頂上決戦でShigekixらB-BOYたちが示したカルチャー ブレイキン男子の舞台裏をKENTARAWが証言

田中凌平

“人の心を動かすブレイキン”で魅了したHiro10

予選敗退したものの、大舞台で“人の心を動かすブレイキン”を演じたHiro10(中央) 【写真は共同】

 Hiro10選手のバトルは、私も解説しながら思わず号泣してしまいました。Hiro10選手の課題はメンタルです。技が決まらない時に不安が生じて浮き沈みが激しくなってしまうので、事前練習でもコーチが歩み寄ってメンタルを本番に向けて整えていました。

 それが功を奏したのか、初戦の亓祥宇選手(Lithe-ing/中国)の一発目はものすごくよかったと思います。ただ、結果に関してはLithe-ing選手にほとんどの票を持っていかれてしまったので残念です。Lithe-ing選手、Shigekix選手に連敗して予選敗退が決まった後のVictor選手との一戦では「心が折れていたら嫌だな」と心配していました。ところが、Hiro10選手は何か吹っ切れたように、自分の一番得意とする動きを出し切ってくれたので、その姿に胸を打たれましたね。これぞ“人の心を動かすブレイキン”だと実感しました。

 Hiro10選手は試合後のインタビューで「人生面白れぇ」と言っていましたよね。実はこのフレーズは私たちが事前練習でテーマにしていた「面白れぇじゃねえか」という言葉からきているんですよ。厳しい局面であっても「面白れぇじゃねえか」と前向きになることが重要だと考えて、この言葉を多用していました。

 本番前に現地で関係者と買い物に行った時も、Hiro10選手が買った香水に文字を入れられるとのことで、そこにローマ字で「面白れぇじゃねえか」と入れたんです。僕も同じ香水のサンプルをもらったので、バトル当日はそれをつけて「俺も同じ香水つけてるから一緒に戦おうぜ!」とHiro10選手にも伝えました。

 ブレイキンにおいては、人とのつながりやコミュニケーションがムーブにも乗るんですよ。私もいろんな人との関わりがあってこそ今があるので、今回のモーメントがHiro10選手にとっても同じようにブレイキンに関わる人たちの絆の強さを感じる出来事となれば嬉しいなと思います。

より伝えるべきブレイキンのカルチャーとしての魅力

メダルを勝ち取り、喜びの表情を見せる(左から)Dany Dann、Phil Wizard、Victor。大舞台でそれぞれのスタイルを存分に披露した 【写真は共同】

 ブレイキンの魅力は、言語の壁を越え、自分の好きなダンスで人とつながりを持ち、広げられることだと思います。自分の殻を破って外に出るきっかけになりますし、かけがえのない仲間と出会えます。パリ五輪では国とか関係なく、どの選手も楽しそうにバトルをしていましたよね。

 また、今回のパリ五輪ではハーフタイムショーで身体に障害のある方たちのショーケースが行われました。ショーケースが終わってからは会場が総立ちで拍手が鳴り止みませんでした。障害のあるない関係なく、それぞれのスタイルを認め合うブレイキンの魅力が集約されたシーンでしたね。

 日常で嫌だなと感じたことをダンスで吐き出して表現し、ネガティブな気持ちをポジティブに変える力もブレイキンにはあります。ブレイキンにはそうした素晴らしい“カルチャー”があるので、パリ五輪をきっかけに競技とはまた違った一面をみなさんに知っていただき、よりブレイキンの面白さを感じていただけると嬉しいですね。

白井健太朗(しらい・けんたろう)/KENTARAW

【本人提供】

1987年生まれ。山口県出身。THE FLOORRIORZ、TAKE NOTICEのメンバーとして、世界のさまざまなダンスバトルで華々しい活躍を見せてきたブレイカー。THE FLOORRIORZでは2015~17年にブレイキンの世界大会「Battle Of The Year」で前人未到の3連覇を成し遂げた。現在はB-BOYとしての活動に加え、日本ダンススポーツ連盟のブレイクダンス本部事務局長としてブレイキンの幅広い普及にも尽力している。

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著者プロフィール

東京都出身。フリーライター。ラグジュアリーブランドでの5年間の接客経験と英語力を活かし、数多くの著名人や海外アスリートに取材を行う。野球とゴルフを中心にスポーツ領域を幅広く対応。明治大学在学中にはプロゴルフトーナメントの運営に携わり、海外の有名選手もサポートしてきた。野球では国内のみならず、MLBの注目選手を観るために現地へ赴くことも。大学の短期留学中に教授からの指示を守らず、ヤンキー・スタジアムにイチローを観に行って怒られたのはいい思い出。

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