注目はサニブラウンだけじゃない! パリ五輪で「歴史の壁」に挑む日本の男子短距離選手たち

吉田昭彦

大観衆の中で行われるオリンピックの人気競技のひとつが、陸上短距離 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 連日の盛り上がりを見せている「2024年パリオリンピック」。日本からも数多くのアスリートが参加し、頂点を目指す戦いを繰り広げている。今回は実施される様々な競技の中から、オリンピックの花形競技と言える陸上競技の短距離(100m・200m・400m)に参加する男子日本人選手にスポットを当てて紹介する。

パリ五輪陸上男子短距離出場選手一覧 【スポーツナビ】

世界の中で輝ける日本人選手が現れる期待大の今大会

 この数十年の五輪において、このジャンルでの日本人選手の活躍を振り返ってみると、正直、厳しい時代が続いてきたと言えるだろう。

 これまでの五輪史上、この種目で予選や準決勝などを勝ち抜いて決勝に進んだのは、400mの1992年バルセロナ五輪での高野進が最も新しく、100mに至っては、なんと90年以上前の1932年ロサンゼルス五輪の100mの吉岡隆徳まで遡(さかのぼ)る。

 だが、近年、短距離ではないが、4×100mリレーでは2008年の北京五輪で銅メダル(当時。後に銀メダルに繰り上げ)、2016年には4×100mリレーで銀メダルを獲得し、また、米オレゴンでの2022年世界陸上競技選手権大会(以下、世界陸上)では、サニブラウン・アブデル・ハキームが世界陸上史上初めての日本人決勝進出を実現した。

 そして、これまで日本人選手にとって高い壁と言われていた100m9秒台も、今では、日本人として初めて突破した桐生祥秀をはじめ、サニブラウン、小池祐貴、山縣亮太の4人が記録するなど、日本人選手のレベルは確実に上がってきている。目前に迫ったパリ五輪で日本人選手が「歴史の壁」を破り、世界の脚光を浴びる可能性は十分にあるのだ。

【サニブラウン・アブデル・ハキーム/男子100m】最も注目の選手! 日本人92年ぶりの決勝進出なるか!?

サニブラウンが日本オリンピックの歴史に名を刻むか、要注目だ 【Photo by Sam Mellish/Getty Images】

 総勢60人以上となる陸上競技の日本人選手の中でも最も注目度が高いのは、やはり100mと4×100mリレーに出場するサニブラウン・アブデル・ハキーム(東レ)だろう。

 高校卒業後、アメリカ・フロリダ大学へ進学すると、2019年5月には日本人として歴代2位となる9秒99を記録し、さらに翌月の全米大学選手権で記録を伸ばし、当時の日本人最高記録となる9秒97を叩き出す走りを見せた。

 その後も、世界陸上や五輪など世界最高峰の大会に出場。2022年の世界陸上男子100mでは、予選を自己セカンドベストとなる9秒98で通過し準決勝も1組3着となりタイム順で決勝に進出。決勝では7位でフィニッシュした。日本人選手として世界陸上の100mで決勝に進出したのは初めての快挙であり、その他の世界大会を振り返ってみても、100mで日本人選手が決勝に進出したのは、1932年ロサンゼルス五輪での吉岡隆徳以来、実に90年ぶりのことだった。

日本人92年ぶりの決勝進出へ期待は高まる

 過去の大会を比較してもあまり意味はないと思われるが、100mの世界記録は、2009年の世界陸上(ドイツ・ベルリン)でウサイン・ボルト(ジャマイカ)が出した9秒58で、五輪記録では2012年のロンドン大会で同じくウサイン・ボルトが出した9秒63がいまだに破られていない。前回東京五輪の優勝タイムが9秒80、その前の2016年リオ五輪が9秒81、2022年の世界陸上が9秒86、2021年が9秒83、2019年は9秒76、2015年は9秒79と、実はこの10年弱では記録は伸びていないのが現状だ。

