日本女子フェンシング史上初のメダル獲得  フルーレ団体快挙の分岐点を宇山賢が解説

久下真以子

躍進の秘密はコーチの手腕とチームの成熟

3位決定戦の采配も含め、フランク・ボアダンコーチ(右から3人目)の手腕は見事の一言 【写真は共同】

 日本女子フルーレ団体は、2018年のアジア大会(ジャカルタ)で金メダル、23年の世界選手権(ミラノ)で銅メダルを獲得するなど、近年着実に力をつけてきました。その要因として、考えられるのは2つあります。

 1つめは、17年に日本女子フルーレのコーチにフランス人のボアダン氏を招へいするなど、強化体制を着実に築いていた点です。ボアダン氏自身、選手として出場した1996年のアトランタ五輪で銅メダル、コーチとしてフランス男子フルーレ団体を率いた16年のリオデジャネイロ五輪でも銅メダルを獲得するなど、非常に実績のある指導者です。フェンシング発祥の地である強豪国フランスの空気や技術を学べるようになったので、ボアダンコーチの手腕は選手たちにとってプラスに働いたと言えるでしょう。

 2つめは、チーム自体が成熟してきたことです。今回のメンバーのうち、上野選手(22歳)と東選手(24歳)は東京五輪にも出場していますが、当時はまだ若いチームでメダル獲得が期待されましたが、惜しくも順位も6位に終わりました。でも海外との差を感じていた僕たちの世代と違うのは、「日本でトップレベルになれたら世界でメダルが獲れる」とまっすぐに信じてフェンシングを始めているところなんです。そうした若い世代が3年の月日を経て、本当にメダルを獲れるまでに成長したのは、すごいことだと思います。

女子初メダルをきっかけにフェンシングをもっと広めたい

銅メダル獲得に感極まるエース上野。フェンシングというスポーツの素晴らしさをもっと多くの人に広めていきたい 【写真は共同】

 今後さらに日本のフェンシングが強くなっていくには、「なぜ勝ったのか」を分析し、技術指導やサポート内容などをまとめて伝承できるようにしなければなりません。現状としては外国人コーチを招へいしたり、専門家のサポートが充実したりしたおかげで強くなりました。しかし、これはナショナルチームだからこそできる強化ですよね。これからフェンシングをやる子どもたちには、「こうしたら上手くなるよ」「こういう道があるよ」と指導者がしっかり示すことが大事だと思います。 

 これは僕の持論ですが、いわゆる「強化」そのものはすでに上手くいっています。今回のパリ五輪も男子エペ個人で加納虹輝選手(JAL)が金メダルを獲得しているので、男女ともにメダルを獲得しました。女子サーブルの江村美咲選手(立飛ホールディングス)も世界ランキング1位の実力者です。僕は引退してから競技の普及に携わっていますが、世界のトップを目指す選手を増やすだけではなく、もっとたくさんの人に気軽にフェンシングを楽しんでもらえるように裾野を広げていきたいと思っています。

「ちょっと身体を動かしてみようかな」という大人にとっても、「剣を触ってみたい」という子どもたちにとっても、フェンシングはすごく楽しいスポーツです。僕たちは剣を交えることを「剣の会話」と呼んでいるんですけど、コミュニケーションツールとしての価値が広がるといいなと思っています。

 そういう意味でも、五輪での選手の活躍はすごく意義のあることだとも言えますね。今回の女子団体フルーレの活躍を見て、「自分もフェンシングをやってみたいな」という人たちが増える世界になれば、最高ですね。

宇山賢(うやま・さとる)

【株式会社Es.relier】

中学の時に兄の影響でフェンシングに出会うと、高校2年時のインターハイで個人優勝を果たす。同志社大学に進学後は2~4年時にインカレ個人3連覇を達成。4年時には全日本選手権で個人優勝を果たした。大学3年時より日本代表選手として活動し始め、ワールドカップやアジア大会など多くの国際大会を経験。2021年に行われた東京五輪では男子エペ団体で金メダルを獲得した。同年に現役を退き、その翌年に株式会社Es.relierを設立。現在は、フェンシングやスポーツの普及のための活動を幅広く行っている。

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著者プロフィール

大阪府出身。フリーアナウンサー、スポーツライター。四国放送アナウンサー、NHK高知・札幌キャスターを経て、フリーへ。2011年に番組でパラスポーツを取材したことがきっかけで、パラの道を志すように。キャッチコピーは「日本一パラを語れるアナウンサー」。現在はパラスポーツのほか、野球やサッカーなどスポーツを中心に活動中。

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