パリ現地取材の記者が選ぶ五輪会場5選 各国のファンが最高の雰囲気を作っていた場所は?

大島和人

パリ南アリーナの「インスタ映えスポット」がこちら 【Photo by Christian Petersen/Getty Images】

 パリ五輪の閉会式まであと2日。7月24日から大会の取材を続けてきた記者も、そろそろフランスに里心が芽生えてきた。

「スポーツ記者の十種競技」があったなら、筆者にも出場資格はあるはずだ。スポーツナビから花の都に送り込まれた私は24日のサッカーを皮切りにバレーボール、競泳、柔道、ハンドボール、バスケットボール、体操、バドミントン、陸上、レスリング、卓球と10競技を取材した。

 パリ市内だけでなくボルドー、リールといった地方都市にも足を運んだ。そしてサッカー場、陸上競技場、アリーナとのべ11会場で取材をしている。なお残り日程で競技と会場はあと1つ、2つ増える。

「トランスポート・コネクト(TC)」と称される関係者用のバスは一応用意されているが、過去の大会に比べると系統が少ない。報道陣にはSuicaと同じような公共交通機関用のカード「Navigo Easy」が配布され、基本的にはメトロ(地下鉄)、バス、トラム(路面電車)、RER(高速近郊鉄道)で各会場を移動している。

 今回は番外編として、パリ五輪の舞台となった会場からアクセス、施設、盛り上がりなどの視点で選んだ5会場を紹介する。

「フェス感」があったパリ南アリーナ

 今回の五輪で筆者がもっとも頻繁に足を運び、半ば入り浸った会場が「パリ南アリーナ」(Arena Paris Sud)だ。日本で例えるなら幕張メッセのようなコンペティション施設で、敷地面積は35ヘクタール。バレーボールファンに説明するならば6月にネーションズリーグが開催された北九州の「西日本総合展示場」と似たイメージだ。

 バレーボールは「アリーナ1」、卓球は「アリーナ4」、ハンドボールとウエイトリフティングは「アリーナ6」という具合に、3つの箱で合計4競技が開催されていた。「アリーナ5」は運営やメデイアの作業、各競技のウォーミングアップで使われていて、筆者は今バレーボールがフロアに弾かれる音を聞きながらこの記事を書いている。

 アクセスは抜群で路面電車、複数の地下鉄駅から徒歩圏内だ。路面電車「T3b」の最寄り駅はおそらく「近すぎる」「群衆整理が難しくなる」という警備上の理由で大会期間中は封鎖されていたが、1駅歩いても徒歩10分程度。筆者は「13区のホテルから乗り換え無しで通える」「メディアルームが広く快適」といった理由で、第2オフィスとしても重用していた。

 パリ五輪の特徴は既存施設の活用、コスト抑制だが、パリ南の各アリーナも決して「豪華」ではない。特にスタンドは仮設で、鉄骨を組み上げたもの。ファンが揃ってアクションすると地震のように揺れて、少し気味悪かった。

 とはいえ「アリーナ1」ならば1万人以上を収容できる規模だったし、ビジョン、音響、照明といったエンターテインメントの標準装備はしっかり揃っていた。だから試合が始まれば「仮設感」を感じることは一切ない。

 この会場最大の「お気に入りポイント」はお祭り感、フェス感だ。バレーボール、ハンドボールのグループリーグは連日4試合の開催というスケジュールもあり、試合を控えた、もしくは終えたファンが広場で混在状態になる。飲食の売店、公式グッズショップはもちろん、「インスタ映えスポット」も用意されていた。世界中のユニフォームを着用した、もしくは国旗をまとったファンが一堂に会してワイワイガヤガヤしている楽しい場だった。

リールの複合スタジアムは「敵意のないアウェイ」

スタッド・ピエール・モーロワは最新鋭の複合スタジアム 【Photo by Baptiste Fernandez/Icon Sport via Getty Images】

 スタッド・ピエール・モーロワはフランス北部の都市リールにあり、2012年に完成したモダンな複合スタジアムだ。バスケットボールは男女のグループリーグを全試合この会場で行っている。

「屋内競技モード」になるとピッチの芝が片方に寄せられ、開閉式の屋根が閉じ、もう片面が「アリーナ」として利用される。例えるならば、みずほPayPayドーム福岡と大和ハウス プレミストドーム(札幌ドーム)を足して2で割ったような施設だ。

 リールはパリ北駅からTGV(フランスの高速鉄道)に乗れば1時間ほどで、ベルギーとも至近。なおリール側のターミナル駅は「リール=フランドル駅」と「リール=ヨーロッパ駅」の2つに分かれていて、外来者には分かりにくい。ターミナル駅から地下鉄で15分、さらに徒歩15分という立地だが、バスケの試合日は無料のシャトルバスが出ていた。

 スタンドはU字型で、真ん中は大きな暗幕のようなもので仕切られている。サッカーはスタンドの全面、バスケはスタンドの半面を利用する。演出を考えると屋根を閉じられるアリーナは音響、照明の活用でスタジアムよりも有利だが、バスケの試合ではそのアドバンテージも活かしていた。

 7月30日の男子バスケ・フランス戦は2万6千人を超す満員の観客で、当然ながら超アウェイの雰囲気だった。自然発生的に『ラ・マルセイエーズ』(フランス国歌)の合唱が始まるあの空気感は、日本人の私にとっても鳥肌モノだった。ただ挑発、罵声的なものは一切なく「敵意をまったく感じないアウェイ」だったことも印象深い。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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