衰え知らずの33歳 競泳・鈴木聡美「無心の境地で」パリでもねらう自己ベスト

栗原正夫

鈴木の意欲を突き動かしてきたものとは…

近年は持久力とともに筋力アップにも励んできた 【Masao KURIHARA】

 大きく脚光を浴びたロンドン五輪から12年、鈴木はいまも母校の山梨学院大のプールを練習拠点にし、水泳部監督の神田忠彦コーチに師事している。結果が出ず代表から遠ざかり、東京五輪出場を逃すなど苦しい時期もあったが、なぜブレずに努力を続けてこられたのか。

「『まだやれる』『オリンピックにも絶対に行ける』と声をかけ続けてくれた神田監督や(リオ五輪後から鈴木をサポートする)永井裕樹トレーナーには心から感謝している」と鈴木はいう。

 だが、それ以上に競技を続けてきた根底には、泳ぐことが好きで、記録を更新したときの達成感を欲していたからだとする。

「五輪選考会でも(100mの)自己ベストを更新できましたが、1つ目標を達成すると、また次の目標が出てきて、ようはずっと満足できない性格なんです。なので、自己ベストを出したいという欲がずっと私を突き動かしてきたんです」

 レースに臨むうえで鈴木がこだわるのは、順位より自己ベストの更新。パリ五輪に向けても、何が何でもメダルではなく、自己ベスト更新の先にメダルが付いてくると考えるのが鈴木流だ。

「競泳は順位も出ますが、記録で勝負するもの。メダルに捉われると、どこか(気持ちが)守りに入ってしまったり、本来の力を出し切れないものです。私自身、ロンドン五輪のあとは、勝ちにこだわり過ぎてしまい自分の泳ぎができずに苦しみましたから。

 これまでの経験から、記録を出せば自ずと結果がついてくることに気づきました。自己ベストを出さずに勝ったときは素直に喜べない? そこは少し複雑で……。ロンドン五輪の100mで3位(銅メダル)になったときは、ゴール地点でランプがついていたのでメダルを取れたとわかり喜んだのですが、タイムを見たら自己ベストにわずかに届いてなくて、少し微妙な気持ちになりましたからね(笑)」

目標は自己ベストの更新。パリでの勝算は?

「競技を続けるなか、自分らしくいることが一番大切で、それが結果に繋がる」とも話してくれた 【Masao KURIHARA】

 8年ぶりとなるパリ五輪はどう戦うのか。

 鈴木は近年、筋力や持久力の強化に取り組み、パワーのある外国人選手のように序盤から速いテンポの泳ぎで入り、そのまま押し通す(耐える)ようなレース展開をイメージしているという。

「それが(100mの)去年、ことしの自己ベスト更新につながったので、途中でテンポが落ちたとしても全部出し切ることが必要かなと。以前はつらくなると水中でのボディポジション(腰の位置)が低くなってしまっていたのですが、最近はより水面に近い状態(高い位置)を保てるようになりましたし、そこでうまくプルとキックの動作を組み合わせられれば。もちろんパワーだけで海外の選手に対抗するのは難しいので、より体の抵抗を減らすことも大事になってきます」

 昨年の世界選手権の結果を見ると、女子平泳ぎ100mの優勝タイムは1分4秒62(ルタ・メイルティテ/リトアニア)で、3位は1分5秒94(リディア・ヤコビー/アメリカ)だった。鈴木の自己ベストは1分5秒91で、自己ベストを更新できればメダルの可能性は十分。

 200mは、東京五輪金メダリストで2分20秒80のタチアナ・スミス(南アフリカ)が優勝し、3位は2分21秒63(テス・シャウテン/オランダ)。鈴木は12年ロンドン五輪以来、自己ベスト(2分20秒72)を更新できていないが、その壁を破ればチャンスの芽は出てくる。

「100mは1分4秒台や日本記録(1分05秒19/青木玲緒樹)を出せれば、表彰台に上がれると思うし、その辺をねらっていけたら。200mは最近2分19秒台を出している選手も多く、そういう選手たちが本番でも同じような記録を出してきたら難しくなりますが、出る以上は自己ベストをねらって頑張りたいです。

 ロンドン五輪ではメダルをねらって取ったというよりも取れてしまった(笑)。パリ五輪に向けての気持ちは半分は楽しみで、半分はプレッシャーです。ただ、年齢を重ねてきたなか、いまは違った意味での新鮮味を持って競技に取り組めていますし、タイムを更新できる自信もある。もしメダルを取れれば、当時とは違った景色が見えるでしょうし、自分らしくチャレンジできたらと思います」

 大会後のことについて聞けば「まったくの白紙です、何も考えていません」と笑った。

 考え過ぎるのをやめて自分らしさを取り戻した鈴木。パリで自己ベストを出せれば、何が起きても不思議ではない。

鈴木聡美(すずき・さとみ)

1991年1月29日生まれ。福岡県遠賀町出身。4歳から水泳を始め、小6のジュニアオリンピックで全国大会初出場。九州産業大学付属九州高を経て山梨学院大卒業。12年ロンドン五輪で、平泳ぎ200mで銀、100mで銅、400mメドレーリレーで銅メダルを獲得。21年の東京五輪出場は逃したが、3度目の五輪となるパリでは平泳ぎ100m、200mの2種目に内定。趣味は漫画やアニメ、ゲーム。身長1メートル68センチ。ミキハウス所属。

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著者プロフィール

1974年生まれ。大学卒業後、映像、ITメディアでスポーツにかかわり、フリーランスに。サッカーほか、国内外問わずスポーツ関連のインタビューやレポート記事を週刊誌、スポーツ誌、WEBなどに寄稿。サッカーW杯は98年から、欧州選手権は2000年から、夏季五輪は04年から、すべて現地観戦、取材。これまでに約60カ国を取材で訪問している

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