右肩上がりに状態を上げベスト8に進出 元なでしこ宇津木瑠美が感じた東京五輪からの「変化」

吉田治良

チームの色を出すために個人が動く

ナイジェリア戦で先制ゴールの浜野は前線からのプレッシングも献身的で、90分間タフに走り続けた。宇津木は決勝トーナメントの戦いでキープレーヤーに挙げる 【写真は共同】

 準々決勝の対戦相手は、アメリカに決まりました。まず肝に銘じておくべきは、決勝トーナメントの戦いは1次リーグを戦う感覚とはまるで違うということです。どのチームも確実にギアを上げてきますし、1次リーグではフォーカスされなかったような些細なプレーが、失点に直結するケースも多々あります。

 例えば、ゴールキーパーの山下(杏也加)選手のロングフィード。これまではそれがミスキックになっても、そのままタッチラインに出て大事には至らなかったかもしれませんが、アメリカの選手だったらそれをヘディングでカットして繋いでくるかもしれない。スローインに逃げれば良かったクリアをコーナーキックにしてしまい、それが失点につながることもあるでしょう。だからこそ、ここでもう一度、自分たちが取りこぼしている点はないか、1次リーグでは浮き彫りにならなかったような課題はないか、再確認しておきたい。

 もちろん技術や戦術も重要ですけど、そういった細かい部分の意思統一だったり、選手同士の気遣いだったりが、ここからは本当に大事になってくると思います。

 アメリカ戦、さらにその先のメダルを懸けた戦いに挑むにあたって、特に期待したいのが浜野選手と熊谷選手。先ほども言ったように、浜野選手にはまだまだ伸びしろを感じますし、フィニッシャーとしても、ゴールを生み出す起点としても、攻撃面でのキープレーヤーになるんじゃないかと思っています。

 熊谷選手には守備リーダーとしてはもちろん、コーナーキックなどセットプレーからの得点も期待しています。これまではクロスや直接フリーキックからゴールが生まれていますが、コーナーキックからディフェンスの選手が得点を奪うと、チームがさらに勢いづきますからね。

 これで3年前の東京五輪と同じところ(ベスト8)まで来たわけですが、今のなでしこは当時のチームとは明らかに違っています。

 1対1の粘り強い対応や、試合中に選手間で活発に声を掛け合う姿は、東京五輪ではあまり見られませんでしたし、3年前とは違って、チームとしてどう戦うべきかという目的意識が明確に伝わってきます。

 東京五輪では、まず選手個々が自分の色を出して、チームがそれをサポートしているような印象でしたが、今回はチームの色を出すために、個人がどう動くかを考えている。つまりは、組織として戦えている。チームの勝利のためなら泥臭い仕事も厭わず、誰もがルーズボールに体を張って突っ込んでいく。そういった戦う姿勢が、すごく見えるんです。

 アメリカ戦は間違いなく難しい試合になると思いますが、臆することなく、日本人らしさ、なでしこらしさも見せながら、戦ってほしいですね。期待したいのは、ブラジル戦で示してくれたようなリバウンドメンタリティ。70分過ぎまで0-0で、先に失点する展開もあるでしょう。スペイン戦のように、先制しながら追い付かれるようなパターンもあるでしょう。スペイン戦ではそこからずるずると引いてしまい、逆転を許しましたが、そういった困難な状況をはね返す力を、負ければ終わりの決勝トーナメントで発揮できるか。

 そこは怖さ半分、楽しみ半分かな(笑)。とにかく、良い試合を見せてほしいですね。

(企画・編集/YOJI-GEN)

宇津木瑠美(うつぎ・るみ)

1988年12月5日生まれ、神奈川県川崎市出身。2歳からサッカーを始め、14歳でなでしこリーグの日テレ・ベレーザに入団。21歳でプロに転向すると同時に、フランス女子リーグのモンペリエHSCに移籍する。正確な左足を武器とするMFとして世代別代表でも活躍し、16歳で初選出されたなでしこジャパンでは、2011年女子W杯優勝、15年女子W杯準優勝に貢献した。16年にアメリカのシアトル・レイン(現OLレイン)に加入。21年に帰国し、古巣である日テレ・東京ヴェルディベレーザでプレーする。身長168センチ。

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著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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