大岩ジャパンはパリ五輪本番で別物に? アジア制覇に至った分水嶺と「18人枠」の行方
準決勝で今大会最高のパフォーマンスを披露
「歴代の先輩たちが何十年と積み上げてきた成果(7大会連続の五輪出場)に、少なからずプレッシャーを感じていたし、(逆転されてから)なかなかゴールも奪えなかったので焦りもあった」(MF荒木遼太郎/FC東京)
「28年も続いてきた記録を、ここで途絶えさせるわけにいかない。韓国が(その直後の試合で)敗退したけど、僕らも負けていたらと思うとゾッとする。あんな試合運びは二度としたくない。本当に吐きそうでしたから」(山本)
だが、そうした状況でも自分たちを見失わず、67分に得意のセットプレーから同点に追いつくと、最終的には延長戦で2ゴールを挙げて難敵を撃破。この勝利がチームを1つにしたのは言うまでもない。
重圧を跳ねのけ、カタール戦を乗り越えたからこそ、続く準決勝のイラク戦は多少気持ちに余裕を持って戦えた。勝てば五輪出場権獲得という状況の中でも、選手たちは普段通りに振る舞い、今大会最高と言えるハイパフォーマンスを披露して見事に2-0の勝利をつかみ取ったのだ。
そして迎えた決勝。チームは気持ちを切らさず、もう1つの目標であるアジア制覇を目指してタフに戦い抜いた。
「不恰好かもしれないですけど、決勝戦とはこういうもん。うまくいかないことがたくさんある」
試合後、そう大岩監督が振り返ったように、ハイプレスを仕掛けてきたウズベキスタンに手を焼き、日本は90分間を通じてほとんどの時間帯で主導権を握れなかった。それでも我慢強く耐え抜くと、アディショナルタイムの90+1分に途中出場のMF山田楓喜(東京V)が決勝弾をゲット。その4分後に右サイドバックの関根大輝(柏)がエリア内でハンドを取られ、土壇場で相手にPKを与えてしまうが、ここで守護神の小久保が躍動する。
「自信はなかった」と言いながらも、チームを優勝に導く完璧なシュートストップを披露。そして、17分にも及んだアディショナルタイムをしのぎ、ついに彼らは86人分の想いとともにアジアの頂点へと上り詰めたのだ。
これから一気に激しさを増すチーム内競争
もちろんこれがゴールではない。むしろ、ここからが本番だ。パリ五輪までの準備期間はわずか2カ月半で、残された活動は6月3~16日の海外遠征(場所は未定)のみ。日本はパラグアイ、マリ、イスラエルと同居するグループDに組み込まれたが、初戦のパラグアイ戦は現地時間7月24日とに迫っている(マリ戦が7月27日、イスラエル戦が7月30日)。
また、登録メンバーは今大会の23名から五輪では18名に登録メンバーが削減される。当然ながらチーム内競争も、ここから一気に激しさを増す。デンマークリーグでゴールを量産する鈴木唯を筆頭に、今回呼べなかった欧州組も当然、この争いに加わってくるはずで、さらに大岩ジャパンには未招集ながら、パリ五輪世代では飛び抜けた実績を持つ久保建英(ソシエダ)をスカッドに組み込みたい意向も首脳陣にはあるようだ。
さらに日本サッカー協会はU-23アジアカップが始まる前から水面下でオーバーエイジ(OA)枠の人選を進めてきた、各クラブとの交渉が順調に進んだ場合、おそらく最大3名の枠をフル活用する見込みだ。
特に立ち上げ当初から軸を固定できなかったセンターバックには、OA枠を2つ使う可能性がある。今大会では高井幸大(川崎F)が目覚ましい活躍を見せ、一気に序列を上げた感があるものの、心もとない選手層の拡充は必須。A代表での経験が豊富な東京五輪組の板倉滉(ボルシアMG)はまさに適任で、同じく東京五輪世代の町田浩樹(サンジロワーズ)も左利きのセンターバックとして希少価値が高い。
この2人は「18人枠」となる五輪向きのチョイスと言えるだろう。前者はボランチ、後者は左サイドバックでもプレー可能なポリバレントだ。
また、U-23アジアカップでチームの激励に訪れた前述の谷口も候補の1人。リーダーシップという点でも心強く、実際に今大会の2試合を現地で観戦していて、チームにもスムーズに溶け込めそうだ。
残る1枠はセントラルMFに使いたい。ここもA代表歴を有する選手が藤田1人で、彼とともに中盤を支えられる経験値の高い人材が求められている。アンカーにも対応可能な田中碧(デュッセルドルフ)や守田英正(ベンフィカ)といったA代表のレギュラークラスを招集できれば言うことなしだ。
ただ、チーム事情などで彼らの招集が難しい場合は、枠をセンターフォワードなど他のポジションに充ててもいい。最後の1枠の使い方次第で編成が大きく変わりかねないため、選考には慎重を期したい。
いずれにせよ、今大会とは大きく異なる編成で五輪本番に臨む可能性が高い。6月の海外遠征もOAを含めて動くことになるが、今までのチームとは別軸で考える必要があるだろう。とはいえ、大岩監督をはじめとするスタッフには、誰が入っても崩れない集団を2年がかりで作り上げてきた自負がある。そして、それは出場権を勝ち取った選手たち自身にも──。
「監督が誰を選ぶか困るほど素晴らしい選手がたくさん出てくれば、オリンピック代表チームは今よりももっと良くなる」
今大会のMVPに輝いたキャプテン藤田も、頼もしい言葉を残している。ここからは各自が貪欲にさらなる成長を求めながら、新たな戦いに向けて準備を進めていくだけだ。
(企画・編集/YOJI-GEN)