甲府の36歳コンビが国立で示した意地 J2クラブの「ACL 16強」が持つ本当の意味
ベテランが見せた意地と姿勢
三平は88分に同点弾を決めた 【Photo by Masashi Hara/Getty Images】
ピッチ内の選手も「ファイティングポーズ」を取り続けていた。95分のコーナーキックでは、GKの河田晃兵までエリア内に攻め上がってきた。彼はその意図をこう説明する。
「シノさん(篠田監督)を見たら『行け』という感じでした。負けていたし、そのまま負けるのは悔しい。カウンターは怖かったですけど、やり切っちゃえばいい。もうラストワンプレーでしたし、何とか点を取りたかったです。現実的にあそこから4点取るのは厳しいかもしれません。でもせめて一矢報いたかったし、どの試合も負けたくない。みんなも、その気持ちだったと思います」
1万5千人を超すサポーターが、国立に駆けつけていた。1クラブチームではあるが、甲府は日本を、そしてJ2を代表してこのトーナメントに挑んでいた。「最後まで全力を尽くす」ことは、大切な責任でもある。それを三平と同い年のベテラン守護神は心に刻んでいた。
「(得失点差で)突破は苦しいとなっても、この試合だけは勝ちたかったし、負けたくなかった。たくさんの方が来てくれた中で、そういう姿勢を見せたいと、みんなも思っていたはずです」(河田)
ACLは「幸せな」「また出たくなる」大会
GK河田はACL出場の立役者だ 【Photo by Masashi Hara/Getty Images】
思えば2022年10月16日の天皇杯決勝で三平が26分に先制点を決めていなければ、河田が延長後半のPKを止めていなければ、甲府はこの舞台に立っていなかった。二人はクラブとサポーターを長旅に連れ出した張本人でもある。小クラブは実績のない若手とベテランの二層構造となりがちだが、同学年、36歳の彼らは言うまでもなく後者側だ。若手がステップアップしていく中でもチームを守ってきた。
三平は試合を落とした悔しさをにじませつつ、こんなコメントを発してくれた。
「めちゃくちゃ幸せでしたよ。去年もこの大会を戦って、『こんなに面白いんだ』と思いました。国によってこんなにサッカーが違うんだというのも感じました。『J2の誇り』という横断幕出してくれた人たちもいましたし、その人たちのためにもっとやらなくちゃいけなかったとは思うんですけど……。でも本当に幸せでした。僕は年齢的に無理かもしれませんけど、若い子がまたヴァンフォーレをACLに連れてくれたらいいなと思います」
河田はこう振り返る。
「クセになる、もう1回出たくなる大会という達磨さん(吉田達磨監督/現徳島ヴォルティス)の言っていた意味が、今ならよく分かります。J2にいて厳しいですけど、みんな『もう1回出たい』という思いは強く持っていると思います」
甲府が与えた「夢」
試合後はマスコット「ヴァンくん」からも感謝のメッセージが送られた 【Photo by Masashi Hara/Getty Images】
「こういう舞台を、ファン・サポーター、サッカーをやっている子供たちに見せられました。こういう舞台に、J2の地方クラブでも立てることを証明しました。色んなクラブのサポーターが来てくれましたけれど、その方たちも『自分のチームでも行けるんじゃないか』と思ってもらえるようなことができたと思います。色々な夢を与えられたと思います」
もちろん甲府の歴史はまだまだ続いていく。J1昇格が目先の目標で、クラブが経営的に成長していくこと、新スタジアム建設の機運を高めることも重要だろう。ただACL出場は選手とクラブと山梨県民が「次の旅」を目指すきっかけになった。そして河田が言うように、今までACLとは縁がないと思われていたクラブのサポーターに夢を与える場にもなった。
アジアにある無数のプロサッカークラブの中で、ACLの旅を勝利で終えられるのは1チームのみ。J2クラブのベスト16は、クラブの立ち位置を考えれば、「ビッグクラブの優勝」より難易度が高い成果だろう。
改めて言う――。甲府は本当によく戦った。