400mリレー5位で“お家芸”復活ならず 日本短距離界の停滞脱却を朝原宣治が思案

久下真以子

陸上男子400メートルリレー決勝で5位に終わった日本。力を出し切った充実感と悔しさが交錯する(左から)桐生、上山、サニブラウン、坂井の4人 【写真は共同】

 8月9日(日本時間10日)、パリ五輪の陸上男子400メートルリレーの決勝が行われ、日本は37秒78のシーズンベストを記録するも5位に終わり、2大会ぶりとなるメダル獲得を逃した。決勝では1走に坂井隆一郎(大阪ガス)、2走にサニブラウン・アブデル・ハキーム(東レ)、3走に桐生祥秀(日本生命)、4走に上山紘輝(住友電工)というオーダーを組んだ日本。予選で2走だった柳田大輝(東洋大)を外す「攻めのオーダー変更」で表彰台を狙ったが、他国の後塵を拝した。

 2008年北京五輪、16年リオデジャネイロ五輪で銀メダルを獲得し、世界選手権でも17年のロンドン大会と19年のドーハ大会で連続して銅メダルに輝いたかつての“リレー侍”。その精度の高いバトンパスの仕上がりから“日本のお家芸”とまで言われた種目が、21年東京五輪では棄権となり、世界選手権でも22年オレゴン大会、23年ブダペスト大会でメダルから遠ざかっている。

 世界の短距離界が進化する一方、停滞が続く日本。現状に対して日本短距離界のパイオニアで、北京五輪男子4×100メートルリレーの銀メダリスト・朝原宣治さんは何を思うのか。25年に世界選手権が東京で開催されるだけに、日本の今後について思案してもらった。

「一足分の距離感」が左右するバトンパス

坂井(右)からサニブラウンに渡ったバトン。一足分の距離感が最適化されれば、よりよい結果になった可能性はある 【写真は共同】

 メダルを狙える位置にはいたので、5位は悔しい結果になりましたね。日本は400メートルリレーにおいて、21年の東京五輪、世界選手権では22年のオレゴン大会、23年のブダペスト大会と“主要3大会連続”でメダルを逃しています。悪い流れはここで断ち切りたかったというのが正直な感想です。ただ、決勝では選手のオーダーを変更して、予選と比べてもタイムを0秒3縮めてシーズンベストを出していることを考えると、作戦は間違いではありませんし、個々の選手は力を出し切ったのではないかと思います。

 勝負のポイントとして挙げていた「バトンパス」については、完璧ではないかもしれませんが、全体的には良かったのではないでしょうか。まず、1走の坂井選手から2走のサニブラウン選手へのバトンは、一足分くらい近い距離での受け渡しになりました。レース後にサニブラウン選手が「もう少し(前に)出ても良かった」と振り返っていましたが、離れすぎてバトンがつながらないリスクを冒せなかったのでしょうね。

 サニブラウン選手から3走の桐生選手へのバトンパスはスムーズでしたが、その次の4走の上山選手への受け渡しはギリギリでした。上山選手が早い逃げ切りを試みた分、そうした受け渡しの展開になりました。受ける側の選手の心理として、バトンゾーンの出口に近づくと「なかなか手に当たらないな」と胸騒ぎがするんですよ。上山選手も、走り出してから一度桐生選手のほうを振り返っていましたが、そこで少しスピードが減速したところもありましたね。

 バトンパスの距離感は、近いと確実に渡せる分減速しますし、離れるとスピードに乗れる分つながりにくくなるというリスクを負います。距離感がほんの一足分異なるだけでも全然結果が違ってくるので、そこがリレーの醍醐味(だいごみ)でもありますよね。その極限のレベルで「攻めのバトンパス」を仕掛けないとメダルを狙えない現状に、世界で戦う厳しさを感じさせられます。

ベストメンバーを見極めるリレーの難しさ

桐生からトップでバトンを受けた上山(中央)だったが、そのまま逃げ切ることはできなかった 【写真は共同】

 日本は決勝で予選とはガラッとオーダーを変えましたね。僕はサニブラウン選手がアンカーになると思っていたのですが、予選では1走、決勝では2走を任されました。桐生選手がレース後に「ハキーム君に頼っている部分がある」と言っていましたが、現状は本当にその通りなのだと思います。長い距離を走る2走に一番速いサニブラウン選手を配置して、戦局を有利に進めようとする狙いが見えましたね。

 どの選手がどこを走るかというオーダーは何パターンも用意していて、当日に一番調子がいいと判断された組み合わせで決まります。それがうまくハマるかどうかも分からない一発勝負の世界ですから、リレーは本当に難しい種目ですね。なので陸上ファンの方にとっても、それぞれの理想のオーダーがあるでしょう。しかし、「そうしなかったから負けた」というのは結果論でしかありません。

 予選で走っていた柳田選手は、決勝のオーダーから外れました。予選での調子がよくなかったことが要因ですが、サブトラックで涙を流しているシーンがテレビでも流れていましたね。パリ五輪では、個人種目での出場はなくリレーのみの代表選出だったので、大一番で走れなかったことは本当に悔しかったのでしょう。ただ、こういったメンバー争いも含めて「日本チームとして五輪で戦うこと」なのです。この経験を糧に、柳田選手の今後の成長に期待したいですね。

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著者プロフィール

大阪府出身。フリーアナウンサー、スポーツライター。四国放送アナウンサー、NHK高知・札幌キャスターを経て、フリーへ。2011年に番組でパラスポーツを取材したことがきっかけで、パラの道を志すように。キャッチコピーは「日本一パラを語れるアナウンサー」。現在はパラスポーツのほか、野球やサッカーなどスポーツを中心に活動中。

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