プロ野球「新人王レース2024」最前線レポート

プロ野球史に残る「新人王レース」6選 敗れた選手も多士済々の顔ぶれがずらり

前田恵

1998年セ・リーグの新人王争いは球史に残るデッドヒートとなった。その主役となった川上憲伸(写真左)と高橋由伸(同右) 【写真は共同】

 プロ野球選手が生涯に一度しか獲得できないタイトル。最優秀新人賞(新人王)。記者投票により毎年、投手と野手の枠を超えて「各リーグから1名」が選出される。各部門賞とは違い、どの成績に重きを置くかなど、各記者の視点で選考が大きく変わってくるからこそ、悲喜こもごものドラマも生まれる。

プロ野球史上初“新人特別賞”の快挙

西崎幸広と白熱の新人王争いを演じた阿波野秀幸。2人は「トレンディエース」と呼ばれ人気を博し、ライバルとして切磋琢磨した 【写真は共同】

 近年の主な新人王争いで、この「記者の印象」が運命を分けたと見られているのが、1987年のパ・リーグだった。近鉄・阿波野秀幸(亜細亜大①=以下、丸数字はドラフト順位)と日本ハム・西崎幸広(愛知工業大①)。阿波野が左、西崎が右という違いこそあれ、同じ大卒ドライチで、共に速球派。ついでに言うと、女性人気も等分した。まずは開幕当初から先発ローテーション入りした阿波野が勝ち星を先行。リリーフでスタートした西崎が先発に転向し、驚異の追い上げで阿波野の9勝に追いついたのが、8月31日である。9月5日、仲良く10勝目を挙げたあたりから、2人の新人王争いは一気に過熱した。

 最終成績は阿波野が15勝12敗、防御率2.88、西崎が15勝7敗、防御率2.89とほぼ互角。ただし、阿波野にはリーグ2位の22完投と両リーグ1位の201奪三振というアピール材料があった。記者投票の結果は阿波野の141票に対し、西崎が51票。予想外の大差は、「阿波野のほうが、記者ウケがよかった」ためともいわれたが、さて……。なお新人王決定の1カ月後、西崎にはパ・リーグ会長から特別表彰のメダルが贈られた。1950年に新人王表彰が始まって以降、特別表彰は初のことだった。

“空前の当たり年”90年の新人王争い

ドラフト史上最多の8球団競合でプロ入りした野茂英雄はけた違いの成績でタイトルを総なめにし、他の追随を許さなかった 【写真は共同】

 球史を振り返ると何年かに一度、「新人の当たり年」なるものがある。1990年はセ・パ両リーグとも、まさにこの「当たり年」。新人選手たちが“即戦力としてチームに貢献”どころか、ベテラン勢をも圧倒する活躍を見せた。

 セ・リーグの新人王争いを牽引したのは、中日・与田剛(NTT東京①)と広島・佐々岡真司(NTT中国①)の両右腕である。与田は開幕からストッパーとしてマウンドに仁王立ち。球速150キロ超の剛速球で打者を圧倒する様は、圧巻だった。一方の佐々岡は先発、リリーフの“二刀流”で「投手王国」広島の中にあって輝きを放った。与田は新人投手最多(当時)となる31セーブを記録し、最優秀救援と新人王のタイトルを獲得。13勝、17セーブを記録した佐々岡には、セ・リーグ会長特別賞が授与された。この年はヤクルト・古田敦也(トヨタ自動車②)も、新人ながら正捕手に定着。盗塁阻止率リーグ1位(.527)でゴールデン・グラブ賞に選ばれたが、新人王には届かなかった。

 同年のパ・リーグは、近鉄・野茂英雄(新日鉄堺①)が「トルネード投法」と名付けられた独特なフォームと、そこから繰り出される剛速球、伝家の宝刀フォークボールで一世を風靡した。最終的に、野茂は投手四冠(最多勝=18勝、最優秀防御率=2.91、最多奪三振=287、最高勝率=.692)を獲得。新人王、ベストナイン、MVP、さらにはパ・リーグ初の沢村賞にも選ばれた。同年、西武に入団した潮崎哲也(松下電器①)はシンカーを武器に、43試合に登板。7勝8セーブ、防御率1.84の成績で、チームの日本一に貢献した。「通常の年なら潮崎が新人王間違いなし」といわれたほどで、いかに野茂が“規格外”だったかが分かるだろう。潮崎のほか、日本ハムの左腕・酒井光次郎(近畿大①)もシーズン3完封勝利を含む10勝10敗、唯一野手として新人王争いに参戦した近鉄・石井浩郎(プリンスホテル③)は86試合で打率.300、本塁打22と堂々の成績を残している。潮崎、酒井、石井には、リーグから新人特別賞が贈られた。

1/2ページ

著者プロフィール

1963年、兵庫県神戸市生まれ。上智大学在学中の85、86年、川崎球場でグラウンドガールを務める。卒業後、ベースボール・マガジン社で野球誌編集記者。91年シーズン限りで退社し、フリーライターに。野球、サッカーなど各種スポーツのほか、旅行、教育、犬関係も執筆。著書に『母たちのプロ野球』(中央公論新社)、『野球酒場』(ベースボール・マガジン社)ほか。編集協力に野村克也著『野村克也からの手紙』(ベースボール・マガジン社)ほか。豪州プロ野球リーグABLの取材歴は20年を超え、昨季よりABL公認でABL Japan公式サイト(http://abl-japan.com)を運営中。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント