吉井理人『聴く監督』

ロッテを常勝軍団に変えたい吉井理人 野球界の常識から逸脱していても積極的に取り組みたい改革

吉井理人

【写真は共同】

 WBC2023では投手コーチとして世界一。ロッテでは指揮官としてチームをAクラスへ。ダルビッシュ有、大谷翔平、佐々木朗希らと共闘した球界きっての名伯楽が実践する「傾聴法」とは?

 対話重視、教えないコーチング等の独自の理論に磨きをかけチームと向き合うプロ野球の新たな監督像。異端の理論派が実践する育成術。本心を引き出す武器は「平常心」

 吉井理人著『聴く監督』から、一部抜粋して公開します。今回は2023年のシーズンを終え、すぐに着手した選手起用の大幅な見直しとその狙いについて、さらにそれらの背景にある吉井監督の思いについてです。

シーズン終了後に行った振り返り

 CSを含めすべての試合を終えた後、アナリストにシーズン総括のデータをまとめてもらい、最後の振り返りをした。

 改めて確認できたのは、先発投手、リリーフ投手、走塁ではプラス評価が出ているものの、打撃面、守備面でマイナス評価になっていた。チーム戦力にそう大きな変化はないので、2024年も基本は投手力と守備力で逃げ切るスタイルを継承していくことになる。

 そのためにも、マイナス評価になった守備力を見直していく必要がある。それを踏まえて2024年は、大幅に守備位置の入れ替えに取り組んでいく。

選手起用法の大胆な見直し

 MLB流コーチング法の導入で、コーチに変革を求めるだけでなく、選手起用法もいろいろ変更していくつもりだ。

 まず前提として、指導体制が変わることで練習方法も変わっていくことになる(後述)。まず選手たちにはそれに適応してもらう必要がある。また野手陣に関しては、大幅な守備位置入れ替えを断行し、投手陣も先発とリリーフの入れ替えを検討している。

 また、2023年にたびたび採用したブルペンデーも、改めてその効果を見極めた上で今後も継続していくことになる。

 さらに、ブルペンデーとは違った起用法で、先発投手を育成することを加味し、3〜4イニングを分担させながら先発投手2人を同じ試合に投げさせる起用法(MLBで浸透している「piggyback」と呼ばれる起用法)も検討したいと考えている。

 2023年を振り返ってみても、シーズン開幕時の先発ローテーションを最後まで維持するのは難しい。シーズンを通して先発ローテーションを効果的に機能させるには、明確な起用プランが必要になってくる。

 2023年のロッテもそうだったが、シーズン終盤に失速してしまうチームに共通しているのは、先発投手不足に陥ってしまうことだと思う。2023年のオリックスの強さを見ても分かるように、シーズン終盤になっても離脱者の穴を埋める先発投手が次々に出現している。

 あくまで理想ではあるが、ローテーションの柱になる先発投手(少なくとも3人)以外は区間分けをする。2軍と連携しながらしっかり調整できる環境を整えた上で、各投手が任された区間で自分の投球ができるようになれば、シーズン終盤で先発投手不足に陥るリスクはかなり軽減できるだろう。

 守備位置はかなり大胆に入れ替えていく。シーズン終了後にフロントに報告し了解を得た上で、すぐに選手たちにも伝えたが、内野陣は総シャッフルする。

 まずショートだった藤岡裕大をセカンドにコンバートし、セカンドだった中村奨吾をサードに移動。サードが定位置だった安田尚憲はファーストをメインにしながらサードでも併用し、藤岡に代わるショートは友杉篤輝と茶谷健太を併用していく。そしてファーストでも起用していた山口航輝を外野に専念させ、レフトとライトを任せる予定だ。

 ここに、ファーストもしくはサードで起用することになる2023年ドラフト1位、上田希由翔(きゅうと)が加わることになるので、奨吾、安田、上田の3人で激しいポジション争いが繰り広げられることを期待している。

 これだけ大胆な守備位置の入れ替えは、シーズン中から密かに構想を練り上げていたものだ。チームの将来的なビジョンを考え、さらに選手たちに競争意識を持たせたかった。中でも奨吾と安田に火をつけたかったという思いが、この守備位置変更には込められている。

 新しい指導体制にすることも、各自に競争意識を植え付けることも、その根底にあるのは、選手たちにいろいろなことに気づいてもらい、主体性を持ちながら取り組めるよう彼らを変えていきたいからだ。それが実現できれば、若手選手たちが次々に台頭してくれると思っている。

常勝チームに必要な雰囲気、文化の構築

 チームの土台を壊すという意味ではかなり大きなチャレンジになると思うが、チーム内の雰囲気、文化を一新できればいいと考えている。

 ロッテは「下剋上」と言われた2010年の日本シリーズ制覇を最後に、しばらく日本一から遠ざかっている。それ以降も2023年を含め6度CS進出を果たしているものの、終盤まで熾烈な優勝争いができたのは2021年のみだ。これまでロッテに在籍して感じてきたことだが、毎年優勝争いを演じるような常勝チーム内で醸し出される独特な雰囲気が不足しているのだ。

 オリックスに優勝を決められた後で、演技とはいえ選手の前でブチ切れる姿を見せたのも、選手たちが見せた態度や雰囲気に物足りなさを感じたからだ。

 今や球界屈指の常勝チームであるソフトバンクも、リーグ3連覇を達成したオリックスも、それ以前は長い低迷期を経験していることを考えれば、ロッテもフロントと現場の指導者たちが同じ目標を掲げ、様々な課題に取り組んでいければ、進むべき方向に向かっていけると信じているし、僕がその転換期をつくれればという思いから、フロントと協議した上で大胆な変革に取り組もうとしているのだ。

 その一環として、僕からチームにお願いして、2024年から2軍専用のユニフォームを作成してもらった。

 1軍と2軍のユニフォームを変えることで、選手たちにピンストライプのユニフォームを着る重みを感じてほしかったためだ。2軍にいる選手たちには、1軍を目指すモチベーションに繫げてほしいと願っている。

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