週刊MLBレポート2024(毎週金曜日更新)

見応えがあった大谷翔平と今永昇太の初対決 今永を完勝に導いた、注目すべき“球質”とは?

丹羽政善

注目すべき今永の4シームの回転効率

大谷を空振り三振に仕留めた今永の4シーム 【Photo by Michael Reaves/Getty Images】

 ところで、今永の4シームは回転数が高いから、ホップしているように映ると指摘する人もいるが、大きな誤解である。

 たしかに、今永の4シームの平均回転数は2試合を終えて2404回転(分)。今年のリーグ平均は2282回転。100回転以上も上回っているが、注目すべきはむしろ回転効率である。

 回転がいかに無駄なくその球に伝わっているかを示す数値だが、進行方向に対して回転軸が直角で、きれいなバックスピンがかかっているとしたら100%。進行方向と回転軸が一致している場合は0%。0%の場合はジャイロボールということになるので、回転効率は“ジャイロ成分”という言い方もするが、いくら回転数が高くても、回転効率が低ければ、それが縦の変化量に寄与する割合は低くなるのだ。

 つまり、変化量に触れる場合、回転数は回転効率とセットで見なければ、あまり意味はない。さらに言えば、縫い目も関係してくる。今永の縦の変化量の平均は47.5cm。MLB平均は41cm前後だが、その6.5cmの差は、決して回転数だけで語れるものではない。

 で、今永の回転効率だが、4月1日のメジャー初登板時は97.9%だった。その数字を伝えると今永は、「100%を目指してるんで」と不満顔。MLB平均は90%を下回るので、97.9%も滅多にお目にかかれない数字ではあるのだが、7日の試合はどうだったかといえば、翌日に公表されたデータから計算すると99%だった。大谷のバットが下をくぐるわけである。

 2打席目は、いずれも高めの4シームで攻め、2球目の内角高めを打ち上げた大谷の打球は三邪飛だった。大谷としては捉えたと思ったかもしれないが、イメージよりも軌道は上を通過したのではないか。

「とにかく質のいい直球をどれだけ投げ込めるか」と今永。

「そこが、最後に打者を上回るかどうかの違い。自分がいま出せる最善策を選択して、後はどうなるか。きょうは質のいい直球を投げられた」

 初対決は完勝だった。

大谷と今永の初対決は、後者に軍配が上がった 【Photo by Michael Reaves/Getty Images】

 なお、回転数が高ければ、あるいは回転効率が高ければいい球かと言えば、それも誤解がある。回転数が1800回転で、回転効率が60%なら、そのボールはおそらく平均的な軌道に比べて、沈む。結果、ゴロが多くなる。アストロズなどで活躍したダラス・カイケルなどは、そうした球質だった。

 要は、投球データが平均値から離れていれば離れているほど、打者には見慣れないやっかいな軌道となり、効果的。今永の4シームは空振りも取れるが、フライが多くなり、本塁打もリスクも高まる。そこは紙一重だ。

 いずれにしても、今永も覚悟して大谷に対して腕を打った。大谷もフルスイングで応えた。だからあの1球は、見るものの心を捉えた。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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