U-23日本代表が南米1位を5-0で撃破した理由 大一番で見せた「28年」の積み上げと試合巧者ぶり

大島和人

誰が出てもハイレベル

藤尾翔太は途中出場ながら2ゴールを決めている 【写真は共同】

 日本は控え選手の投入で攻守の圧を強め、後半の4得点でパラグアイを突き放した。グループリーグは3試合の合算で決まり、勝ち点が並ぶケースも少なくない。そう考えると「プラス5」の得失点差を稼いだことは、ベスト8進出に向けて極めて大きなアドバンテージだ。

 パラグアイ戦でU-23日本代表のアタッカー陣は三戸と藤尾が複数得点を挙げ、斉藤や細谷もアシストで得点に貢献している。「誰が出ても結果を出す」ところに、大岩ジャパンの凄みがある。しかも選手がその競争を前向きに捉えている。藤尾はこう語っていた。

「やはり楽しいですね。高いレベルで周りもやれていて、僕のレベルもそれで上がっていっていると思います」

 慎重なコメントに終始していた大岩剛監督も、控え組の活躍については率直な喜びを述べる。

「その点は非常に我々の強みで、誰が出ても(差がない)というところは選手が意識してやってくれた結果だと思います」

 オーバーエイジや久保、鈴木のような「代表級」がいなくても、大岩監督のコンセプトを90分遂行できる粒揃いの人材がいる。だから分かりやすいスターはいなくても、登録18名の総力でパラグアイを上回った。

際立った冷静さ、老練さ

藤田譲瑠チマは日本の「冷静さ」を象徴するキャプテンだ 【写真は共同】

 パラグアイのような強敵が相手なら、2点目を取って楽になりたくなるのが「普通」の心理かもしれない。しかし日本はチーム全体で、相手の自滅を待つしたたかさを発揮した。

 相手のラフプレーには熱くなって応戦してしまったり、逆に怖気付いてしまったりするチームも珍しくはない。だがファウルを日本の2倍犯し、レッドカード1枚、イエローカード3枚を記録した相手に対して、彼らは冷静だった。

 藤田はそんなラフプレーに対する冷静さについて、こう説明してくれた。

「そこは日本人の良さでもあると思いますし、無駄なカードをもらわないことは常に心がけているところです」

 南米1位に5点差で勝ったのだから多少は浮かれても、はしゃいでも、きっと許される。ただチームの喜びは極めて抑制的だった。例えば大岩監督はこう口にしている。

「1人少なかったので、ボールを握る時間は増えたけれど、少しネガティブなプレー選択をする瞬間もあった。それをやはりもう1回修正しなければいけないし、もっと質の良い支配をすることはできたはずです」

 大岩監督は短時間のやり取りで「相手が10人だった」ことを4度、5度と繰り返し強調していた。チームが目指すものの高さ、いい意味での欲深さを感じさせていた。

 日本は欧州の「5大リーグ」でプレーする選手が何十人単位でいるサッカー強国だが、パリ五輪の代表チームに限ればタレント性はパラグアイがやや上だろう。しかし大岩ジャパンはそんな相手に試合運び、老練さで上回った。ワールドカップに次ぐ大一番の、特に大切な初戦で非の打ち所がない試合をした。

 日本は1993年にJリーグが発足すると、1996年のアトランタ五輪に28年ぶりの出場を果たした。ブラジルを下す「マイアミの奇跡」を起こした大会だ。日本サッカーはそれから8大会連続で五輪に出場し、自国開催の東京大会を除くとW杯以上の高いハードルをクリアし続けている。そんな28年の積み上げを強く感じたパラグアイ戦だった。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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