U-23代表・平河悠が海外移籍で町田最終戦 黒田監督、昌子主将の語る成長と実力

大島和人

推進力は「日本でも少ないレベル」

平河の突破力は左右両サイドで活きる 【(C)FCMZ】

 もっとも当時の町田はJ2で、年代別代表入りや海外移籍を具体的に想像できる状況ではなかった。当時の彼はパスポートさえ保有していなかったという。

 町田は同年のJ2を15位で終え、ポポヴィッチ監督も退任する。

 ここで登場したのがその前年まで青森山田高の教員だった黒田剛監督だ。チームは新監督の就任に合わせて、有力選手を獲得した。2023年の開幕ベガルタ仙台戦の先発を見ると、11名中7名が新加入選手だ。

 平河は競争が激化した中でも黒田監督からも高い評価を受け、シーズンを通して起用され続けた。成長曲線が、更に上向きとなった。

 平河は町田における自身の成長をこう説明する。

「ドリブルを売りとする選手では元々なかったのですが、試合をしていく中でそこに磨きをかけられました。プロの壁を感じながらのプレーでしたが、壁を一つ一つ乗り越えていく中で、プレーの強度も上がってきました。スタメンで出続けたことで自分のプレーの構築、目指していく形が見え始めた。そこが一番の成長かなと思います」

 大学時代は「点取り屋」色の強かった平河だが、町田ではサイドハーフとしてプレースタイルを確立していく。彼は素晴らしいスピードと鋭い重心移動の持ち主だ。さらに「両側から突破できる」「両足をしっかり使える」ところが強みで、縦とカットイン(内側に切れ込むプレー)を同レベルの選択肢として持てる。フィニッシュにはまだ課題を残すが、サイドの打開力に限ればJ1屈指だろう。

 J1昇格後も、平河は町田のアドバンテージであり続けた。キャプテンの昌子源はこう口にする。

「チームの苦しいときに1人で持っていける推進力は、なかなか日本でも少ない(レベルだ)と思います」

 昌子は今季、J1初昇格の町田に加わった。

「町田にいた選手に『サプライズが起こせるような選手は?』と聞いたら、悠の名前はよく挙がっていました。『へー、平河ね』という感じから入って、ただ僕も正直知らなかったんです。でも『いい選手だな』と気づくのに時間はかからなかった」

「タフさ」こそが平河の強み

キャプテンの昌子は平河の「馬力」を評価する 【(C)FCMZ】

 172センチ・70キロと登録されている平河は、決して大柄ではない。しかし町田加入後にコンタクトプレーがどんどん強くなっていった。これは藤尾についても言えることだが、黒田監督はトレーニングの効果を強調する。

「プロは『実は筋トレをしない方が調子もいい』とか、『あまりやりすぎると重たくなる』という自分の定義を持っていて、なかなか高校生をコントロールするようにはいきません。でも平河と藤尾はずっとフィジカル強化をやり続けて、我々スタッフの信頼を得て、活躍し続けた。彼らはここに来たときより体重が3キロ、筋量も2.5〜3キロ近くアップしています。それが彼らの当たり負けしない、転ばないといった特徴をさらに強めました」

 昌子もこう述べる。

「平河の『馬力』ですよね。運動量もドリブルもJ1でかなり通用していると思います。それに彼はそれを90分やりますから、タフさがスゴい。小柄に見えるけど上半身・下半身がガッチリして、素晴らしい体幹、筋肉を持っています」

 「タフさ」は平河の決定的な強みだ。運動量、走行量を強みとする町田の中でも、平河はスプリントの頻度がどの試合もチームの1位、2位を占める。加えてボール奪取能力が高く、最終ラインまで戻ってシュートブロックをするような『守備のスプリント』でチームをしばしば救う。ピンチを救ったら、また素早く前線に戻る。つまり相手ボールの状況でも、その強みは生きる。

 接触プレーで出場に影響するようなケガを負ったことがないという身体の強さも、彼の「タフさ」を象徴するポイントだ。

「攻撃の選手であそこまで守備のタスクもこなしてくれることは、彼のスゴさの一つです。しかもそこから攻撃にもう一度パワーを使える。J1でもなかなか見ない馬力を持った選手だと思います」(昌子)

 町田では[4-4-2]の両サイドハーフに定着しているが、攻守の万能性を考えれば[3-5-2]のウイングバックや、サイドバックでも起用可能だろう。しかもチームが苦しいときに、攻守の決め手を作ってくれる。こんな選手がベンチにいれば、監督は助かるはずだ。

「キャリアや人生を考えたらいい決断」

クラブと平河の道は分かれるが「世界」というゴールは同じだ 【(C)FCMZ】

 クラブはJ1がまだ遠い時期から「町田から世界へ」というキャッチフレーズを掲げて戦ってきた。実は2012年に在籍した加藤恒平という町田から「世界」へ飛び出して、なおかつ日本代表候補入りを果たした選手も過去にはいる。とはいえ町田生え抜きで、在籍中に移籍金が発生する状況で海外へ移籍する選手は平河が初めてだ。

 英語はまったく喋れないと自認する若者が、初の海外生活を経験するわけだが、昌子は適応に太鼓判を押す。

「どちらかというと『のほほん』とやるところがあるけど、あいつは物怖じをしません。朝早く来て、体幹(トレーニング)をしてケアして、自分に矢印を向けてやれる選手です。若いのに自分とちゃんと向き合えている。あの強度、あのタフさで怪我をせずにずっとやっている。代表から帰ってきたら中2日で時差があろうが、試合に出てチームを助けてくれる。そういうところをみていると、向こうでもしっかりできる選手はないかなと思います」

 平河の可能性を考えるとレベル的、経済的に「もっと上」を目指すべき時期が来ていた。黒田監督と同じように、キャプテンも平河の海外移籍については前向きだ。

「チームとしてはできたら最後まで戦ってほしいですけど、彼のキャリアや人生を考えたらいい決断だと思います。オリンピック予選のときもそうでしたけど、彼がいなくなって勝てなくなった……とは言われたくない。代わりになる選手が、プラスアルファの力を出せるように、チームとしてやっていければなと思います」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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