なでしこジャパンを率いる池田太とは何者か? “熱男”と呼ばれる指揮官の知られざるストーリー

早草紀子

選手たちに「寄り添う」のではなく……

3バックが機能し、昨年の女子W杯では8強入り。現在はCB熊谷紗希(右)を中盤に上げるシステムに取り組むなど、指揮官はオプションの導入に積極的だ 【Photo by Catherine Ivill/Getty Images】

 しかし、すべてが順調だったわけではない。海外組も揃った22年11月の欧州遠征では、イングランド、スペインに連敗。3バックがなんとか形になり始めたのは、W杯開幕直前の合宿というギリギリのタイミングだった。

 迎えたW杯本番では強豪スペインを4-0で下すなど、11得点・無失点という圧倒的な成績でグループステージを1位突破。準々決勝でスウェーデンに敗れ(1-2)、惜しくもベスト8敗退となったが、それでも世界を相手に機能した3バックへの自信は、確実に選手たちの中に残った。
 
 W杯以降、池田はこれまで最終ラインの要としていたセンターバック、熊谷紗希のポジションを1つ上げる新たなオプション(4バック)を獲得しようと取り組んでいる。指揮官がトライするこうしたオプションを実現する上で大前提となるのが、「走力」だ。世界の強豪との対戦では、どうしてもフィジカル面で見劣りする日本にとって、常に数的優位の状況を生み出すこと、相手の逆を突いて瞬間的に裏を取るプレーは必須。プレッシングで敵の攻撃の芽を摘み、そこから厚みのある攻撃を繰り出すという日本ならではの連動は、走力なくして成り立たないのだ。

 とりわけ、なでしこジャパンの両サイドには、単純なスピードだけでなく、効果的なアップダウンが求められる。もちろん中盤の選手にも足を止めない豊富な運動量が、前線の選手には激しいプレッシングでボールを奪い、そのままフィニッシュまで持ち込める力が要求されるが、こうした走力に支えられたハイインテンシティのサッカーこそが、現在のなでしこジャパンの肝となっている。

 当然ながら、キツい90分だ。それでも選手たちの表情に充実感が漲っているのは、試合中、ベンチの前で誰よりも声を張り上げている池田の巧みなオーガナイズがあるからこそだろう。

 選手たちに対して常に誠実で、もちろん自分を必要以上に大きく見せることはない。中堅選手と同じ世代の2人の娘を持つ父であり、女性アスリートに対して「壁」を感じることがない点もプラスに働いているが、ただそれでいて「寄り添う」のとはどこか違う。選手たちに「一緒に戦いたい」と熱く思わせることができる。それが池田太という指揮官なのだ。

ウズベキスタン戦のハーフタイムの言葉

選手たちに「一緒に戦いたい」と思わせる池田監督(左は長野風花)。抜群の一体感で、自力では12年ロンドン五輪以来となる五輪出場権獲得を目指す 【Photo by Jan Kruger - FIFA/FIFA via Getty Images】

 そこに嘘も打算もないからこそ、選手と揺るぎない信頼関係を築けるのだと確信した試合がある。

 パリ五輪のアジア2次予選、グループステージ第2戦のウズベキスタン戦で、前半に2点を挙げた日本がその後、パス回しに終始して積極的にゴールを奪いに行かず、物議を醸したことは記憶に新しい。心証は悪かったかもしれないが、これは最終予選を優位に進めるための戦略であり(強豪オーストラリアとの対戦を回避するため)、咎められることではない。それでも、ピッチ上にいた選手たちに苦い想いを残したことは事実だろう。

 このウズベキスタン戦のハーフタイム、ロッカールームで池田は選手たちにこう伝えたという。

「こんな戦い方をやらせてゴメン」

 誠実な人柄が滲み出るようなストレートな言葉だが、試合後、FW田中美南はこんな風に話している。

「(選手よりも)太さんが一番苦しそうだった。自分たちが望んでいる戦い方ではなかったけど、結果として自分たちのため(の選択)だし、太さんのあの姿を見たら……。この戦い方に何か思うところはありません。むしろみんなが一体になって、やり切れたと思っています」

 所属するINAC神戸レオネッサではスペイン人のジョルディ・フェロン監督のもとでプレーするなど、これまで数多くの指導者と接してきた田中に、あらためて監督・池田太の魅力について聞いてみた。

「太さんは口数が多いわけではないんですが、ハーフタイムとか練習中に伝えられるひと言に共感できるし、(その言葉で)周りを巻き込んでいくんです。自分もまんまと熱くさせられています(笑)」

 “熱男”と呼ばれる指揮官は、決して独りよがりに熱くなるのではなく、その熱を選手たちに伝える術にも長けている。また同時に、記者会見など公式の場で見せる生真面目さからは想像しづらいが、実は茶目っ気たっぷりで、ユーモアに富んだジョークも少なくない。おそらくそんな一面も、選手たちを惹きつける要因なのだろう。

 パリ五輪のアジア2次予選で、グループステージを1位通過したなでしこジャパンは、2月24、28日に控えた北朝鮮との最終予選を制すれば、パリ行きの切符が手に入る。この原稿を書いている2月19日時点でも、いまだにアウェイ扱いとなる第1戦の開催地が決まらないという前代未聞の状況下だが(その後、中立地サウジアラビアのジッダに決定)、それでも強い信頼関係で結ばれた池田監督と選手たちの間に、動揺はない。

「開催地は決まっていなくても、戦う相手は同じ」

 歓喜の瞬間まであと2戦。今、指揮官と選手たちの想いはしっかりと重なっている。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりJリーグ撮影を開始。1996年から日本女子サッカーリーグのオフィシャルカメラマンとなる。以降、サッカー専門誌で培った経験を武器に、サッカー撮影にどっぷり浸かる。現在はJリーグ・大宮アルディージャのオフィシャルフォトブラファーであり、日本サッカー協会オフィシャルウェブサイトでは女子サッカー連載コラムを担当している

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