小田凱人「I am a Dreamer 最速で夢を叶える逆境思考」

車いすテニス人生初試合での「完敗」から貫き通したもの 小田凱人が考える「成功」と「失敗」とは

小田凱人

【Photo by Daniel Kopatsch/Getty Images】

17歳の若さでその名を轟かせた、小田凱人(おだ・ときと)。
9歳のとき、左脚の骨肉腫を手術したことで車いす生活を余儀なくする。「サッカー選手になりたい!」という夢は絶たれたが、偶然出会った車いすテニスでいま世界中から大注目を集めている。驚くべきはラケットを初めて手にしてから、わずか8年での偉業達成である。

◎なぜ、驚異的な記録を短期間で達成することができたのか?
◎なぜ、大病を患ったのに前向きでいられたのか?
◎なぜ、厳しい世界で勝ち続けられるのか?
◎なぜ、プロでも「楽しさ」維持し続けられるのか?

本書は、小田凱人の人生をひとつずつ紐解きながら、「最速で夢を叶えた秘訣」を明らかにする。
小田凱人著『I am a Dreamer 最速で夢を叶える逆境思考』から、一部抜粋して公開します。

完敗で学んだ、「貫き通す」精神

 僕は9歳のころ、長かった入院生活を終えてすぐテニスクラブに通って本格的にテニスを学ぶことにした。

 入院時代にラケットを買い、ずっと素振りなどをやっていたこともあったためか、コーチからも「筋がいい」ということで、褒めてもらえることが多かった。

 もちろん厳しい言葉をいただく場面もあったのだが、僕としては、褒めていただきながら技術を磨いていった思い出のほうが多い。

 そして、テニスを習い始めて4か月経ったころ、初めて大会に出場することになった。

 神奈川県で行われた大会で、18歳以下の選手が男女関係なく出場できるものだ。初戦の相手は12 歳。ジュニアの車いすテニス界でも名の知れた選手だった。

 一方で僕は、車いすテニス初心者である。しかし、自信だけはあった。「自分なら勝てるのではないだろうか」という予感がしていたのだ。

 前の章でも述べたが、ラケットを買ったそばから、国枝さんのフォームや、ボールを打つときの表情を真似たりしていた。他にも、テレビやインターネットで見かける試合のダイジェスト動画、スーパーショット集、パワープレー集のような華やかな動画をたくさん観た。

 そうした経験もあってか、初めての試合は、「きっと勝てる」と思って臨んだ。

 ちなみに当時の僕は、点数のカウント方法や、細かなルールもろくに頭に入っていないレベルだった(笑)。

 結果は―。1回戦敗退だった。しかも、手も足も出ず、完敗である。

 試合後、僕は大泣きした。試合前に想像していた自分の姿と、今の自分との大きなズレに悔しさがあふれた。

 テニスというスポーツは「相手のミスを誘い、自分はミスを減らす」ものだ。泥臭い駆け引きのなかから、スキを生み出しコツコツと点数を重ねていくのがセオリー。派手なショットやスーパープレーは、一つの試合のなかでそう出せるものじゃないのだ。

 選手たちはこういった失敗を繰り返し、現実から学び、少しずつ大人になっていく。

 これは、ジュニア選手が一度は通る「大人へのステップアップ」といえる転機である。
 ……だが僕はそれに直面したとき、真っ向から反発した。

 負けを通じて、僕の頭のなかでは「これからも、もっと自分らしいテニスを貫いてやる」という気持ちが強くなったのだ。つまり、派手なショットやスーパープレーの追求である。

 僕が最初に憧れたテニスは、「かっこいいテニス」。その情熱を押し殺してしまうのは、まったく「自分らしくない」。

 試合の翌日からも徹底して、僕は、僕自身が目指すテニスを心がけた。もちろん、そんな姿勢に、コーチからは何度も指導を受けた。リスクばかり負ったプレーをしていると、本来勝てるはずの試合ですら負けてしまうこともある。両親も、心配で仕方がなかったそうだ。

 たしかに今振り返ってみると、もっと「普通に」戦っていれば、勝てた試合も数多くあった。スーパーショットばかり追求すると、コートに収まらないショットが増えてしまうのだ。

 しかし僕はそこでも信念を曲げることはなかった。

 リスクを負って打ったショットがミスになったとしても、僕のなかでは「間違い」ではない。むしろ心のなかでは、「あのショットの精度をもっと上げなければ」「ちょっとだけアウトしたから、打ち方を微調整しなければ」という反省をしていた。

 つまり、完成度を高める方向での反省だ。

 それから5年、6年と続けていった今、ようやく自分が理想としていたスタイルができあがってきた。そして、2023年での全仏オープン、全英オープン優勝という結果として実を結んでくれた。

 この経験からいえるのは、失敗や負けを経験した際に自分の掲げた信念を、「これは間違いだった」といってあっさりと取り下げてはいけないということだ。

 自分が理想とする形や結果にたどり着くには、長い年月がかかるものだということ。そして自分で「成功だ」と思えるまでやめずに続けることだ。途中でやめた瞬間が「失敗」で、うまくいくまで続けた者だけが、「成功」をつかむのである。

書籍紹介

【写真提供:KADOKAWA】

17歳の若さでその名を轟かせた、小田凱人(おだ・ときと)。
9歳のとき、左脚の骨肉腫を手術したことで車いす生活を余儀なくする。「サッカー選手になりたい!」という夢は絶たれたが、偶然出会った車いすテニスでいま世界中から大注目を集めている。驚くべきはラケットを初めて手にしてから、わずか8年での偉業達成である。

◎なぜ、驚異的な記録を短期間で達成することができたのか?
◎なぜ、大病を患ったのに前向きでいられたのか?
◎なぜ、厳しい世界で勝ち続けられるのか?
◎なぜ、プロでも「楽しさ」維持し続けられるのか?

本書は、小田凱人の人生をひとつずつ紐解きながら、「最速で夢を叶えた秘訣」を明らかにする。
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著者プロフィール

 2006年5月8日生まれ。愛知県出身。9歳のときに骨肉腫になり車いす生活に。10歳から車いすテニスを始め、数々の偉業を最年少で達成。2023年、全仏オープンでグランドスラム史上最年少優勝(17歳1か月2日)&最年少世界ランキング1位(17歳1か月4日)を達成し、ウィンブルドンも制覇。  名実共に、車いすテニス界の次代を担うトッププレイヤーとして国内外から注目されている。東海理化所属。世界シニアランキング1位、世界ジュニアランキング1位(2024年4月1日現在)。

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