好敵手も尊敬する、坂本花織のすべてを楽しむ強さ “勝ち続ける難しさ”乗り越えた世界選手権3連覇

沢田聡子

ショート4位から逆転優勝、底力をみせた坂本のフリー 【Photo by Minas Panagiotakis/Getty Image】

坂本は「素晴らしいロールモデル」

 世界選手権(カナダ・モントリオール)女子シングルのショート上位3名が出席する記者会見に、大会2連覇中の坂本花織の姿はなかった。4位と出遅れた坂本だが、その存在感の大きさは、首位発進したルナ・ヘンドリックス(ベルギー)に対し、坂本についての質問があったことが示していた。

 坂本の好敵手であるヘンドリックスは、「まず、私はカオリをとても尊敬しています」と話し始めた。

「私は彼女と一緒にたくさんのショーを行いましたが、彼女が夏の間ずっとトレーニングをし、すべてのショーに取り組む姿にとても感銘を受けました。彼女は、私達全員にとって素晴らしいロールモデルです。

 彼女は2度世界チャンピオンになったので、すべてのプレッシャーに対処しなければなりません。そう、彼女がすべてを本当に楽しんでいることが分かりましたし、それは私のやりたいことでもあります。なぜなら、私達は皆このスポーツをとても愛していると思いますし、自分がやっていることを楽しむことが成功への主な鍵であるとも考えるからです」

 23歳の坂本と24歳のヘンドリックスは同年代で、スピード感のあるスケーティングと大きなジャンプを強みとするダイナミックな持ち味も似通っている。ヘンドリックスは欧州選手権(1月)で優勝したが、それ以降は怪我の影響のためフリーを充分に練習できなかったという。そのためかフリーではミスが続き総合4位になったヘンドリックスだが、これからも坂本と共に、女子シングルスケーターの希望となる20代として活躍してくれるだろう。

 最終滑走者としてショートを滑り終えた坂本は、不本意な演技後にもかかわらず笑顔でヘンドリックスとハグを交わしてから、テレビ局の取材に応じた。

「フリーはこの悔しさをバネに、しっかりシーズン最後いい締めくくりができるように、頑張りたいなと思っています」

 ショートから1日おいて迎えたフリー、坂本は最終グループ3番目の滑走者として登場。引き締まった表情でスタート位置につき、ミステリアスな女性を表現する『Wild is the Wind/Feeling Good』を滑り始める。冒頭で少しつまずき怖さを感じたという坂本だが、いつものように飛距離のあるダブルアクセルをしっかり決めた。続いて跳んだ3回転ルッツはエッジエラーと判定されたが、出来栄え点がマイナスになったのはこの要素だけで、他はすべて加点がついた。

 後半で最初に跳ぶジャンプ、3回転フリップ+3回転トウループは、このプログラムの要となる大技だ。坂本がスピードに乗って成功させると、大歓声が起こった。フリー後の記者会見で、坂本は冷静さを保とうと努めたことを明かしている。

「3+3のコンビネーションが終わってから、すごく会場が沸いて。でもその沸いているのに自分の気持ちが乗ってしまうと、気持ちがたかぶり過ぎて、空回りして失敗につながってしまうので。とにかく『自分の気持ちを抑えよう』という一心で最後までやっていたので、多分途中は顔がすごく険しかったと思う。最後スピンまでしっかりやって、『よっしゃ』という気持ちになりました」

 記者会見での坂本は、充実感を漂わせていた。

「一昨日のショートでまず4位で、本当に焦りとか緊張とかいろいろあったのですが…それでも今日はいい緊張感の中で一つひとつ集中してできたので、それが結果につながって、すごく嬉しいです」

1/2ページ

著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント