スポーツナビの「公式情報」活用でPV爆増、全日本スキー連盟の新たなメディア戦略

スポーツナビ

全日本スキー連盟では現場のコーチがコンテンツをスポーツナビの『公式情報』に投稿するなど積極的な活用を展開している 【提供:全日本スキー連盟】

 ウィンタースポーツにスポットライトを――この強い思いをもとに全日本スキー連盟が昨年11月から新たに注力したメディア戦略。それが、スポーツナビがスポーツ競技団体(協会、リーグ、クラブなど)向けに開設している「公式情報」ページの積極的な活用だった。

 スポーツナビの「公式情報」は各団体がそれぞれのニーズに合わせて自らニュースや動画を入稿する、いわゆるオウンドメディアの形式をとっているのだが、全日本スキー連盟は各競技・種目チームのコーチが現場から直接オンタイムで記事・動画などを投稿。コンテンツ数は月間およそ200に上り、昨年12月の1カ月間で合計4400万PVを超えるという大成功を収めた。

 この取り組みや成果が高く評価され、さまざまなスポーツ団体の広報・PR・情報発信に焦点を当て表彰する『スポーツPRアワード2023』を受賞。施策の中心を担っている全日本スキー連盟マーケティングアドバイザーの山田大河さん、同マーケティングアドバイザー兼スノーボード・スロープスタイル/ビッグエア テクニカルコーチの稲村樹さんに「公式情報」活用の背景、経緯、今後の展望などについて話を聞いた。

現場が持っているコンテンツ、アセットの重要性

――本日はよろしくお願いします。さっそくですが、今回、全日本スキー連盟さんがスポーツナビの「スポーツ団体公式情報」、いわゆるオウンドメディアを活用して実施した施策の概要などについて教えていただけますか?

山田 全日本スキー連盟では各競技のチームから何かコンテンツを吸い上げるということをなかなか積極的に行うことができておらず、それまでは基本的に全日本スキー連盟のマーケティング担当の方たちなどがスポナビさんの公式情報を活用させていただいていました。ただ、スキー、スノーボードなどウィンタースポーツを広く多くの人に知ってもらうためには、やっぱり現場が持っているコンテンツ、アセットを使っていく必要があるのではないか。そういうところから、連盟のマーケティング担当の方たちが中心になり、僕たちがマネジメントする形で各競技チームに声をかけて、現場から映像コンテンツや試合の結果速報などを世に広めていく――そういうことをまず考えました。

――これまでより一層、スポナビ「公式情報」の活用に力を入れていこうと思ったわけですね。

山田 はい、現場からコンテンツを吸い上げるということは今までやろうとはしていましたが、 「じゃあ、大会があったらそのレポートを上げてください。写真を送ってください」と言っても、どうしてもコーチたちは選手のサポートの方がメインになるので、なかなかコンテンツに関することを能動的にやってもらうことはできませんでした。そこで今回、スポナビさんの「公式情報」のアカウントを現場の投稿者たちに渡して、もう現場から直接オンタイムで投稿してもらうことをマネジメントするようにしたところ、競技チームの皆さんもすごく積極的にやってくれるようになりました。今はそのあたりのところをもっと戦略的に、どうやって取り組んでいくかということを考えています。

 スポナビさんの「公式情報」を利用し始めたのは一昨年、年度で言うと2022-23シーズンからで、最初は連盟の事務局の担当者で1年やっていました。ですが、なかなか数字も伸びなかったということで、今シーズンから僕がマネジメントという形で携わらせていただくことになりました。

僕の役割としては、現場の各チームからコンテンツを吸い上げて、投稿は現場から直接してもらっているのですが、その部分に関するマネジメントです。具体的には投稿に関してこういうレギュレーションでやりましょうという周知だったり、かなり多くの方が投稿してくださっているので、こういう時はこういう形の文面や投稿にしたらいいですよというアドバイスとか、エラーが起きたときなど技術的なトラブルの対処。ほかにも多々ありますので、その辺りを僕の方でサポートしています。

あと、稲村と一緒に毎月レポーティングを行い、動画と記事でどれぐらいのPVがどのチームでありましたというところを周知しています。そこからどのようなコンテンツが良かったのかを分析し、皆さんに共有する。このような形で携わらせていただいています。

――コンテンツの作成・投稿に関して、現体制になったのはいつごろからでしょうか?

