400mリレー5位で“お家芸”復活ならず 日本短距離界の停滞脱却を朝原宣治が思案
陸上男子400メートルリレー決勝で5位に終わった日本。力を出し切った充実感と悔しさが交錯する(左から)桐生、上山、サニブラウン、坂井の4人 【写真は共同】
2008年北京五輪、16年リオデジャネイロ五輪で銀メダルを獲得し、世界選手権でも17年のロンドン大会と19年のドーハ大会で連続して銅メダルに輝いたかつての“リレー侍”。その精度の高いバトンパスの仕上がりから“日本のお家芸”とまで言われた種目が、21年東京五輪では棄権となり、世界選手権でも22年オレゴン大会、23年ブダペスト大会でメダルから遠ざかっている。
世界の短距離界が進化する一方、停滞が続く日本。現状に対して日本短距離界のパイオニアで、北京五輪男子4×100メートルリレーの銀メダリスト・朝原宣治さんは何を思うのか。25年に世界選手権が東京で開催されるだけに、日本の今後について思案してもらった。
「一足分の距離感」が左右するバトンパス
坂井(右)からサニブラウンに渡ったバトン。一足分の距離感が最適化されれば、よりよい結果になった可能性はある 【写真は共同】
勝負のポイントとして挙げていた「バトンパス」については、完璧ではないかもしれませんが、全体的には良かったのではないでしょうか。まず、1走の坂井選手から2走のサニブラウン選手へのバトンは、一足分くらい近い距離での受け渡しになりました。レース後にサニブラウン選手が「もう少し(前に)出ても良かった」と振り返っていましたが、離れすぎてバトンがつながらないリスクを冒せなかったのでしょうね。
サニブラウン選手から3走の桐生選手へのバトンパスはスムーズでしたが、その次の4走の上山選手への受け渡しはギリギリでした。上山選手が早い逃げ切りを試みた分、そうした受け渡しの展開になりました。受ける側の選手の心理として、バトンゾーンの出口に近づくと「なかなか手に当たらないな」と胸騒ぎがするんですよ。上山選手も、走り出してから一度桐生選手のほうを振り返っていましたが、そこで少しスピードが減速したところもありましたね。
バトンパスの距離感は、近いと確実に渡せる分減速しますし、離れるとスピードに乗れる分つながりにくくなるというリスクを負います。距離感がほんの一足分異なるだけでも全然結果が違ってくるので、そこがリレーの醍醐味(だいごみ)でもありますよね。その極限のレベルで「攻めのバトンパス」を仕掛けないとメダルを狙えない現状に、世界で戦う厳しさを感じさせられます。
ベストメンバーを見極めるリレーの難しさ
桐生からトップでバトンを受けた上山(中央)だったが、そのまま逃げ切ることはできなかった 【写真は共同】
どの選手がどこを走るかというオーダーは何パターンも用意していて、当日に一番調子がいいと判断された組み合わせで決まります。それがうまくハマるかどうかも分からない一発勝負の世界ですから、リレーは本当に難しい種目ですね。なので陸上ファンの方にとっても、それぞれの理想のオーダーがあるでしょう。しかし、「そうしなかったから負けた」というのは結果論でしかありません。
予選で走っていた柳田選手は、決勝のオーダーから外れました。予選での調子がよくなかったことが要因ですが、サブトラックで涙を流しているシーンがテレビでも流れていましたね。パリ五輪では、個人種目での出場はなくリレーのみの代表選出だったので、大一番で走れなかったことは本当に悔しかったのでしょう。ただ、こういったメンバー争いも含めて「日本チームとして五輪で戦うこと」なのです。この経験を糧に、柳田選手の今後の成長に期待したいですね。