カーリングで今季無双したヒロインが世界へ 「緊張するタイプ」から脱皮を遂げたメンタル維持の秘訣とは?

竹田聡一郎

「試合はご褒美の場所」「楽しまないともったいない」

「苦しかった」という、どうぎんクラシックだが、ベテランの西室淳子(左)、妹の上野結生(右)らスイーパー陣が奮闘。2勝を挙げている。 【(C)どうぎんクラシック】

 苦しい時間は短くはなかったが、「チームがいつも支えてくれていた」と上野は感謝の言葉をつなぐ。

「自分が苦手なパス(を投げる前)でも『大丈夫だから』っていう声かけがいつもあって、強力なスイーパーがいるので(狙ったとポイントの)近いところに投げて『あとお願い!』っていう気持ちです」

 スイーパーを頼り、チームを信じることで精神的に余裕が生まれ、それが勝負強さを際立たせた。また、それを裏打ちするのは練習量だ。軽井沢在住の選手が「今季は本当によく投げている姿を見かけた。あの練習量を見ると(4人制日本選手権とMDの)2冠もうなずけます」と上野の練習に取り組む姿勢に感心していたが、楽しむメンタルを支えるのは日々の練習ありきだと本人も認める。

「日頃から練習やトレーニングを積んでなければ、ただへらへらやって負けるチーム(になってしまう)。楽しんでやるために覚悟を持っています」

 そしてその練習量と覚悟が実ったのが、今季の日本選手権だった。上野は大舞台に臨む覚悟をこう言語化した。

「試合はその答えが出せる場所で、ある意味ご褒美の場所。大会の舞台を楽しまないともったいないと思っています」

 そしてその舞台は今季、世界にスケールアップしたが、上野率いるSC軽井沢クラブは3月にカナダ・シドニーで行われた女子の世界選手権で3勝9敗の11敗に終わった。世界の壁はやはり高く、笑顔の彼女にしては珍しく、険しい表情を浮かべたり、天を仰ぐ仕草を見せたりもした。「毎試合、苦しい展開があった」と語った初の世界選手権のご褒美は少し苦かっただろうか。

 それでも上野の挑戦は続く。カナダから帰国した後は、北海道に飛び、北見と常呂で松村千秋(中部電力)と谷田康真(北海道クボタ)のペア、ロコ・ドラーゴの面々を相手に4日間で8試合の練習試合をこなし、初のMD挑戦に備えた。

「世界にはアイスを読んで徐々に調子を上げていくチームが(強いチームに)多かった」と上野は言う。鍵となるアイスリーディングを遂行しながら、勝ち星を重ねる難しいタスクが課されているが「できないことも大会中にできるようになりたい。まずは自分のできることを集中してやりたい」と抱負を語っていた。

 初戦の優勝候補ノルウェーとの接戦を制したが、続くエストニア戦を落とし1勝1敗のタイに。デンマークやイタリア、スイスなど強豪との対戦を残しているが、なんとかグループ3位以内でクオリファイ(プレーオフ進出)を狙いたい。

「カーリングを楽しんで、見ている方にも笑顔になるようなプレーを」とは上野が言い続けていることだ。笑顔のままプレーして、MDの世界選手権は甘い“ご褒美”にしたいところだ。日本中が応援している。

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著者プロフィール

1979年神奈川県出身。2004年にフリーランスのライターとなりサッカーを中心にスポーツ全般の取材と執筆を重ね、著書には『BBB ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』『日々是蹴球』(講談社)がある。カーリングは2010年バンクーバー五輪に挑む「チーム青森」をきっかけに、歴代の日本代表チームを追い、取材歴も10年を超えた。

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