山田 2023年の11月からです。実際には10月からこの体制を試験的にはトライしていたのですが、この体制がうまくできて、では本格的にやりましょうとなったのは11月1日からですね。ちょうど今、1月のレポートを作成し終えて、これからまさに連盟のみなさんに展開するところでしたので、最初の3カ月が 終わったという状況です。

選手を強くするだけではない、もう一歩先のこと

――スポナビの「公式情報」を開始した当初はあまり結果が出ていなかったということでしたが、それでもなおもっと活用していこうと思った理由を教えてください。

山田 スポーツナビさんは、やっぱり日本のスポーツメディアとしては間違いなく1番大きいメディアだと思います。日本の中ではウィンタースポーツをうまく広められていない部分があり、もっともっと知ってもらえるタッチポイントがあっていいと思いますし、増やしていくべきだというところの議論の中から、ではスポナビさんをもっと活用してみましょうという結論になりました。

――なるほど、そのような背景があったのですね。各競技チームが直接コンテンツを投稿しているとのことですが、記事や動画を作成して投稿しているのはどなたになるのでしょうか。

山田 今回同席している稲村がまさにそうなのですが、例えば稲村のチームは稲村が作っていたり、現場のコーチの方々が作ってくださっていたりします。ただ、誰が作るかということに関しては各チームにその差配を任せていますね。

――現場からの直接投稿というのはコーチにとっては仕事が増えて、それが結構な負担になる部分もあるかと思います。今回の取り組みに関して、どのように現場に理解・納得してもらったのでしょうか。あるいは現場の方から積極的に投稿してもらえるような何かきっかけみたいなものがあったのでしょうか。

稲村 僕は今、スノーボード・スロープスタイルとビッグエアチームのコーチをしているのですが、僕たちのチームは世界的にも強い選手が多く在籍しており、世界のトップ10にほとんど日本人選手が揃うようなチームなんです。ただ、世界的にはすごく強いチームだし選手も有名なのですが、これが日本ではなかなか広まっていない、多くの人たちに見られてないというところにすごくヤキモキしていました。

もちろん、日本代表チームというものは、選手を強化し、オリンピックに導き、その活躍をサポートするということが第1条件だとは思うのですが、 そもそも全日本スキー連盟のような競技団体がスポーツをサポートしている意味というのは、選手を強くするだけではなく、その先にもう1個あると僕は思っているんです。例えば、そのスポーツの産業が盛り上がるとか、そのスポーツを通して健康を促進するなど、様々なプラスの面があると思っています。そう考えた時に、自分たちのチームは世界的にもかなり強いのに知られていないということは、 本質とはかけ離れたところにあるのかなと自分は思いました。それで、僕たちチームとして何とかしないといけないと思ってちょうど動いていたところでした。

ただ、今はSNSなどプラットフォームが色々たくさんありますけれど、例えば自分たちのチームだけがやっても、全日本スキー連盟の他の競技チームも含めて総体として盛り上がっていかないと意味ないよなという想いもありました。

そうした中、山田さんと色々と話をしていく中で、スポナビさんのオウンドメディアの取り組みを行うことで全チームが同じプラットフォームを通じて発信できるというのはすごく魅力的に感じましたし、ぜひこの取り組みをやっていきたいと思ったんです。

もちろん、やっぱり僕も現場の人間ですので、正直に言いますと選手をサポートする現場の仕事だけでもすごくしんどい。だけど、自分たちの目標というのはその一歩先にありますので、今回の取り組みに関して別の現場の方にお話させてもらった時に、やっぱりほとんどの人は「それ、やりたい」と。ただ、そうは思っていてもリソースが足りないというところもありますので、正直、全チームがここにコミットできているわけではないのですが、注力できるチームもありますので、今はそれができるチームでやらせてもらっているという段階です。