 それを踏まえて、五輪と世界陸上の予選、準決勝の記録を見てみると、2021年の東京五輪の100mの予選通過は、各組3位以下からのタイム順だと10秒21、準決勝突破は10秒00。2022年の世界陸上の100mの予選通過は10秒18、準決勝突破は10秒08となる。今季のサニブラウンのシーズンベストは、5月30日に開催された「ダイヤモンドリーグ第6戦」(ノルウェー・オスロ)での9秒99なので、しっかりと実力を発揮すれば予選はもちろん準決勝も突破し、日本人選手としては92年ぶりの決勝進出も現実味を帯びてくる。

 メダルに関しては、前回東京五輪の3位アンドレ・ドブラス(カナダ)が9秒89、2位フレッド・カーリー(米)が9秒84、優勝したラモントマルチェル・ヤコブス(伊)が9秒80、2022年世界陸上は、3位トレイボン・ボロメル(米)が9秒88、2位マーヴィン・ブレイシー(米)が同タイム9秒88、優勝したフレッド・カーリー(米)が9秒86。そして今大会の注目選手の自己ベストを見ると、2023年世界陸上金メダルのフレッド・カーリーが9秒76、アメリカ代表選考会優勝者で、2023年の世界陸上の金メダリストであるノア・ライルズが9秒81(パリ五輪直前のダイアモンドリーグで自己ベストを更新)、ジャマイカの22歳の新鋭キシェーン・トンプソンが9秒77、23歳のオブリク・セヴィルが9秒82の記録を持っている。サニブラウンがこういった中に割って入るには、より一層のタイムアップが必要となるのがわかる。だがまだ25歳、伸びしろは十分にある。パリでの大いなる飛躍を期待してもいいだろう。

【坂井隆一郎/男子100m】日本選手権での優勝の勢いを期待!

坂井の武器はなんといってもスタートダッシュ。世界を驚かせてほしい! 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 本大会が五輪初出場となる坂井隆一郎(大阪ガス)。世界大会は、これまで2022年と2023年の世界陸上に共に100mで出場している。2022年は予選タイム順で準決勝に進出するが、決勝進出は叶わなかった(2023年は予選で組5位となり予選敗退)。パリ五輪へは6月に行われたパリ五輪代表選考会を兼ねた日本選手権で優勝し(タイム10秒13)、ワールドランキングでのターゲットナンバーをクリアしたことにより出場が決定した。自己ベストは10秒02。パリ五輪の目標は決勝進出。そのためには自己ベストとなる9秒台を出さないと難しいだろうが、大会直前の7月20日に行われた「ダイアモンドリーグ第10戦」(英・ロンドン)の4×100mリレーで桐生祥秀、栁田大輝、上山紘輝と組んで優勝を果たすなど調子は良さそうなので、うまくコンディション調整をして、得意のロケットスタートを決めてほしい。

【東田旺洋/男子100m】たどり着いた最高の舞台! まずは準決勝進出を

度重なるケガを乗り越え、ついにたどり着いた最高の舞台で輝け! 東田旺洋!! 【Photo by Tomasz Jastrzebowski/Foto Olimpik】

 同じく100mに参加する東田旺洋(関彰商事)も、6月の日本選手権で2位に入り(タイム10秒14)、ワールドランキングでターゲットナンバーをクリアして出場を決定させた。前回の東京五輪で100mを走り今回のパリ五輪では4×100mリレーに出場する桐生祥秀(日本生命)とは高校の同級生。高校時代から常に脚光を浴びてきた桐生に比べると、度重なるケガなどもあり遅咲きだが、ついに最高の舞台にたどり着いた。自己ベストは10秒10。パリ五輪では、まずは準決勝進出が目標というが、コンディションが整いしっかりと実力を出し切れば十分に可能だろう。

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著者プロフィール

元出版社勤務、現在はフリーランスで活動。サッカー専門誌をはじめ、モータースポーツ、ゴルフ、マラソン、トレイルランニングなどの雑誌作りに携わる。趣味はサッカーや陸上の観戦と、ゴルフ、マラソン、トレイルランニングの競技参加。

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