オーダー変更で勝負も中国の牙城を崩せず 卓球女子団体銀メダル、倉嶋洋介の見解
卓球女子団体の決勝で中国に敗れるも、表彰式で銀メダルを掲げて笑顔を見せる(左から)平野、早田、張本 【写真は共同】
日本は第1試合のダブルスで準決勝までの早田ひな(日本生命)と平野美宇(木下グループ)のペアからオーダーを変更。早田と張本美和(木下グループ)のペアで陳夢(チンム)と王曼昱(ワンマンユ)のペアと対戦し、勝利まであと1歩のところまで追いつめるも最終的に競り負けた。第2試合は平野が中国のエース・孫穎莎(スンイーシャ)に敗れ、第3試合は張本が王曼昱の前に屈して3連敗。中国に一矢報いることはできなかった。
打倒中国を掲げて金メダルを目指した日本の戦いについて、元卓球男子日本代表監督として2016年のリオデジャネイロ五輪の男子団体で日本初となる銀メダルをもたらし、21年の東京五輪でも銅メダルを獲得した倉嶋洋介さんの目にはどう映ったのだろうか。今大会の日本の活躍を振り返ってもらいつつ、中国撃破のための道筋について聞いた。
「ダブルスは日本において一番のチャンスだった」
第1試合のダブルスでは、張本(手前左)と早田(手前右)のペアで中国ペアをあと1歩のところまで追いつめた 【写真は共同】
ダブルスの組み合わせに関しては、事前の合宿で「早田・平野ペア、早田・張本ペア、平野・張本ペア」の3パターンの練習をしていたそうです。もしかしたら中国戦はこのオーダーで行くと最初から決めていたかもしれませんし、大会でのパフォーマンスを通して早田選手と張本選手が組む形がもっとも勝機を見いだせると判断したのかもしれません。
日本のオーダー変更は大きなトピックスですが、中国の裏をかく奇策だったわけではないです。十分に中国側も想定はしていたはずでしょう。ただ、平野選手と張本選手という右利きを並べる組み合わせは可能性としてはかなり低かったと考えられます。左利きの早田選手を入れて、右左のペアにすることで、ラリー戦において戦局を有利に進めるという方針は揺るがなかったと思います。
実際に日本はいいペースで試合を展開しました。陳夢選手と王曼昱のペアも右右のペアでしたし、右左のペアだとぞれぞれが自分の領域で戦えることもあり、ラリー戦においては日本に分があったのは確かです。長いラリーになると早田選手と張本選手が前で戦えるので。早いタイミングで返球できると、ダブルスでの右右のペアを崩しやすくなります。
惜しくも負けた要因としては、「レシーブ力の差」ですね。ラリーに行く前の展開の精度がもう少し高ければよかったなと思います。レシーブでミスがあったり、甘いレシーブを相手に攻め込まれてしまったりするケースがけっこうありました。右右のペアだとチキータレシーブがしやすくなるので、中国はチキータを多用していましたね。
一方の日本は、チキータをあまり使わずに、張本選手もフォアでの返しが大半でした。そのため、ストップやツッツキをしにくいサーブを繰り出されて主導権を握られた印象があります。ラリーでは日本のほうが良かったので、中国としてはサーブレシーブでいかにポイントを重ねるかを考えていましたね。レシーブの上手さはさすが中国といえる出来だったと思います。卓球はレシーブが決まらないと、ペースを握りづらいので。ダブルスで先勝していたら、中国にプレッシャーを与えられていたので、その点は悔やまれますね。
平野は第1ゲームで逆転を許したことが痛恨
中国のエース・孫穎莎(左)に敗れはしたものの、平野の何とか食らいついていく姿勢が光った試合だった 【写真は共同】
第1ゲームを平野選手が7-1でリードしていたので、そこから逆転を許して先手を取れなかったことは痛恨でした。ここに関しては孫穎莎選手が反撃し、挽回されそうになるタイミングでタイムアウトを使うなど流れを変えるべきでしたね。試合序盤とはいえ、幸先のいい展開に持ち込まないと勝つのが難しい相手なので、そうした一手を打つべきでした。
第1ゲームは結局、息を吹き返した孫穎莎選手にデュースに持ち込まれ、最終的には平野選手が競り負ける形となりました。その後は、楽になった孫穎莎選手のペースで一気に第2、3ゲームと取られて試合を決められてしまった印象です。第1ゲームに勝って勢いに乗れていたら、もう少し競った試合になっていたと思います。
平野選手は得意のタイミングの早いバックハンドで、序盤は孫穎莎選手を崩せていたのですが、やっぱり余裕を持たせてしまうと厳しいですよね。ラリーで時間を与えてしまうと、パワーのある打球によって一発で決められてしまうので。タイミングを早くしてライジングを捉えるボールを繰り出すことで対抗したかったのですが、終盤は孫穎莎選手に合わせられていましたよね。孫穎莎選手に勝つなら、タイミングの早さに加え、サーブレシーブの駆け引きでも優位に立たなければ難しいのが現実です。
昔、世界卓球連盟の会長を務めた荻村伊智朗さんが、「卓球は100メートル走をしながらチェスをするようなスポーツ」とおっしゃっていたのですが、言い得て妙ですよね。卓球はとんでもない打球スピードの応酬の中で、相手との駆け引きや先を読む力が求められるスポーツだということです。この一戦もそのたとえに当てはまっている部分があったと思います。卓球は相手が待っているところにどんなにいいアタックをしても、対応されてしまいますので。駆け引きは本当に重要です。
ただ、平野選手は劣勢でも諦めない姿勢を貫き、メンタルで崩れてしまう面はあまりなかったので、すごく成長を感じさせてくれました。五輪という大舞台においても心技体智の安定ぶりを見せられたことは、大きな収穫だと思います。