開始1分余りで「動きを読まれている」と体感した佐野友樹が感じた井上尚弥の威圧感
2013年4月、井上尚弥のプロ3戦目の相手を務めた佐野友樹はそう叫んだ。
それからわずか1年半、世界王座を計27度防衛し続けてきたアルゼンチンの英雄オマール・ナルバエスは、プロアマ通じて150戦目で初めてダウンを喫し2ラウンドで敗れた。「井上と私の間に大きな差を感じたんだよ……」。
2016年、井上戦を決意した元世界王者・河野公平の妻は「井上君だけはやめて!」と夫に懇願した。
WBSS決勝でフルラウンドの死闘の末に敗れたドネアは「次は勝てる」と言って臨んだ3年後の再戦で、2ラウンドKOされて散った。
バンタム級とスーパーバンタム級で2階級4団体統一を果たし、2024年5月6日に東京ドームでルイス・ネリ戦を控えた「モンスター」の歩みを、拳を交えたボクサーたちが自らの人生を振り返りながら語る。第34回ミズノスポーツライター賞最優秀賞に輝いたスポーツノンフィクション『怪物に出会った日 井上尚弥と闘うということ』から2013年4月16日に開催された井上尚弥vs.佐野友樹の戦いを一部抜粋して公開します。
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【写真:アフロスポーツ】
(松田ジム)
2013年4月16日 東京・後楽園ホール 10ラウンド 1分9秒 TKO
井上の戦績 3戦全勝3KO
開始のゴングが鳴る。
ファーストコンタクトは、井上が上体をかがめ、左のボディージャブから入ってきた。佐野も左を突く。互いにジャブ、ワンツー、ボディーで探り合う。井上のスピードに驚嘆した。
試合はすぐに動き出す。開始1分20秒。佐野が上体をわずかに下げた瞬間だった。ダイナミックで天高く突き上げる左アッパーが飛んできた。この試合で井上が初めて放ったアッパー。網膜裂孔の手術をした右目に直撃し、右まぶたをカットした。この一発で佐野に異変が起きた。
「試合であのアッパーが一番効いた。パンチをもらった右目だけでなく、あまりの衝撃で左目まで見えなくなったんです。『バン!』と打たれて両目とも見えなくなったんです」
パンチを浴びた反対の目まで見えなくなる。そんなことが起こりうるのか。一発のアッパーで視神経までやられたというのだろうか。もちろん佐野には初めての経験だった。
「右目は見えないし、まぶたが切れたのも分かった。左目は喩えるなら目に指が入ったときのように曇ってしまった。視界がぼやけているような感覚です」
視力が落ちていた右目は視界を失い、左目には曇りガラスがかかっているかのようだった。
その瞬間、思ったことがあるという。
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