大岩ジャパンはパリ五輪本番で別物に? アジア制覇に至った分水嶺と「18人枠」の行方

松尾祐希

準決勝で今大会最高のパフォーマンスを披露

荒木のゴールなどで快勝したイラクとの準決勝は、今大会最高のパフォーマンスだった 【Photo by Noushad Thekkayil/NurPhoto via Getty Images】

 ただ、それでもカタール戦は、予想通り難しいゲームになった。開始65秒で幸先よく先制点を奪うが、すぐに追いつかれてしまう。前半終了間際に相手GKが退場となって得た数的優位も生かし切れず、それどころか後半の立ち上がり早々に逆転を許す始末。攻撃が停滞する状況に、口では「大丈夫」と言いながら、誰もが焦りを覚えていた。試合後の証言が生々しい。

「歴代の先輩たちが何十年と積み上げてきた成果(7大会連続の五輪出場)に、少なからずプレッシャーを感じていたし、(逆転されてから)なかなかゴールも奪えなかったので焦りもあった」(MF荒木遼太郎/FC東京)

「28年も続いてきた記録を、ここで途絶えさせるわけにいかない。韓国が(その直後の試合で)敗退したけど、僕らも負けていたらと思うとゾッとする。あんな試合運びは二度としたくない。本当に吐きそうでしたから」(山本)
 
 だが、そうした状況でも自分たちを見失わず、67分に得意のセットプレーから同点に追いつくと、最終的には延長戦で2ゴールを挙げて難敵を撃破。この勝利がチームを1つにしたのは言うまでもない。

 重圧を跳ねのけ、カタール戦を乗り越えたからこそ、続く準決勝のイラク戦は多少気持ちに余裕を持って戦えた。勝てば五輪出場権獲得という状況の中でも、選手たちは普段通りに振る舞い、今大会最高と言えるハイパフォーマンスを披露して見事に2-0の勝利をつかみ取ったのだ。

 そして迎えた決勝。チームは気持ちを切らさず、もう1つの目標であるアジア制覇を目指してタフに戦い抜いた。

「不恰好かもしれないですけど、決勝戦とはこういうもん。うまくいかないことがたくさんある」

 試合後、そう大岩監督が振り返ったように、ハイプレスを仕掛けてきたウズベキスタンに手を焼き、日本は90分間を通じてほとんどの時間帯で主導権を握れなかった。それでも我慢強く耐え抜くと、アディショナルタイムの90+1分に途中出場のMF山田楓喜(東京V)が決勝弾をゲット。その4分後に右サイドバックの関根大輝(柏)がエリア内でハンドを取られ、土壇場で相手にPKを与えてしまうが、ここで守護神の小久保が躍動する。

 「自信はなかった」と言いながらも、チームを優勝に導く完璧なシュートストップを披露。そして、17分にも及んだアディショナルタイムをしのぎ、ついに彼らは86人分の想いとともにアジアの頂点へと上り詰めたのだ。

これから一気に激しさを増すチーム内競争

この年代では抜きん出た実績を誇る久保(中央)とOA候補の板倉(左)。東京五輪で悔しい想いを味わった彼らも本番のスカッドに加わるか。18人枠の人選が注目される 【Photo by Alex Grimm - FIFA/FIFA via Getty Images】

 ここに至るまで、何度も心が折れそうになる瞬間があっただろう。思うようにメンバーを集められず、本当にパリに行けるのかと、スタッフが疑心暗鬼に苛まれたことも一度や二度ではなかったはずだ。そもそも選手たちも昨年の今頃、その大半が所属クラブでレギュラーの座をつかめていない状況だった。それでも彼らはしっかりと自らの足で立ち、どんな状況でもタフに戦える集団へとたくましく成長を遂げた。

 もちろんこれがゴールではない。むしろ、ここからが本番だ。パリ五輪までの準備期間はわずか2カ月半で、残された活動は6月3~16日の海外遠征(場所は未定)のみ。日本はパラグアイ、マリ、イスラエルと同居するグループDに組み込まれたが、初戦のパラグアイ戦は現地時間7月24日とに迫っている(マリ戦が7月27日、イスラエル戦が7月30日)。

 また、登録メンバーは今大会の23名から五輪では18名に登録メンバーが削減される。当然ながらチーム内競争も、ここから一気に激しさを増す。デンマークリーグでゴールを量産する鈴木唯を筆頭に、今回呼べなかった欧州組も当然、この争いに加わってくるはずで、さらに大岩ジャパンには未招集ながら、パリ五輪世代では飛び抜けた実績を持つ久保建英(ソシエダ)をスカッドに組み込みたい意向も首脳陣にはあるようだ。

 さらに日本サッカー協会はU-23アジアカップが始まる前から水面下でオーバーエイジ(OA)枠の人選を進めてきた、各クラブとの交渉が順調に進んだ場合、おそらく最大3名の枠をフル活用する見込みだ。

 特に立ち上げ当初から軸を固定できなかったセンターバックには、OA枠を2つ使う可能性がある。今大会では高井幸大(川崎F)が目覚ましい活躍を見せ、一気に序列を上げた感があるものの、心もとない選手層の拡充は必須。A代表での経験が豊富な東京五輪組の板倉滉(ボルシアMG)はまさに適任で、同じく東京五輪世代の町田浩樹(サンジロワーズ)も左利きのセンターバックとして希少価値が高い。

 この2人は「18人枠」となる五輪向きのチョイスと言えるだろう。前者はボランチ、後者は左サイドバックでもプレー可能なポリバレントだ。

 また、U-23アジアカップでチームの激励に訪れた前述の谷口も候補の1人。リーダーシップという点でも心強く、実際に今大会の2試合を現地で観戦していて、チームにもスムーズに溶け込めそうだ。

 残る1枠はセントラルMFに使いたい。ここもA代表歴を有する選手が藤田1人で、彼とともに中盤を支えられる経験値の高い人材が求められている。アンカーにも対応可能な田中碧(デュッセルドルフ)や守田英正(ベンフィカ)といったA代表のレギュラークラスを招集できれば言うことなしだ。

 ただ、チーム事情などで彼らの招集が難しい場合は、枠をセンターフォワードなど他のポジションに充ててもいい。最後の1枠の使い方次第で編成が大きく変わりかねないため、選考には慎重を期したい。

 いずれにせよ、今大会とは大きく異なる編成で五輪本番に臨む可能性が高い。6月の海外遠征もOAを含めて動くことになるが、今までのチームとは別軸で考える必要があるだろう。とはいえ、大岩監督をはじめとするスタッフには、誰が入っても崩れない集団を2年がかりで作り上げてきた自負がある。そして、それは出場権を勝ち取った選手たち自身にも──。

「監督が誰を選ぶか困るほど素晴らしい選手がたくさん出てくれば、オリンピック代表チームは今よりももっと良くなる」

 今大会のMVPに輝いたキャプテン藤田も、頼もしい言葉を残している。ここからは各自が貪欲にさらなる成長を求めながら、新たな戦いに向けて準備を進めていくだけだ。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1987年、福岡県生まれ。幼稚園から中学までサッカー部に所属。その後、高校サッカーの名門東福岡高校へ進学するも、高校時代は書道部に在籍する。大学時代はADとしてラジオ局のアルバイトに勤しむ。卒業後はサッカー専門誌『エルゴラッソ』のジェフ千葉担当や『サッカーダイジェスト』の編集部に籍を置き、2019年6月からフリーランスに。現在は育成年代や世代別代表を中心に取材を続けている。

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