青森山田、戦い方に表れていた強さの背景 鍛えた心と体が「技」を生み出すサッカーとは?

平野貴也

最多優勝校をほうふつとさせる、強気の状況判断

10番を背負う芝田の発言が物語るような、相手に合わせない強気の判断が好結果につながった 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 現代サッカーは組織化され、とかく布陣や戦術が注目される。効率化が求められ、当然ながら状況判断は大事になる。しかし、判断にはメンタルが大きく作用する。MF芝田は、決勝の試合後にこう振り返っていた。

「1年間、プレミアで様々なチームとやってきたけど、相手のやり方に合わせて戦おうとしたときは、あまり上手くいかなかった。自分たちの強度でやれば(相手の方法を)潰せる!という思考でやったときの方が良かった。だから、試合前から『相手に何もやらせないのがオレらだよね? それができないなら(個の強度を)もっと上げよう。(チームとして)引くことはしない。青森山田でのラストの試合で、引いて守って1-0で勝ちました? そんなの望んでいないよね。90分(強気で積極的に)行って終わろうぜ』と話していました」

 話を聞いていて、以前の取材で耳にした別のコメントが脳裏に蘇った。選手権では過去最多となる6回の優勝を誇る国見(長崎)のOBで、3年連続で選手権の決勝に立った経験を持つ中村北斗さん(アビスパ福岡、FC東京、大宮アルディージャなどでプレー)の言葉だ。

「最近は、チャレンジ&カバー(守備では1人の相手に2人で対応する)とか言うけど、国見にはなかった。1人が抜かれたら、もう1人? いや、抜かれるなよって話でしょう」

 個の力不足を補う戦術を求めるのでなく、個の力が求められる戦術に挑む思考は、共通する。

技術を発揮し続けるために鍛えられた心と体

得点王に輝いた米谷をはじめ、前線にはタフに技術を発揮し続ける選手がそろっていた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 青森山田の守備と言えば、強気でガツガツと潰しに行き、球際で競り勝つ姿が印象的だ。伝統の練習メニューの一つに「雪中サッカー」がある。狭いエリアに複数のボールを投じ、球際のコンタクトが連続で起きる。雪に足を取られながら、相手と激しく競り続けるミニゲームだ。

 他チームの指導者は「それ、サッカー上手くなるんですか?」と言う。確かに技術を磨く練習ではない。しかし、それはどんな相手でも、苦境でも、連戦でも、強気に技術を発揮し続けられる選手の土台となっている。ボールを奪う技術を、どんな相手に対しても、連続して発揮し続けられるのが、青森山田の守備だ。

 攻撃でもカウンターの走力は印象に残るが、実はボランチの芝田も含めて小柄で技術を武器にするタイプが多い。何度も仕掛けられる両サイドMF、常に味方と連係し続けるトップ下と人材揃いだが、スピードやパワー、高さで圧倒するタイプではない。

 彼らの攻撃は、タフに技術を発揮する「継続力」で成り立っている。得点王となったFW米谷壮史(3年)も、サイドに走ってボールを受け、味方を待つのではなく、そのまま果敢に中央へ仕掛け続けることで脅威となった。

 MF芝田は「自分たちの代は、市立船橋(千葉)みたいに、自分たちがフィジカル的に劣勢になるチームに手を焼いてきた。でも、世間一般的には、青森山田はフィジカルのチームらしい……。決勝を見て、少し、そういう(青森山田はフィジカル頼みという)気持ちが変わっていたら嬉しいです」と話した。

 だからこそ彼らは屈強な高校、圧倒的なスキルを持つJユースを退け、全国2冠を勝ち取った。青森山田はどこよりも、勝利に近付くための「タフネスを備えた技術」を持っていた。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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