ウィンタースポーツを象徴していると感じたモーグルの動画記事

――コンテンツを出すにあたって、初期と比べて工夫してきた点などありましたら教えていただけますか。

稲村 はい。今も手探りなんですけど、僕が他の競技を見る時にはその選手がどういう人なんだろうとか、顔の表情、その選手が着ているものとか、そういったところに最初に目が行くなと思ったんです。なので、僕たちがコンテンツを作る際にもなるべく選手の表情だったり、滑りだけじゃなくて一般の人でも分かりやすくて、興味を引きやすいもの――例えば、その選手の喋っている動画だったり、スノーボードですとなかなか撮影が難しいんですけど一緒に滑りながらの撮影だったり、あと今はGoProとかが使用できますので目線のアングルの映像とか。これは動画、SNSも含めてなのですが、そういったものを組み合わせて、色々トライしているという最中です。ただ、まだ最適解というものは自分たちで見つけられていないので、今は試行錯誤しながらやっているというところですね。

――様々なコンテンツを出してきた中で印象に残っている記事・動画、あるいはインパクトのある数字をたたき出したものがありましたら教えてください。

山田 昨年の12月8日に投稿した『【スキー】迫力満点!女子モーグル選手と並走で捉えたダイナミックな滑り』。あの動画記事が一番インパクトあったのかなと思っていまして、僕たちのウィンタースポーツを象徴しているのかなという感じがしています。

ウィンタースポーツって、非現実的な目線が多いんです。通常の生活ではあり得ないような高さから飛んでみたり、回ったりします。あの動画はスキー・モーグルの選手目線で撮っている映像なのですが、他のスポーツや競技ではあまり考えられないようなアングル、目線なので、これは非常に僕たちのウィンタースポーツを象徴しているコンテンツなのかなと思っていました。また、おかげさまで我々の中でもPVが非常に大きいものになりましたので、この動画はすごく印象的だったなと思っています。
――これを機会に改めてスキー連盟さんがアップしたモーグルの動画や記事を多くの方に見ていただきたいですね。それでは逆に、先ほど稲村さんからはまだ試行錯誤の段階ですというお話をいただきましたが、今回の取り組みの中でここはまだちょっと難しいな、課題だなと感じていらっしゃる点などはありますか。

山田 そうですね。現場各チームのコーチの方たちは毎日競技を見ているので、それこそ今説明したようなすごい速度でジャンプしたり、すごいスピードで滑っていたり、すごい回っていることがある種、普通になっている部分があります。世界のトップ3にガンガン入るような選手たちを毎日見ているので、僕や一般の方たちが見ればすごく魅力的で、それを映像コンテンツにするだけで非常に注目度も高くて訴求力あるものになっているにもかかわらず、やっぱりそれが現場では当たり前になりすぎている。その“目線”というものを現場の方にうまく伝えきれていない部分があるんじゃないかなというのは、非常に感じているところです。

また、僕らも全部の競技を常に見ているわけではないので、たまに上がってくる映像コンテンツを見て、例えばもうちょっと近いアングルだったらすごく迫力あるのになとか、あるいは選手紹介の動画とかを流してくれるチームさんもいらっしゃるのですが、その中でちょっとだけ出てくる映像とかがすごく魅力的だったりするんです。むしろそこだけでもすごい魅力なんだけどな、というようなところをいかに現場の記事や動画を作成してくださっている人に伝えていくのかというところが今の課題かなと思っています。

――ちなみに、スポナビではヒットしたけどSNSでは反応がイマイチだった、あるいはその逆のパターンだった投稿やコンテンツなどはあったりしましたか?

稲村 僕が特に思ったのは、フォーマルな情報と言いますか、誰々が勝ちました、何位でしたというような公式情報、大会速報みたいなところはSNSでは発信が早ければもちろんヒットするんですけど、誰々が大会に出ますという情報はSNSでは全くヒットしないですね。でも、そういう誰々が大会に出ますという情報だけでもスポナビさんの場合はヒットしたりします。動画に関しても、SNSだと結構凝ったものを出さないとヒットしなかったりするのですが、スポナビさんのオウンドメディアですと気軽に撮ったものがすごくヒットしたり、逆にすごい凝ったものを作っても全然ヒットしないじゃんみたいな(笑)。自分たちがかっこいいと思ってすごく編集とかこだわってやっているんですけど、そういった違いを感じることはありますね。

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