混戦B1を象徴する川崎との激闘を制してCSに前進 渋谷・田中大貴が語る苦しいシーズンと「充実」

大島和人

田中大貴が終了間際にビッグショットを決め、渋谷は28日の川崎戦を制した 【(C)B.LEAGUE】

 もつれている、こじれている――。どんな表現が適当なのか分からないが、B1のチャンピオンシップ(CS)出場を巡る争いが混沌(こんとん)としている。

 B1の2023−24シーズンは、レギュラーシーズン60試合のうち58試合を終えた大詰めだ。全24チームのうち、CSに出場できるのは8チーム。CS進出はまず東地区、中地区、西地区の上位2チームが優先で、残る16チームから勝率の高い2チームが「ワイルドカード」として勝ち上がる。

 宇都宮ブレックス(東地区1位)とアルバルク東京(東地区2位)、三遠ネオフェニックス(中地区1位)はCS進出だけでなく順位、クォーターファイナル(1回戦)のホーム開催を確定させている。

 西地区の琉球ゴールデンキングスと名古屋ダイヤモンドドルフィンズは、まだ地区内の順位こそ決まっていないが、CS進出自体は決まっている。

 問題は「中地区2位」と「ワイルドカード2枠」を巡る争いだ。中地区はシーホース三河(34勝24敗)とサンロッカーズ渋谷(33勝25敗)、川崎ブレイブサンダース(32勝26敗)に2位の可能性が残っている。

 ここにワイルドカード争いも絡んでくるから、「計算」「整理」は極めて面倒だ。ワイルドカード争いで優勢なのは広島ドラゴンフライズ(35勝23敗)と千葉ジェッツ(34勝24敗)で、数字上は島根スサノオマジック(32勝26敗)まで可能性がある。まだ決まっていないCS出場3枠を、6チームで争っている状況だ。

 なお複数のチームが同じ勝ち星で並んだ場合は、「直接対決の結果」で順位は決まる。

残り3.5秒、田中大貴が勝ち越しシュート

田中は左コーナー付近から切れ込んでレイアップを沈めた 【(C)B.LEAGUE】

 激化するCS出場権争いを象徴する戦いが、4月27日(土)と28日(日)のとどろきアリーナであった。第1戦は川崎が69-68、第2戦はSR渋谷が79-77と試合をモノにしている。

 28日の第2戦はSR渋谷が残り2分31秒にアンソニー・クレモンズのジャンプショットで77-65に点差を広げ、そこで勝負は決したかに思われた。しかし川崎はニック・ファジーカスや藤井祐眞、トーマス・ウィンブッシュが立て続けに3ポイントシュートを決め、残り25秒で77−77の同点に追いつく。

 SR渋谷は再開後のオフェンスで、ポイントガードのクレモンズがボールを運ぶが、相手にタップされてボールが左のサイドラインを割った。田中大貴がスローインを入れてプレーは再開され、ウィンブッシュは再び外のレーンからボールを運ぶ。

 残り16.5秒からのオフェンスで、あまり早くシュートを放つと川崎に時間を残してしまう状況だった。クレモンズはボールをキープしながらタイミングを図るが、川崎はウィンブッシュとファジーカスがダブルチームを仕掛けた。しかしクレモンズは冷静に左のコーナーにパスを送る。

 左コーナーに張っていた田中はこう振り返る。

「サップ(クレモンズ)がピック&ロールを使う形でしたが、相手はプレッシャーかけて、サイドに追いやる感じでした。自分も篠山選手にスティールされた場面がありましたけど、川崎さんはあそこに寄ります。もし自分のところにパスが来たら、縦に割れるなというのは構えながら考えていました。案の定いいパスだったので、思い切り縦に割っていきました。最後はもうリングしか見ずに…という感じでした」

 田中は力強いドライブからレイアップを流し込んだ。そしてSR渋谷は残る3.5秒を耐え、79-77で大一番を制した。アウェイの雰囲気、ベンドラメ礼生とクレモンズのファウルトラブル、負傷による主力不在と「厳しい条件」が揃った難戦をつかんでいる。

 SR渋谷は信州ブレイブウォリアーズ戦を2つ残している。信州はここまで全体23位と低迷しているが、残留争いの渦中にいて、士気が高い彼らは難敵に違いない。

 ただしSR渋谷は三河との「直接対決」で3勝1敗と上回っていて、しかも三河には中地区首位・三遠とのダービーが待っている。仮にこのままSR渋谷が中地区2位争い、ワイルドカード争いに踏みとどまれば、田中の決勝シュートはより大きな意味を持つことになる。

「2勝7敗」のスタートだったSR渋谷

SR渋谷はホーキンソン(写真)、田中らの新戦力を迎えつつ序盤戦で苦しんだ 【(C)B.LEAGUE】

 今季のSR渋谷はA東京の黄金時代を築いたルカ・パヴィチェヴィッチが新ヘッドコーチとなり、ジョシュ・ホーキンソン、田中大貴といった有力選手も迎え入れていた。開幕前の期待値は間違いなく高かったが、シーズンに入ると苦しんだ。

 大きな理由はインサイドの軸だったジェームズ・マイケル・マカドゥが開幕前に負傷したこと。43歳で一度は引退していたジェフ・ギブスの緊急補強でしのいだが、他にもホーキンソン、田中、ライアン・ケリーら主力にコンディションの問題がつきまとった。

 SR渋谷は10月が2勝7敗、11月も2勝3敗と負け越し、CS出場に向けては最悪に近いシーズンのスタートを切っていた。ホーキンソンはこう振り返る。

「マック(マカドゥ)のケガがすごく響きました。彼がケガで抜けてしまって、解決策を見出すのに10敗以上かかってしまった。ルカコーチのスタイルも簡単ではないし、プレイヤーが入れ替わっていました。『もうチームとして成長していくしかない。1人1人がスタイルにしっかり適応していくしかない』と努力を続けることによって、今ここまで来たと思っています。もしプレーオフに行ったとしても、このチームはまだ成長できる部分があるはずです」

 負傷、コンディションの問題は終盤戦に入ってもSR渋谷を苦しめている。ケリーは川崎戦を2試合とも欠場している。アキ・チェンバース、小島元基も川崎戦にエントリーはされたが28日の試合でプレーしていない。

 田中は川崎との2試合を終えて、こう口にする。

「自分たちは人数が少ない中で戦わなければいけない状況です。ライアン(・ケリー)も今節出られないということで、もっと少ない人数でやらないといけなかった。本当に難しい2日間でしたが、(28日は)昨日の負けを引きずらずに強い戦いができた。どちらに転ぶか分からない試合でしたけど、何としてもCSに行きたいという思いが出た試合でした」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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