや、もう毎回あそこにボール入れてくれるんで、彼(ヤンクバ・ミンテ)も。ほんとに僕も入らないといけないですし。あそこはほんとにコーチからずっと言われてるんで。ひとつ形になってよかったです、はい」

 これが、三笘自身がゴールを振り返った言葉だった。

 あまりにも謙虚だ。この先制点は三笘の“自作自演”と言っても過言ではないゴールだった。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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