フェンシング・見延和靖が歩み続ける「我が道」 37歳で迎えるパリ五輪で目指すものとは

田中夕子

史上最強のフェンサーを目指して

東京五輪ではエペ団体で日本人初の金メダル獲得を果たした 【写真:ロイター/アフロ】

“最強”のメンバーで挑んだ東京五輪を終えた直後に、宇山が現役引退。他の選手とは一線を画すスタイルだった宇山が担ったポジションを団体戦で誰が果たすのか。東京からパリまでの3年間、最も大きなテーマであり課題だった。

 個人戦のフェンシングとはいえ、オリンピックで団体戦の出場枠を得れば個人戦に出場できる選手の数も増える。金メダリストの加納、山田を軸に若手選手を積極的に起用しながら、どの形が最もフィットするのかをチームとしては探りつつ、個人としても世界ランキングで上位につけなければ出場権は得られない。東京五輪への日々とは異なる状況に苦しみ、もがきながらも自らが目指すべき道は決して、東京で叶えた金メダルだけでは終わらない、というフェンシング選手としてのシンプルな夢が見延を再び突き動かした。

「オリンピックで金メダルを獲るというのは、確かに大きな目標でした。でも僕が目指すのはそれだけではなく、史上最強のフェンサーになる、というもう1つの大きな目標がある。自分の中にある目標に向かって歩み続けていくことこそが大切だ、と気づいたんです」

 フェンシングを始めて、数えれば人生の半分以上をフェンシング選手として生きてきた。苦しいことも、楽しいことも、喜びも。フェンシングから学び、感じることばかりで、決して大げさではなく人生においてなくてはならないものでもある。

 36歳という年齢と、すでに得た金メダリストの称号。ケガも続く中、引退の2文字がよぎらなかったわけではないが、やはりたどり着くのは、まだ自分の求め、極めるべき道はもっと先にある、という思いだった。

「生まれてきたからには、何か世の中に価値を見出したい。価値はいろいろありますけど、僕が考えるのは何かを生み出すことだと思うんです。0から1、何もないところに何かを生み出すこともあれば、100から101、突き詰め切った先で生み出せるものもある。僕のこれからの人生はまさに後者。職人的な生き方なんじゃないか、と。東京オリンピックで金メダルを獲ったけれど、でも自分のフェンシングに満足しているかといえばそうではない。これならば、と満足できるフェンシングができても結果が伴うわけではない。その時々、いろんなもやもやがあるけれど、やっぱり自分のスタイルを貫く、自分の道を行く中でオリンピックの金メダルがある。それが理想で、自分はそうありたい、と考えるようになりました」

 これまではスピードや身体能力を活かしたフットワークを武器とするスタイルで戦ってきた。だがケガをしたり、さまざまな経験を重ねる中、今は攻めるばかりでなく駆け引きを重ねて最後に仕掛ける、新たなスタイルにも挑戦している最中だ。

「うまくいかないこともありますけど、今、いい感じで見えかけている自分のスタイルを完成させることができたら、楽しみだなと自分が一番思うんです。何よりオリンピックで、個人戦の金メダルはまだ誰も成し遂げていないし、団体戦の連覇も成し遂げていない。これからも“日本人初”にこだわって、2つのメダル、持って帰ってきます」

 信じる道を行く。まだまだ円熟期ではなく成長期。7月の誕生日で37歳となり迎えるパリ五輪、グラン・パレのピストに立つ。そのときを誰より楽しみにしているのは、見延自身だ。

自分の道を貫く中でオリンピックの金メダルがあることが理想と語った 【スポーツナビ】

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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