ジェフ・フレッチャー著『SHOーTIME2.0 大谷翔平 世界一への挑戦』

WBC準決勝では打者として反撃の口火を切った大谷翔平 チームメイトが先発したメキシコを逆転で下す 

ジェフ・フレッチャー
 エンゼルスの番記者のジェフ・フレッチャーが綴る、現在進行形の生きる伝説の舞台裏!
 二刀流・大谷翔平のMLBの2022年シーズンから始まり、2023年シーズンとWBC優勝、そして新天地移籍までの舞台裏を追ったノンフィクション。
 アーロン・ジャッジ、マイク・トラウトといった、強力なライバル&盟友らの背景や生い立ちなど、アメリカのベテラン記者ならではの視点で描かれた「大谷本」の決定版!!

 ジェフ・フレッチャー著『SHOーTIME2.0 大谷翔平 世界一への挑戦』から、一部抜粋して公開します。

頂点への道のり

【USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 WBCの優勝候補が4チームにまで絞られ、われわれの誰もが「あの対決」を目撃できるのかとワクワクし始めていた。

 そう、大谷翔平VSマイク・トラウトだ。

 日本代表は、準決勝でメキシコ代表と対戦し、エンゼルスのチームメイトであるパトリック・サンドバルが先発登板した。

 一方で、アメリカは準決勝でキューバと対決した。カレンダーを見る限り、大谷が準決勝および決勝で先発登板することはなさそうだったが、救援投手としてなら投げられるのではないかという期待が高まっていた。とはいえ、まずは日本がメキシコに勝たなければならない。

 たしかに、日本は最初の5試合を難なく勝ち進んできたが、メキシコ代表は強力な対戦相手で、メンバーにはメジャーリーガーが勢ぞろいしていた。

 サンドバルは父親がメキシコ出身で、エンゼルスのなかでも、とくに大谷と親しい1人だ。2人のロッカーはエンゼルスタジアムで隣同士でもある。

 サンドバルは、2021年と2022年にメジャーリーグで信頼できる先発投手としての地位を確立した。この2年間の防御率も3.17だった。多くの野球ファンが彼の姿を初めて目に焼きつけたのは、第1ラウンドのアメリカ戦で先発登板したときだった。

 3回を1失点で乗り切り、メキシコは11-5でアメリカを破った。次に先発登板したのがこの準決勝の日本戦で、サンドバルは4回1/3を無失点に抑え、6奪三振を記録した。うち一つは、大谷から奪ったものだった。

 サンドバルはスライダーで大谷を仕留め、マウンドを降りるときには拳を突き上げた。もう一度、サンドバルが大谷と対決した際にはセンターライナーで打ち取っている。個人の対決ではサンドバルに軍配があがったが、最終的に勝利を祝ったのは大谷のほうだった。

 日本代表は9回裏の攻撃に入る時点で1点差を追う展開であり、先頭打者の大谷がジョバンニ・ガジェゴスから二塁打を放って反撃ののろしを上げた。

 そこで、大谷は日本のダグアウトに向かって両腕を振り上げ、チームメイトの奮起を促した。

「負けたら終わりの試合、プレーオフのような試合を戦うのは、僕にとっては久しぶりでしたからね。負けてはいけなかったんです。だから、ダグアウトの仲間たちを煽りました」
 そのあと吉田正尚(まさたか)が四球で出塁し、続く村上宗隆がセンターの頭を越す決勝打を放った。

 大谷と、吉田の代走である周東佑京の2人がホームに帰還し、日本代表が決勝進出を決めてアメリカと対決する権利を得たことで、喜びを爆発させた。

「もちろん、決勝に進めたことに大きな達成感はありますが、1位と2位では決定的に違うものなんです」

 試合後のお祝い気分のなかで、大谷はあらためて気を引き締めていた。

「何が何でも優勝するために、できることはなんでもやります」

 つまり、それは決勝で、投打の両方で出場する可能性があるということだ。アリゾナのエンゼルス関係者一同は、この意味を深くかみしめた。

 エンゼルス加入後の大谷は、非常に厳密なスケジュール管理のもと、投手として登板していた。必ず最低中5日、ときには6日や7日空けることもあった。

 しかし今回、大谷は前回の登板、つまり準々決勝のイタリア戦からまだ4日しか経っておらず、しかも、その間に地球を半周する飛行機移動が含まれていた。

 普段よりも短い間隔で投げることは、大きな問題ではなかった。大谷のことだから、球数制限をして救援投手として出てくる可能性が高いからだ。

 ただ、ここで一つ疑問となるのが、大谷本人が救援登板に向けてどのように準備を進めるのかだった。すでに打者として試合出場しているのに、普段の投球前練習をすることができるのか。

 人生のなかでもっとも緊迫した場面で、いつもと同じルーティーンができないまま登板したら、今後のケガの引き金になるのではないか。

 そして、この登板のあと、エンゼルスの開幕投手として調整を進めていくうえで、次にマウンドに上がれるのはいつになるのか。

 エンゼルスのネビン監督とペリー・ミナシアンGMは、決勝戦の日に、アリゾナで前述のような報道陣からの難題に直面することになった。

 しかし、2人ともこのシナリオに対する準備は進めており、大谷が希望するなら決勝戦で救援登板してもかまわないと口をそろえた。ネビン監督はこう語った。

「ショウヘイの準備に関しては、全面的に信頼しているから。今日は野球界全体にとって大きなインパクトのある夜だからね。私も試合を見るのが待ちきれないよ」

 ミナシアンもまた、大谷がスポットライトを浴びるべき日に自分が干渉すべきではない、ファンが望んでいることを台なしにしてはいけないという姿勢を貫いた。

「私はベースボールというゲームを何より愛しているんだ」

 ミナシアンはこう切り出した。

「全世界のどんなゲームよりも、ベースボールというゲームを愛しているんだ。だから、もっとこのゲームが世界全体で広まっていってほしい。その意味で、この大会が果たしている役目は本当に大きい。試合も素晴らしいものが続いている。選手たちも躍動している。この熱気、ファン、情熱、注目。少なくとも私にとっては、もし彼が投げたい、マウンドに上がりたいというのであれば、それは全世界に向けて、このゲームの素晴らしさを発信する絶好の機会だと思っているよ」

 そして、2番目に大きな要素がそこにあった。たんに大谷が祖国に優勝をもたらすために大舞台で登板するというだけではない。彼が登板すれば、トラウトと対戦する可能性も出てくるのだ。ネビン監督はこう話した。

「世界最高の2人の選手が頂上対決する、こんな場面を見たくない人がいるかい? これから1年間、ずっとこの話題で持ちきりになると思うよ」

書籍紹介

【写真提供:徳間書店】

エンゼルスの番記者のジェフ・フレッチャーが綴る、現在進行形の生きる伝説の舞台裏!

二刀流・大谷翔平のMLBの2022年シーズンから始まり、2023年シーズンとWBC優勝、そして新天地移籍までの舞台裏を追ったノンフィクション。

アーロン・ジャッジ、マイク・トラウトといった、強力なライバル&盟友らの背景や生い立ちなど、アメリカのベテラン記者ならではの視点で描かれた「大谷本」の決定版!!
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