右肩上がりに状態を上げベスト8に進出 元なでしこ宇津木瑠美が感じた東京五輪からの「変化」

吉田治良

ナイジェリアに快勝し、2大会連続でベスト8入りを果たしたなでしこジャパン。故障者が相次ぐ中でも、試合を重ねるごとに右肩上がりの成長を遂げている 【写真は共同】

 なでしこジャパンが、パリ五輪の1次リーグ最終戦でナイジェリアに3-1で勝利。通算成績を2勝1敗とし、スペインに次ぐグループ2位で決勝トーナメント進出を決めた。これで東京五輪と同じベスト8まで辿り着いたわけだが、元なでしこジャパンの宇津木瑠美は、現在のチームに3年前とは明らかな違いを感じている。果たして、宿敵アメリカとの準々決勝に勝利し、前回大会の成績を超えられるのか。負ければ終わりの決勝トーナメントを戦う心構えを、熱く語ってくれた。

ただ勝つことだけにフォーカスして

サイド攻撃を活性化した北川は、1点差に迫られた前半終了間際に鮮やかな直接FKで貴重な追加点もマーク。この日は初先発の4人がいずれも持ち味を発揮した 【写真は共同】

 ナイジェリア戦は、これまでの2試合と比べて、精神的にもフィジカル的にも明らかに選手たちのコンディションが良いように見えました。迷いや不安が消えて、どこか吹っ切れたというか、ただ勝つことだけにフォーカスして戦っていましたね。

 もちろんブラジル戦の劇的な勝利も大きかったと思いますが、引き分け狙いではなく、チームとして、勝って自力で決勝トーナメントに進出しようという意思統一ができていた。

 ブラジル戦からスタメンを4人変更しましたが、今大会初先発となった北川(ひかる)選手、石川(瑠音)選手、林(穂之香)選手、植木(理子)選手は、いずれも持ち味を発揮してくれましたね。

 北川選手に関しては、怪我がなければ当然スタメンを張れる実力の持ち主ですし、チーム3点目の美しい直接フリーキック(45+5分)も含め、さすがだなと思わせるプレーを随所で見せてくれました。3バックの一角に入った石川選手も、すごく良かった。これまではローマでも熊谷(紗希)選手とコンビを組む南(萌華)選手がレギュラーでしたが、石川選手も上背があって、スピードもあるので、彼女がスタメンで出てもそん色のないプレーができると思っていました。

 ボランチの林選手も効いていましたね。パートナーの長谷川(唯)選手が、個の力をチームに還元するタイプなら、林選手は常にチームのバランスを意識しながら、攻守の舵を取るタイプ。2人の補完性も高かったし、中盤に安定感をもたらしていました。

 この日はナイジェリアが、「クロスを待ち構えてはね返す」ことに重きを置く守備戦術だったので、サイドで比較的フリーでボールを持てるシチュエーションが多かった。32分の田中(美南)選手の2点目も、守屋(都弥)選手の好クロスから生まれましたが、相手の戦術との相性もあって、ようやく流れの中から良い形が作れましたね。

 ブラジル戦では決定機をものにできなかった田中選手ですが、ゴールシーンでは植木選手がヘディングシュートを打った瞬間には、もうゴール前に走り出していました。だからこそクロスバーに当たったシュートのこぼれ球にいち早く詰めることができたわけで、「点を取るのは私だ」というストライカーとしての矜持が伝わってきましたね。

 その意味で言うと、同じストライカーの植木選手にも、22分の先制点のシーンで浜野(まいか)選手にラストパスを出すのではなく、思い切って打ってほしかった。もちろん、チームとして点を取るための最善策を選択し、それでゴールという最高の結果も導き出しましたが、初先発のチャンスを得たストライカーとして、あのタイミングでパスを出すのはどうなのかなと。ずっとベレーザで一緒にやってきた立場だからこそ、あえて厳しいことを言わせてもらいますね(笑)。

 ナイジェリア戦のMVPを1人挙げるなら、浜野選手でしょうか。サイドからの仕掛けに加えて、前線からのプレッシングもすごく効いていて、最後まで本当によく走りました。これまでの「若くて勢いのある選手」から「チームにとって重要なカギを握る選手」へ、この大会を通してすっかり印象が変わりました。あとは、サイドを埋めてくるようなディフェンスをされた時に、それをどう破るかでしょうが、今後のさらなる成長に期待したい選手です。

 1次リーグを振り返れば、1試合目より2試合目、2試合目より3試合目と、チーム状態が右肩上がりに良くなっていった印象です。初戦のスペイン戦では緊張や重圧を感じているようでしたが、それが徐々にほぐれ、どんどん前向きな姿勢になっていった。清水(梨沙)選手をはじめ、故障者が相次ぐ中でも、いろんな選手を使いながらチームとして成長していく姿が見て取れましたね。

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著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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